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第1話 ―生きていくのが我が人生―



―成り立ち


異世界転生、それは俺にとって、ある意味では全てが真新しい第二の人生だった。なにせ、この世界はまるで西洋の中世時代をそっくりそのまま反映させたような世界だったからだ。もっとも、俺がこの世界を異世界だと認識したのは、生まれた直後ではない。物心がつき、ある程度の土地勘を得た頃になって、ようやく自分が異世界にいるのだと理解した。



俺は貧しい辺境の村、その農家の末っ子としてこの世に生を受けた。


兄弟は全部で八人。


家では小麦を主に耕しており、この辺りではどこにでもある、ごくありふれた農家だった。暮らしは貧しく、一年を通して農作業に追われ、収穫の時期になれば育てた小麦の一部を領主へ納める。そして、残った作物で冬を凌ぐ。やがて冬が終わり、春が訪れ、それでまた皆で農作業を始める。


そんな生活だった。



長男である兄が結婚し、親父の跡を継いだ。次男、三男も無事に伴侶に恵まれ、長男を支えるべく家に残った。姉さん達は皆若いうちに結婚し、それぞれ新たな家族のもとへ嫁いでいく。そして、一番仲の良かった七男の兄さんは、新たな開拓地を目指して村を出て行った。


そうして家族が一人、また一人と巣立っていく中、成人を迎えた俺にも、ついにその時が来た。最初は村を出た兄を追って、そこで暮らそうとも考えた。


だが、親父は俺にここに残って畑を耕せと言った。



俺も特に反対する理由はなかったので、村に残ることにした。村の人達も、独り身の俺が残ることを温かく迎え入れてくれた。それどころか、俺が暮らすための家を建てるのまで手伝ってくれた。


実にありがたい話である。


たが――


その家が建てられた場所は、森の入り口とも言える鬱蒼とした場所だった。


木々に囲まれているせいで日当たりも悪い。


しかも、いざ畑を作ろうとすると、森から伸びた樹木の根が地面を縦横無尽に這い回っている。


正直、ここで畑を耕すのは、不可能に近かった。



「まぁ、良い嫁さんさえ来てくれりゃ、お前さんも立派な一人前になるさ」



そんな事を言って貰えるが、もうこの村では、それは望めそうもない。それは、兄さんがこの村を出た一因にもなっていた。ではこの状況は、父の俺に対する嫌がらせか? なんて疑ってしまいそうなものだが、実はその逆だった。父は、ある理由から俺を傍に置いておきたかったのかもしれない。



それは、全ての世界に共通する概念――

生存戦術サバイバルである。



前の世界では自然と対峙し、その身体一つで生き延びるという生き方に憧れていた。動画で得た知識を見様見真似で実践したり、何も持たず山の中で一晩を過ごしたり。そんな経験はこちらの世界に来てからも、意外なところで役に立った。


時には一家の窮地を救うことさえあった。


母は俺を褒めてくれたし兄弟たちも、いつしか俺のことを認めてくれるようになった。だが、父だけは最後まで、


「子供の遊びだ」


と言って認めてくれなかった。


そんな父が、俺を村に残した。


そして、わざわざ森の際の、畑には向かない土地まで与えた。考えてみればおかしな話である。だが、その理由を考えれば、俺には一つしか思い浮かばなかった。父は俺のサバイバルの知識を、誰よりも必要としていたのではないだろうか。この村には、俺が思っている以上に自然の中で生きるための知識が必要なのかもしれない。




―職業



さて、どうしたものか。



農業の経験はあるし、一人で何とかやっていく自信もある。……というのは、実はそれ以前の問題だった。自立したという事は、当然ながら俺にも納税が発生する。この畑で収穫した作物の一部を、領主へ納めなければならないのだ。現実は刻一刻と、「働かざる者、食うべからず」という圧力をかけてくる。はっきり言って、食う事そのものには何の問題もない。野山に入れば食えるものは何とかなるし、今まで培ってきたサバイバルの知識もある。


