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第28話 ―信に足り得ること― 前編



―男が残した爪痕



まさか、偶然こやつとまた出会う事になろうとは……。


王立図書館で調べ物をしていた私は、門番につま弾きにされていたこの男を見た瞬間、あの時の光景を昨日のことのように思い出していた。


男が騎士団の会議場で説明した野盗対策の手法。


それは、あのフックスでさえ反論の余地がないほど、理に適ったものだった。



――あの会議から翌日。




「あー・・・これより、昨日の取り決めに従い、今後の野盗対策に対する振り分けを行う」



副隊長であるガルドはいつも以上に不機嫌になりつつあるも、さっそく今後の見回りに対する隊の再編成を指揮する。



「今後は、東西南北全方位において常時集中して見回りが出来るように配置を編成する。北はフックス、南はアンナ、そして西だが、ラントに任せようと思う。ラントに関してはまだ経験は浅いが西方面地域に土地勘があるとの事なので今回の編成に抜擢することにした。」



「まぁ昨日の話の通り、今回は騎士団員30名程を四つの部隊に分ける。1部隊あたり7~8名程の規模に縮小する形となる。そういう訳なのでラント隊は特に全員で隊の役割や伝達などは強化するように、あと東は俺が引き受ける」




「は、はい! まだまだ若輩者ですが、任されたからには精一杯務めます! 至らない点も多いと思いますので、その時は皆さん、どうぞご指導のほどよろしくお願いします!」




今回の再編成で私とルッツは、見回りの対象から外された。これはまぁ、ガルドなりの処罰という事だろう。私もなかば強引にあの男を招集したのだからこればかりは文句のつけようがない。



だが、今回の抜擢に新人、それも平民出身であるラントに隊を任した事は意外だった。その証拠にラントは緊張しながらも周りに対し、ペコペコと頭を下げている。



思えば、ラントの起用を強く推していたのもガルドだった。



ラントは真面目でよく気が利く。平民出身という重みを背負っても尚、周りの貴族出身の騎士たちにも動じないだけの影響力を持っている。ガルドが可愛がるのも無理は無いと言うことだろう。




「あ・・・それと言い忘れたことがあった。重要な事だ」



ガルドが思い出したかのように皆を呼び止める。



「前々から姫、いや隊長直々に国王陛下に申し出されていた騎士団増員の件だが、今日の朝、ようやくその返事を頂いた」



「―此度、増員の件に関しては各新興街で騎士団に協力的な市民より選出して見回りに加えよ――とのお達しである。これについては、元々市民らで自発的に見回りを行なっていた各地自警団と連携するつもりなので、各隊の代表は会議が終わった後も少し残ってくれ」



―――つまり、父上は見回りであるなら市民でも可能だろうと、増員を認めず、その代わりにせよと言う返事を下したのだ。これは野盗対策の決定を伝達した後、すぐに返ってきたものでもあった。




どうせ、人を顎でしか使わぬ宮仕えどもの差し金だろう。忌々しく感じたが、それでも人数が増える事そのものはありがたいと受け取る他ない。




その後、各隊長を残し会議は解散した。



「クソ・・・!!これで賊がまた襲ってきたらあの男、断頭台に首を差し出してやる!」



先ほどからガルドの機嫌が悪いのはもっぱらこれである。だが、その気持ちは分からなくもない。少なくとも戦術において自負している者共全てが、たった一人の、それも遠く離れた地方の田舎者一人に出し抜かれたのだから。



「あやつも言っていただろう?騎士の目線で野盗風情を大きくみた事が盲点だったと」



「ですが姫!!まだ賊が攻めてこないとなったわけでは―――」



「確か東の新興街から来たと、そこからさらに地方、という事は辺境伯、グレンツ伯の領地からやってきた・・・」



「なんだアンナ。気になるのか?」



「いえ、グレンツ伯には少し不穏な噂がありましたので、もしやその差し金なのかもと・・・」




アンナ・ミュラー。



数少ない女性騎士の筆頭を務めている。



黄金に輝く長い金髪を後ろで一つに束ねたポニーテールが特徴的で、すらりとした長身に騎士として鍛えられた身体つきをしている。剣に生きる私とは違い、騎士としての務めも貴族令嬢としての振る舞いもそつなくこなし、社交場での人気もある。



ただ、気になるのはその立ち位置が、いつの間にかフックスの側近のようになっているところだろうか。ことに辺境伯の噂など、寝耳に水だった。




「それはない。なぜならあやつこそ私が『蜂虫の王女』と名乗るキッカケを作ってくれた男だからな」



そう言うと、全員の視線がこちらに向いた。



「へぇ、あの子が・・・それなら姫があの場に立たせたのも納得ができるね」



始終無言だったフックスが口を開く。



「・・・まぁ当時より奇っ怪な男だった。故に今回の発想にも辿り着いたのだろうな」



「僕もずっとそこが引っかかってましてね。平民なんて理由であのような発想が生まれるのか・・・と」



「フックス、何か気になることでもあるのか?」



「いえ・・・僕の個人的な感想ですよ」



「だからその感想を述べよ」と言っているのだが、こやつはいつも含みを持たせたまま多くを語ろうとしない。長い付き合いになるが、相変わらず読めない男だ。




――――それから数日後、私はこの男に出会った。




もう妙な偶然だとは思わない。



かと言って特段信用しているわけでもない。寧ろその逆で私の中で色々と疑惑が膨らんでいくばかりだ。



しいて言うなら、ルッツも言っていたよう、こやつは馬鹿である。


故に何故か嫌いになれない。



側に置いとけばもっと色々と面白そうな話が聞けるやもしれん。



あの時はそう思ってこやつをここへ招こうと思ったのだ―――。




―アットホームな・・・?




「おい、ついたぞ」



姫に拘束され、辿り着いた場所。それはまるで小さな図書館、いや…書斎であった。




「……広いとはいえ、王城の中心街も所詮は狭い世界だ。どこぞの者とも知れぬ奴が入り込めば、それだけで目立つ。よそ者を部外者として排除しようとする者も少なくない。だが、ここならお前も存分に調べ物をしても、誰も文句は言うまい」




そう言うとようやく姫は俺を拘束していた手を離してくれた。



ふーん・・・この人・・・



ケッコイイヤツジャン!



なんだか今まで行いを全て水に流して、これからは萌――じゃなく良き朋友(ポンