第33話 ―夢にまで見たマイホーム
第33話 ―夢にまで見たマイホーム
結局、前回は俺の金なのに何故か使えない、と言う史上最悪のお預けを食らった。そういえば、子供の頃に皆お年玉をもらい、ウハウハな気分で舞い上がっている時に‥‥
―――このお年玉は、お母さんがちゃーんと預かっておきます―――
というなにがちゃんとなのか分からない謎の理論で全てのお年玉を巻き上げられた時の記憶が脳裏をかすめて余計に悔しい気持ちにさせられた…。
ちなみに、その当時の俺のお年玉は、生活費という名目で全て泡になったかな。いや、500円ぐらいは回収したであろうか。
まぁそんな訳で、非常にとてもとても悔しくて仕方ないので、俺はとにかく食い下がった。それはもう、周りから「必死だなwww」と突っ込まれそうな程に食い下がった。俺は別に好きで野宿してる訳ちゃうねんそりゃもう必死の巣之介よ。
「おぬしもしつこいのう…しつこい男は嫌われるぞい?」
「せめて、明日のご飯代ぐらい手持ちに持っててもいいじゃんかようう!!!」
「ふぉっふぉっふぉ…それは別に構わんが、金貨を崩すのがしこたまめんどくさいのでダメじゃ」
「このろくでなし!!鬼!悪魔!…せめて、せめて…」
「・・・そうだ、爺さん!せめて、家を建てる金だけでも頼むよ!もうこれ以上野宿してヤマナさんに馬鹿扱いされるのはもう嫌なんだよ!!」
「・・・馬鹿にされている理由はそこじゃないと思うのだが…それは全く問題ないぞい」
「ほ、本当か!?またあげるとか言って家をあげたとか言うんじゃないだろうな??」
「家はさすがに片手で持ち上げれないぞい…」
「やったーーー!!!夢にまでみたマイホームだぁああ!!」
「それで…どこに家を建てるつもりなんじゃ?」
そうだ、家を一体何処へ建てるのか。それはとても重大な問題である。前にヤマナさんに聞いた話だと、土地は国のものだから、国民ならどこへ家を建てようが基本的には自由らしい。ただし、何かあっても国は知らん、全て自己責任でよろしく、という感じだったはず。
つまり、安易に治安の悪い場所に建てようものなら建てた瞬間から空き巣に入られても文句は言えないと言うわけで…。でも、逆に言えば中心街のような一等地に家を建てることが出来ればそれはもう一生安泰な暮らしが約束されている訳で……。
ん?
およよよよ?
俺、思いついちゃったかもしれない。
「爺さん、家を建てる場所なんだけどさ…このナジーム商館の敷地内に建てるというのは……」
「全く問題ないぞい、なにせ庭は程よく広くて余っとるぐらいだしのぅ」
「マジか!?それなら木材もそっちで用意してくれるとか!??」
「そりゃもちろんじゃ。お前さんがワシの近くに住んでくれるのはこっちとしてもありがたい限りじゃからなぁ」
「それではさっそく建築屋に声をかけて、家を建てるぞ」
「ちょっと待ったぁ!!」
「ん?」
「こう見えても、昔、家を建てる手伝いはしたことがあるんだよ」
「ほうほう?」
「だから爺さんはとりあえず俺が欲しいだけの木材さえ調達して貰えればあとはこっちで勝手に建てちゃうからさ♪」
「・・・まぁ、分かってるとは思うが、いくら敷地があるとは言っても商館のど真ん中に建てるとかいうのはナシじゃぞ?極力目立たぬようにな」
「任せろって!!よし、そうと決まればさっそく図面を書き出しだぁ!!」
―それから数時間経過。
「ふんーふふふーんふっふふーん♪」
ただいま『おれのかんがえたさいきょうのいえ』の図面を考え中である。とにかく、シンプル・イズ・ザ・ベストだが、その中にも合理性と利便性を兼ね備えた完璧な家づくりを目指さねばならない。そう考えるなら風呂とトイレは一緒のユニットバスが好ましいが、この世界でそんなものを実装したら
