第30話 ―王都商議会対策会議―
少し加筆しました。2026/9/16
―これって談合社会?
さて、今俺達はナジーム商会の応接間に居る。人払いを済ませ、中には俺、ナジーム爺さん、そしてカメリアのみ。まずは今の状況をナジーム爺さんに説明する――。
「・・・うーむ・・・やっぱりそうするしか道はないのかのぅ」
俺の説明を聞き終えたナジーム爺は、深くため息をつきながらそう答えた。
「物乞いに施しをするのは簡単さ。でも、ある意味アンタのやろうとしている事はそれと一緒ってわけ」
今のカメリアは完全に女モードに切り替わっている。正体が分かっているが故にこの変貌っぷりには驚かされる。聞けば、本当にプライベートでもない限り常に女性で通しているらしい。
「そう言われると耳が痛いわい、まぁわしは純粋に弱き者に手を・・・と、言うよりはあのいけ好かない貴族連中に一泡吹かせたかっただけじゃったんだがのう。ふぉっふぉっふぉ」
それを聞いて思わず俺とカメリアは、ずっこけそうになる。
「はっ!だったら最初からそう言えばいいものを、あたしはてっきりアンタがもうろくしたのかとさえ思ったよ」
「貴族連中に一泡吹かせたいならもっと色々と方法があるような気もするが・・・」
「どうせなら、そういう事こそ商売で片を付けて欲しいもんだね」
「そうするつもりだったんだがのぅ。しかしまぁ、わしももう先は長くない」
「この目がまだ黒いうちに・・・全ての人間が等しく平等に暮らせる日々を見ておきたいものじゃて」
・・・俺から言わせりゃ、その時こそ本当に複雑で解決困難な問題山積み時代の到来なんだけどね。
「それで、わしとカメリア嬢は、今後どのように動けばいいんじゃ?それに―――」
ナジーム爺がチラっとカメリア嬢を一瞥する。
その目線に気づいたカメリアは少しため息をつき、今後の事を話し始めた。
「その件についてはあたしもナジーム商会の傘下に入ることにするよ」
「・・・本当にそれでよいのか?規模だけでみれば、むしろわしらがそちらの傘下になるべきじゃろうのに」
「爺さんさ、アンタもうちらがどうやってここまで成り上がったかぐらいは知っているんだろう?それにあたしは別に名前なんかどうなったって構いやしないよ、欲しいのは金だけで充分・・・」
「そりゃもちろん知っておるよ。だからこそじゃ、マルコー商会が紙で財力を潤せばそのときこそ、そんな因果な商売から足を洗う事も・・・」
「ククッ・・・それこそあり得ない話さ。爺さん、あたしにあのお方を裏切れって言うの?それこそ自殺行為よ」
「あのー・・・そのあのお方と言うのは」
「ん?そういえば、アンタにはまだ言ってなかったわね。ホラレイゾン・シルパッテ・エモンズと言えば泣く子も黙る経済界隈のドンさ」
ホラレイゾン・・・さすがにもう名前は覚えたぞ。やたら長い割にはなかなかにインパクトのある名前だしなぁ。というか、ホラレイゾンの「レ」が余計な気もするんだけど、ホライゾンの方がだったらめちゃくちゃカッコイイ名前だったのにね。
「うんむ、実はわしもその御仁の手腕には大いに感服しておるぞい。わし、ああいう商売人は嫌いではないんじゃ」
「聞けば昔は、小さな金貸しから始めたというではないか、そしてそのお金でありとあらゆる店を買いまくって事業を拡大し、さらにはその影響力のおかげで貴族にまで成り上がった男・・・その名も・・・」
「そうね、ダーリンは皆から『世紀の買収王』と呼ばれているわね」
「ふぉっふぉっふぉ、わし貴族は嫌いだけどその商才は高く贔屓してるじゃて、惜しむらくはあの御仁が子飼いにしている遊女たちがちゃんとした淑女であればもっとお近づきになろうと思えるんじゃがのう」
「あらぁ?ダーリン曰く、アッチはソッチとは全然比べられないほどに凄いそうよ?」