だが、金も収穫物も、この畑からは期待できない。


そもそも、この世界では職業を自由に選ぶ以前に、税を納められなければ農家と名乗る事さえ叶わないのだ。世知辛い。


「まぁ、食うだけならサバイバルで何とかなるとして……」


問題は、やっぱり職業だった。

俺はしばらく考え込んだ。

そして、ふと気が付いた。


「そうか」


だったら、このサバイバル術を生かせる仕事をすればいい。農家を名乗る事が許されないなら、別の仕事を探せばいい。




この世界では、どのように税を納めるかによって職業が決まってくる。そういう意味では、職業選択の自由はあると言っても良いのかもしれない。農家に生まれたからといって、必ず農民になるわけではない。まぁ、兄さんたちのように、普通は皆、親の職業を引き継ぐものだ。一から新しいことを始めるより、その方がはるかに楽だし、何より貧しくては他の技能を学ぶ機会もない。


そういうわけだから、この世界でも地方にいる者は、そのほとんどが農民ばかりである。


生きるために重要な食料を生み出す農民の身分が低いのは、それだけ人が多く、そして貧しく、権力に支配されているからだ。


この構造は、前の世界にも似ている。


結局、それが楽で最善だからと、そこから抜け出せないままでいる限り、人より上に立つことなどできない。



皆が等しく同じように生きることを「調和」と考えるのか。

それとも、現状に不満を持って、一か八かの賭けに出るのか。


あるいは、皆を少しずつ楽にするために、自分が一歩前に出て、それを実現しようとするのか。


手段はいくらでもあるのかもしれない。


そう考えていると、それぞれの主張や主義というものが、まるで両極の間を上下する単純な調整スライドのように思えてくる。


そうなると、一番中間にある状態こそが、本当の意味での「平等」ということになるのだろうか。


……いや、それも違うな。


そこに固定したところで、きっと別の問題が起きる。


恐らく正解なんてものはなくて、その調整スライドが、その時々の需要に従って常に自由に動き回っている状態こそが、一番自然なのだろう。


……おっと、いかんいかん。


ついつい脱線してしまったな。



―〇〇〇になる



こんな貧しい村だが、何故か教会と冒険者ギルドは存在していた。理由は国がそれらを推奨し、広く分布させたからだ。そういう訳で、俺は冒険者ギルドへ向かうことにする。



さっそく冒険者ギルドに着き、自分が得意とする職を探す。


俺はどう見ても狩人が適任な訳だが。


狩人:弓の扱いに長け、山や森で獣を狩り、その肉や毛皮などを売って生計を立てる者。


・・・弓、それは確かに、サバイバーにとってもっとも自然かつ、扱えると映える武器ではある。実際、俺は何度も弓を作り、そして試したこともある。それを踏まえて言うなら、俺には致命的に弓のセンスが無かった。それどころか投てきも下手くそで、スリングで獲物を狩るなど、破壊的非生産行為に等しいとさえ感じている。


「弓、扱えないと狩人は無理だね」


馴染みのギルドのおじさんが、目を細めて俺を見る。


まぁ、ここには彼一人しかいないので、彼がギルドマスターなのだろう。


さっさと諦め、他の職業を探す。


しかし、野草採取、罠師、猟師、サバイバル士なんて職業は見当たらない。


あるのは 戦士、モンク、狩人、魔法使い、神官。


……これだけしかない。


いや、もっと色々あるんじゃないのか?


そう訴えたくなるほど、シンプルイズベストに収まっている。


とはいえ、

戦士の条件は武器の扱いに長け、身を守る鎧を装備する者。つまり、武器も防具も事前に揃えられる財力を持っていなければ、その前提にすら立てない。



魔法使いは当然ながら魔法を扱えること。


神官も、神の力で傷を癒せる者。


どちらも、この村には絶対に存在しないであろう職ばかりである。


そもそも魔法なんて見たことがない。


教会の神父は薬草を調合して傷の処方をしている。それを何となく奇跡なんだと解釈していたが、まさかここに来て薬草の知識が必要になるとは……。


可食か不可食かの判別なら誰にも負けない。


だが、その効能となると、さすがに知り得ない。


「……万事休すか」


膝が崩れ、いよいよ己の進路を見直さなければならないと思った、その時だった。


おじさんが、とある職業を指差した。


「モンク、やってみたら?」




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