お風呂に入る度にトイレの悪臭を纏いかねないので却下。まぁ、トイレは無難に外がいいな。いや、それなら風呂も外がいいか…調理場は…まぁ料理しないしイラネ。
そうしているうちにいよいよ図面の方が完成した。
・・・・・・うん、思っていたのとは少しばかり違うが、大体イメージ通りに描けたと思う。この図面でもっとも褒めるべきところがあるとすれば、それは足をまっすぐ広げて寝れるスペースとしっかりと枕も用意している所、あとは何よりも雨風を凌げる屋根があるというのが何とも文明的で素敵だと思っている。
と、いう訳で俺は早速その図面を片手にナジーム爺の承諾を得る事に…。
「爺さん、図面…できたぜ」
「うんむ‥‥‥…‥‥…ふぉっふぉっふぉ、なるほどのう、よくできた豚小屋じゃのう」
「豚小屋じゃねぇよ!!失礼だな!!!」
「・・・うんむ。んで…本当にコレを作るつもりなのかのぅ?」
「いやまぁ…確かに図面はちょっとアレかもしれないけど、ちゃんと原型はしっかりとココに入ってますから」
俺はそう言って、自分の頭を指で軽く叩く。
「・・・まぁそれなら別に構わんが…じゃあ木材はそこまで要らんかのう?」
「そうだね、まぁこの図面持って行っていいし、図面を見せながら木材屋さんと決めてよ」
「えっ?お前さんワシにこの図面で見積もりさせるつもりなの?」
「うん、大丈夫大丈夫、向こうもプロだからしっかり計算してくれるって!」
俺は自信満々で爺さんにガッツポーズをしてみせた。
さぁ、これで後は組み立てるだけだ。
楽勝、楽しよう!
――それからさらに数日後…。
そして、ようやく待ちに待った木材が届く。
ああ…新品の木の香りがする。
これがヒノキの香りってやつかぁ‥‥(違います)
さて、この作品をしっかり読んでいる人なら知ってると思うが、俺は過去に村を再建すべく、家づくりを手伝ったことがある。基本的には、まず地面に穴を掘り、基礎を組んで柱を立てる。そこから木材で骨組みを完成させ、最後に板で壁を作れば完成だ。
では、早速土を掘りまくって土台となる基礎を作っていく。これがかなりの重労働なのだが、今まさに自分のマイホームを作っていると思うとドーパミンがドパドパと出て疲労がハイで麻痺していく。
「あれ…なんか思った以上に細長くなったな。まぁ、いっか」
まぁちょっと棺桶サイズっぽいけど、何とかなるやろ。
次は掘った基礎に合わせて柱をいくつか立てていく。
適当に長さを合わせ、必要な数に合わせて木材を切断。掘った穴の深さがどれだけ必要だったか覚えてないけど、まぁええやろ。
「んー……ちょっと、なんか柱が異様に短い気もするが…まぁ、えっか」
さぁここまでこれば次は骨組み。ここは特に重要なので念入りにしっかりと
組み立てたい所。しかし、ここで問題が・・・‥‥。
「・・・・・・・・・圧倒的に木材足りて無くねこれ」
そう、このままの設計で木材を使おうものなら最終の仕上げである壁どころか骨組みの段階で木材を使い切ってしまう事が発覚した。
と、いう訳で仕方なしに骨組みをとりあえず、ぐらぐらしなければ良い程度まで簡素にする。まぁ王都は気候は穏やかで風もそこまで強くないし、大丈夫やろ。
「うーん……なんともスッカスカな骨組みになってもうたけど、もう、いっか」
諸君、何事に置いても資源は有限だという事を忘れてはならない。無から有はけして生み出せないのだ。したがってこういう時はある物で何が出来るのかを考えるのが生き抜く知恵‥‥‥‥さぁ、最後は壁作りだ。
・・・・・・うん、そうなるよな。
そう、ここまで何とか必死に木材を節約したが、やっぱり足りなかった。壁の一枚も貼る事なく木材は消滅した。
だがここで諦めないのが俺という男。
諦めたらそこで人生終了や!
ワイは男気を魅せる男の中の男や!!
という訳でナジーム爺の家の周りに生えていた木の枝や枯れ草などとにかく
普段庭掃除で出るだろう片っ端から集めていく。そして枝を骨組みにそって
並べながら少しずつ隙間を埋めていき、そしてその上からさらに枯れ葉で風の抜け道を塞いでいく。
そうした地道の作業を続けて、ようやく…ようやく……。
「よっしゃーーー!!!!出来たぞーーー!!!俺の家!!!マイホームならぬドパホームじゃーーー!!!」
ああ、今あるこの気持ちは家を一人で作り上げたという達成感のみ。
我が家づくりに
一変の悔い無し…
俺は拳を天へ高く突き上げる。
考えてみれば風呂はおろか、トイレと家のドアまで作れてないけどまぁそれは追加でナジーム爺に木材をお願いすればいいだけのこと。なんら問題など
無いのである。
俺はこの素晴らしい作品を一刻も早く見せたい気持ちでナジーム爺を呼ぶ事に。
「どうよ!見てくれよこの立派な家を!途中で木材が無くなったけどなんとか色々と捻出して無事に雨風は凌げるように完成させたぜ!」
「・・・・・・これ、家?」
「そうだよ!家に決まってんじゃん!なんだよ、ほらよーく見てみなって、
なかなか凝ってるだろう?そう言えって、家だけにな、なんちゃって!!」
「うんむ…これはそうじゃのう、どこからどう見ても‥‥‥…」
「うんうん」
「どこからどう見ても犬小屋じゃボケカスがぁ!!貴様ぁ!ワシの敷地でこんなもん建てて遊ぶために木材を買わせたんかドパアホがぁぁ!!」
「ええーー!?いやいやいやいや、どう見ても家でしょうよ!!そ、そりゃドア無いし、天井も低いし、俺一人がようやく寝そべられる大きさしかないけど家でしょうよ!」
「はぁぁあ…全くお前さんの事だからと思ってあのふざけた図面にも目を瞑ったワシがとことんアホだったわ…やっぱりお主はアホじゃ、それはもうどうしようもないアホじゃい」
「そこまで言う?ってそんなに酷い出来ぃ?」
「・・・・・・じゃあ言うけどおぬし、その小屋で生活可能と思うか?」
「思うよ!だって体を真っすぐにして眠れるし、天井もあるんだよ??」
「もうええわい、なんか、あほくさくなってきたわい」
「お、じゃああの報酬の大量の金貨も家を建てた訳だししっかり保管できるという事で‥‥…」
「渡せるかぼけぇ!!!そもそもお主一人しか入れんスペースにあの金貨を置く場所など無いだろうじゃ!!とっと家を買え!!人を雇え!!!そしてさっさとその犬小屋を取り壊せ!!!」
・・・・・・そう言うとナジーム爺はづかづかと自分の邸宅へ戻って行った。
俺は今、茫然としている。
そう、この気持ちを過去の自分を思い出して代弁すると、学校の授業で最高傑作だと思って作った粘土ロボを、たまたま虫の居所が悪かった母ちゃんに見せまくってイラつかせて思いっきり地面に叩きつけられたような感覚に似ていた。
俺の作ったロボは母ちゃんの強烈な叩きつけに堪えられず奇麗にぺったんこになっていた・・・。
こうやって見て見ると、今の俺の家もなんかぺったんこしている。
俺の脳内を駆け巡っていたドーパミンが、いつの間にやらストレスへと変換されていく。そして溢れてくる。これまでの苦労を全否定された
悲しみの涙が。とめどなく。
「うわああああん頑張って作ったのに酷いよおおおおおおお!!!」
以降、俺の家は見る人全てに犬小屋と呼ばれる事になった。




