第34話 ―読まなかったら、分かるよね?
―金が、ない
「はぁあぁぁ…腹がへった…」
ついに念願の家を建てることができたものの、しばらく仕事を疎かにしていたせいで、手持ちの銭が尽きてしまった…。つーか、爺さんがあの金くれたら何もかも全て解決するのに。
「畜生…恨むぜ爺さん、家作れたことには感謝するけどさぁ」
あー…これ以上恨み節を言っても仕方ない。
俺は、とりあえず仕事を求めて冒険者ギルドへ顔を出す事にした。
―――しばらくぶりの冒険者ギルド
「あ、いらっしゃ…あ、久しぶりーしばらく見ないからもう野垂れ死んだかと思ってましたよー」
久々に会った人に対する挨拶がそれかい。ヤマナさんは、やっぱり相変わらずヤマナさんだな。
「はぁ、まぁこっちはこっちで色々あったんですよ。それより樹皮クエストあるでしょ?マジで金無いし、ちゃちゃっとこなしてくるんで、受付お願い」
「あー…それなんですけど実は―――」
「‥‥はぁああ!?樹皮クエストが終わったぁあ!?」
「はい、請負元のナジーム工房の方がもうこっちに仕事を回さなくても何とかなるという事で…あはは、仕事なくなっちゃいましたねぇ」
なくなっちゃいましたねぇじゃねぇよ!!
いや、マジで今後どうすればいい?
俺の唯一の稼ぎが・・・てか、なんで爺さんは樹皮採集のクエストを取り下げているんだよ!!俺の仕事がなくなっちゃうじゃねぇか!
「嘘だろ…俺この先どうやって生きれば…あ、でもそうだ、またあの桶を売って…でも、今思い返してみたらそもそも全く売れてなかった気も…」
「やだなぁ、なにブツブツ呟いているんですか~気持ちわるーい」
「よし、決めた」
「ん?どうしたんですか?」
「いや、もう金輪際働くのやめる、爺さんに一生たかって生きる事にする」
「・・・うわぁ、とうとうそこまで落ちちゃいましたか」
「元はと言えば爺さんが俺の仕事を奪ったからだろ!!俺には爺さんに生活費を要求する権利があるはずだ!!」
「ありませんよそんなもの…ゴロツキと違いありませんってそれ」
「んなぁこたぁない!!まぁ百歩譲って仕事の紹介先ぐらいは見つけて貰わないと、俺の未来がお先真っ暗すぎる!」
「まぁ、どうでもいいですけど、それより今回は何があったんですかぁ?」
・・・さらっと流して、しれっとネタを漁ろうとするヤマナさんはやっぱりヤマナさんである。だが、さすがに人の人生をどうでもいいとか言うのは良くないと思う。そういう訳なので、俺も今回ばかりはうっかり雑談モードに入る事を頑なに拒否する。
「どーでもいいんだったら俺ももうここには用はないっすけどねぇ!ほいじゃまた。もう二度と来ることもないでしょう」
「えー…そんなこと言わないでくださいようぅ、寂しいじゃないですかー」
ケッ、これっぽっちも思ってもいない事をぬけぬけと。
というか、あなたさっき俺の事、野垂れ死んでいたとか言ってませんでした?
「僕はもうダマサレナイ!僕はもう学習したんだ!ヤマナさんが人の話を肴にしておやつを貪り食っているだけのかしまし娘だってことを!」
「あ、そういえばーなんか前から思ってたんですけどなんかいつもの減りが異様に早くなくなる事があったんですよね」
ぎ、ぎくぅ!!!
「ははは、ヤマナさん普段から食べすぎなんですよ…まぁ太らないから良いんでしょうけど」
「・・・・・・盗ったでしょ?」
「いやいや、そんな、そんなおやつなんて取ったりしませんって」
「あれー私一言もおやつだなんて言ってませんよ?」
「え、いや言いましたよ、まぁでもほら…証拠がないし、証拠が無いとなぁー言いがかりだけで人を疑うとかぁ良くないよなぁー!」
泳いだ目でヤマナさんを見ると、いつも以上に…静かな程にニッコリ顔になっている。
あ、ヤバイこれ相当キレてる時の顔だ。
「・・・私って一応これでもギルドの受付嬢じゃないですかー」
「はい」
「つまり、ギルドにおけるクエストの請負や受付、その他もろもろの諸経費にかかる全ての雑務も、わーたーしが、やっているんですが」
ヤマナさんは誇らしげにバンバンと自分の胸を叩く。
「そんな私が一番重要なおやつの管理を疎かにすると思います?」
「………」
「今まで自分が口にして、食べ散らかした全てのおやつはこうやってしっかりと経費で落とす為に書類に書き残してある…あっれーおかしいなぁ…なぜだろうなぁ、この日とかこの日、どうしてだかおやつの数が合わないんですよねぇ」
おやつを経費で落とすな!