「・・・遠慮しておくわい」
それにしても、爺さんもあのなりでどんだけまだ現役なんだよ。なんか勝手にハーレム想像してカクカク動いてるし…でもその後のカメリアの一言で一気に萎えているのは見ていて笑えた。
と、そんな冗談もさておき。カメリアがおもむろに胸の中から一枚の紙を取り出す。
「これは今月開催される王都商議会のメンバーリストさ」
そこには、ホラレイゾンを始めとする、各大物商会の代表や、有力貴族の名が連ねられていた。と言っても俺はこの界隈に疎いので一体誰がどれだけ凄いのかなど知る由もないのだけど。
「今ダーリンと協議中だけど、上手くいけばあたしらもその議会に参加できるように手配してくれるってさ」
「ま、問題はその内容次第・・・って訳だけど」
そこでカメリアは俺に目線を送る。
ナジーム爺も同じようにこっちを見る。
いよいよ、俺の出番という訳か。
「まず、議題のテーマについてだけどこれは『紙の販売権について』でいいでしょう」
「紙の販売権を巡っては、マルコー商会がナジーム商会の傘下に入る事になった時点で空席になる。マルコー商会は今後、ナジームの元で紙の製造・販売元への調整、さらに新規販路の開拓事業を行う形になると思う」
「異存はないね」
「そして、この空白になった販売権については、議会に参加するメンバー全員に協議して貰ったのち、販売権を分配するという案を設けたいと考えてます」
「ふむ…つまり、出資と引き換えに販売権を与える。そう言うことかの?」
「うん。その場合も、例えば売り上げの何%かをこちらに納めてもらうとか、そういう取り決めも必要になってくると思う」
・・・俺の世界でいう販売代理店制度、だったか? 要は、紙を販売する権利を与えて、その代わりに売り上げの一部をこちらに納めてもらう仕組みだ。
「それで、その取り決めってのは具体的にどうするんだい?」
「こっちの権利を守る上でも絶対に通したいのが製造の一元管理と、新規工房を展開したときの人選を能力に応じたものにするという事」
「いくら出資してるからと言って、勝手に紙の製造範囲をどんどん広げたり、またそれに携わる人員を有力者のコネなんかで集められたら本末転倒だからね」
「なるほど、そこでわしの希望じゃった平民にもチャンスが巡ってくると言うわけじゃな」
「うん、あとは極力これから開発し続けるであろう技術を盗まれない為の取り決めとかも必要になってくる…」
「そこが少し気になるところなのじゃが・・・技術を盗用されたとて、そう簡単に真似など出来るものなのかのう?」
「それは分からないよ。ただ、その商品やその技術を守る権利をここで確立させたいんだよね」
「これを絶対死守しないと、例えば東方で資金集めに成功した有力者がこちらの技術をさらに改良してこちらの品質を上回る紙をさらに大量生産したらどうなる?」
「・・・そりゃ困るじゃろうな」
「困るどころか下手すりゃナジーム商会の崩壊だよ、現にナジーム爺さんがもうここまで成功を収めた時点で向こうの紙市場は大変な損害を被っているだろう?」
「ふーん・・・その権利を守る為にあえて資本力を強化する、これは言うなれば専守防衛だわね」
「そう、それに紙市場はこれから伸び続ける訳だから、その資本力を盤石なものにして利益のみを霞め取れるとなるときっと有力者たちの受けも良いと思うんだ」
「・・・果たしてそううまくいくものかねぇ」
まぁ、こればかりは本番にならないと分かりようもない。プレゼンテーションだっけ?経験した覚えもないしなぁ。
「一応、突っ込まれそうな所は対策立てておかないと、具体的な数値、今現在の売上高とか、紙の原価に販売価格、あとは―今後の販売権を与えた場合の価格設定や、こちらが徴収する販売権使用料の割合とかも」
「ふぉっふぉっふぉ、それに関しては任せてくれだぞい」
「・・・ま、とりあえず俺としてはこの材料で挑んでみようと思うんだけどどうかな?」
「わしゃ問題ないぞい」
「・・・あたしもまぁまぁイケると思うね。とりあえずこれでダーリンに掛け合ってみるけどさ・・・」
「正直、ダーリンって相当頭もキレるし、口も回るから、アンタもそれなりに覚悟しておいた方がいいよ」
・・・なんだかそう念押しされると、今から緊張してくるな。
あ、そういや姫もなんか協力してくれるって言っていたな。
「そういえば、姫・・・いや、えっとプリシア王女様だっけか。昨日偶然ばったり会ってさ、それからちょっとこっちの事情を説明したんだけど、微力ながら協力してくれるって言ってたよ」
「へぇ、アンタも中々隅に置けないねぇ!まさか王族に手を出すとはねぇ…いいねぇ、お姫様と駆け落ちなんて憧れちゃうわ~」
「こ、こやつぅ!おなごなど微塵も興味ないような顔しよって!!はぁぁワシも姫様と子供作って王様になりたいのぅ」
「いやね…そういう訳じゃ」
そんなラブなロマンスだったら真っ先に自慢してるわ。
「まぁ、それはともかく、あの姫様がこっちに加わるとなると・・・フェアラート卿に、ギリッヒ商会、レプブリーグ工房辺りはこっちにつく打算が高くなったわね」
「へぇ…微力と言いながら結構な影響力持ってるのね」
「そりゃそうさ。私もダーリンもそうだけど、今あげた連中ってのは皆、反王政派と呼ばれる新興貴族や商会さ。王政を快く思ってない連中が、姫に取り込もうと必死ってわけ」
「ん?…そいつはおかしくないですか?何故王族である姫に取り込もうと?」
「それは王側から見れば姫は、冷遇されてる身でしょう?逆に言えば姫は反王政派から見れば反旗の狼煙を上げる際の神輿に打ってつけって事さ」
「あーなるほど、つまり……来るべき時に姫を担ぎ上げて、王政打倒の大義名分にしようって魂胆か」
あの時姫は確か――。
――何も悪い事はしてないしな―――
なんて言ってたけど、結構グレーだよな。
下手にそっちの方に首を突っ込んで王様にバレなきゃいいけど。
「まぁどっちにしろ、力を得ればいずれは王政派ともぶつかるし、このタイミングで姫をこっち側に引き入れるのは、むしろ僥倖だわね。お手柄だよアンタ!」
「え?ちょっと待って、俺も反王政派になっちゃうの?」
「そりゃそうよ、それともアンタ、何処にも属さないで今の話を持ち掛けようとしてたわけ?」
いや、そういうつもりでも無かったが…。
そうか…結局、話がうまくいったとしても、最終的に派閥に属する流れになってしまうのか。
参ったな。
俺はともかく、姫には悪い事をしてしまった。 しかしまぁ、もう事は始まっているし、姫も後押ししてくれていた。
とりあえず、ここはもう突き進むしかない。
それに、これは工房の皆やマルコー商会のお姉さんたち皆を守る戦いだ。
負ける訳にはいかない。
そもそもナジーム商会が終わったら、俺の生命線にもなっている樹皮採集クエストが消えちゃうしな。
「それじゃ、商議会の日にちはまた追って連絡する。あ、それとアンタ。あんまり遠くに居られると面倒だからしばらくナジーム爺の所にいな」
「え、でも、それってどれくらい?」
「なに、そう間は空けないつもりさ。恐らくダーリンはこの話に興味は示す、そうなれば翌日にでも皆に呼びかけするだろうさ」
ま、そうなってくれるとありがたい。
あんまり、クエストほったらかすとヤマメさんが怖いんだよなぁ…。
―――そして、
カメリアの言っていた通り、ホラレイゾンが主催する商議会は『紙の販売権』という名目を掲げ、すぐに開催されたのである。