おっと、いかん。面倒になる前にさっさと逃げよう。
俺はヤマナさんが帳簿に集中している隙に無言でその場を立ち去ろうとした。
そして、素早くギルドの玄関口を開けると……。
「やっぱりこの日、ギルドに出入りしていたのは…アナタしか居ないんですよねぇ…?」
「ぎゃああああああ!!!なんでいつの間にかギルドの外にいるんだあああああ!!!」
ヤマナさんがギルドの外へ瞬間移動していたので思わず大人の尊厳をちびりそうになる。そして、足音も無く俺の顔の数センチ前までニッコリと微笑んだヤマナスマイルが迫ってくる。
「・・・証拠、ありましたねぇ♪」
「もう許してください」
「うん、話は中でじっくり聞こうか―」
―根掘り葉掘り吐かされて
「あははははは!!!ひっひっひひひひ!!!ぶっふーぷぷぷぷぷ!!!」
今回はいつにも増してヤマナさんの笑いが止まらない。俺はただ今まで起きた事を隠し通さず全て話しただけなのに。
「そ、そっれで中心街の一等地に…犬小屋って…ああ、もうダメだ笑いすぎて腹が、捩れちゃう‥‥アハハハハ!!!」
「犬小屋じゃねぇ!!!もうちょっとうまくできると思ったんだよおおお!!」
「それはナジーム爺さんもさぞお怒りでしょうって…勝手に犬小屋建てちゃダメですよー」
「だから犬小屋っじゃねぇって言ってるだろ!!」
「まぁ、それはそうと…あと気になったのが『漫画』ってやつですねぇ。何なんですかそれ?」
漫画が何なのだ?…と言われると、まぁ説明できるけど言葉だとイマイチこっちもイメージに欠けると言うか…。
「あ、そうだ」
「はい?」
俺は言葉にするよりも先に手を動かす事にした。受付の前にあったメモ紙を一枚拝借し、誰にでも見て分かるような4コマ漫画を即席で書こうと思ったのだ。色々とオチを練ってる際に「それ有料ですよ」というヤマナさんの小言がうるさいが何とか4コマ漫画を完成させる事ができた。
「よし!!ヤマナさん漫画ってこういうやつだよ!!」
それは、なかなかの傑作だった。
絵柄こそハリガネ人間だが、1コマでハリガネがてくてくと歩いている。2コマでなぜかこける。3コマでなぜか大きな穴に落ち4コマで美女を取り囲むハーレムが形成されて完成。
起承転結もしっかり押さえた申し分ない4コマ漫画が完成した。
「・・・・・・なにこれ」
「いや、ほら、だから歩いて転んで落ちてハーレム!…これは4コマ漫画って言うんだけど起・承・転・結。つまり、何かが起きてそれを受け止め、さらにハプニングが起き、最後にオチをつける。と言う法則を元に面白くオチを描くのがポイントだよね」
「へぇ…でもなんで最後がハーレムなんです?これってアナタの願望ですよね?」
「あと絵がすっごく下手くそ…こんな落書きで貴重な紙を無駄にされると、何だか見ていてすごくイライラしてきた」
「そこまで言うならヤマナさんも描いてみろよ!!面白いやつをよおお!!!」
と、紙を突き返したが、ヤマナさんは無言でそれを受け取ると黙々と4コマ漫画を描き始めた。
「って、こんな感じですよね?」
・・・・・・・・・俺はその時、心底驚愕した。
そこにあったのは、紛れもなく漫画そのものだった。
受付嬢の女の子が1コマ目でニコニコと接客をしている。2コマ目でイカつい男が「君が欲しい」と耳元で囁く。3コマ目で男に強烈な顔面パンチが歯茎にめり込むまで精密に描かれ、4コマ目には1コマ目に戻っている。
・・・さらに驚くべき事に、ヤマナさんはその時点で集中線やドガァ!ボキィ!!などと言ったオノマトペまで完璧に使いこなしていた事だ。
「すごい…マジで天才すぎる」
「うふふ、そうですー?でも、私こういうの前から結構描いてたんですよね」
そう言うと、ヤマナさんは奥から色んな書類を引き出すと、その裏をめくって数々の作品を披露してくれた。あえて書類の裏に漫画を描くと言う暴挙はスルーするとしても、どれもこれも中々に面白いオチがついたものばかり。
・・・でも、その殆どがムカつく訪問客をヤマナさんが一方的にボコるというオチになっている。その中に明らかに俺とおぼしき人物もいるのだけど、きっと気のせいだろう。
「ヤマナさん!これこそ4コマ漫画ですよ。こういう作品にタイトルつけて、新聞の隅にでも描くと、文字疲れの良い箸休めになるというか」
「ハシヤスメ・・・?」
「いや、まあ文字だらけのところにコミカルな漫画があると息抜きになるんですよ!ヤマナさんの作品はきっとウケますよ」
「ふーーん、でも新聞社にコネなんてないしなぁ…」
「ほぅ…何をしていたかと思えば貴重な書類にこんな落書きを」
気づけばギルドマスターのヴァルターさんがヤマナさんの漫画を見ていた。
「あ、それは……」
「・・・・・・これは?」
「あ、ああーいやだなぁ!私は、私はですよー?そんな書類の裏に描くなんてやっぱりダメなんじゃないかなぁと思ってましたよ?でも、才能あるから練習するべきだって言うからぁー・・・」
そう言うと悪戯気のある目をこちらに送ってくる。
「いやいやいや、おいおいおいおい!」
言う事かいてなに人のせいにしようとしてるのこの人!!
「しかしこういう事は困りますので、今後はおやめくださいね、二人とも」
「はぁい、すみません…」
「はぁ…えっ?すみ…ません?」
なんで俺も謝っているの?
「それは、そうと確かに作品自体は面白いものばかりですね」
「きゃー!!ギルマスも分かって頂けるんですか?」
「ええ、それと先ほどの話ですが、新聞の事なら知り合いがいるので、彼に相談してみましょう」
「えっ!?やった!本当ですかー!」
「ええ、なかなか話の分かる男なので、気に入ると思いますよ」
「わーい!副収入副収入♪」
「・・・ですから、ギルドの仕事はもう少ししっかりやるように」
・・・ヴァルターさんも大変だよな。
ヤマナさんを手名付けるのは一苦労どころじゃ済まないわ。
「あ、そうだ、新聞に売り込むんだったら名前も考えないと」
「ん?名前?ヤマナ・ターニャじゃダメなんですか?」
「ダメじゃないけど、大体こういう漫画家ってのはペンネームを使うんですよ。まぁ作家名というか、あだ名というか、本名だとありふれた名前の場合は被ったりするし」
「ナルホド・・・ペンネームですか…あ!!」
何かを閃いたようにポンッと手を打つと、紙に文字を書き始める。
「私のペンネームこれでどうです!?」
その紙には…
ヨマナカッタラ(・¥・)ワカルヨネ?
と書かれている…。
「これで人々は恐怖におびえながら私の作品を褒めたたえなければならないという」
「ペンネームに圧をかけるな圧を!!!」
そんな感じで、俺は結局何の糧を得る事もないままギルドを後にする事に。だがまぁ、ヤマナさんの漫画家としての才能が開花していた事には驚かされた。丁度、ホラレイゾン氏にも「それを描くやつはいるんか」って言われたばかりだし、もしかするとこれを機に本当に漫画がこの世界に普及するかもしれない。人間というのは大抵暇な生き物な訳だし、漫画はその暇つぶしに最適な娯楽としてきっと人々を楽しませてくれるに違いない。
「はぁあぁぁ…腹がへった…」
とは言え、娯楽で腹は膨らんでくれるはずもなく。
さて、少しばかり野に出て食べれそうな雑草を取りに行こうとしたその時だった。
「あーいたいた!ってギルドから全然離れてないし、何してたんですか?」
「あれヤマナさん?まだ何か用ですか?」
「むふふーさっきのお礼じゃないけど、はいこれ、どうぞ」
そう言うとヤマナさんはお菓子の入った袋を俺に差し出してきた。
「うおおおおおお!!!なんとありがたき幸せの極み!!!」
俺はヤマナさんに最大限の謝意を述べ、その袋を受け取ろうとしたがまたしても上にあげられる。
「それはもうええんじゃボケェェェェ!!!」
「いやいや、はい、どーぞ」
そう言うとヤマナさんはその袋からお菓子を一つ取り出し、俺の手のひらにそっと置いた。
「もうー盗ったりしちゃダメですよ?」
「あれ?お礼は?お・れ・い?」
これが4コマ漫画のオチなら俺はきっとヤマナさんにバックドロップをかましている事だろう・・・クソ・・・ぐぬぬ・・・お礼を言うべきだけどお礼を言いたくねぇ。
「あり…がとう…ござぁいます」
「よく言えましたーこれで貸し一つ追加ですね」
「‥‥‥ソッスネ」
「じゃー面白い話があったらまた来てくださいねー?」
ヤマナさんが去った後、俺はすぐにでも貰ったお菓子を地面に叩きつけ、粉々に踏みつぶしたい衝動を・・・・・・それを口へと運んだ。
「あれ…このおかし甘いはずなのになぜかしょっぱいぜ」
そして俺は。泣きながら食べれる野草を探しにいったのだ。




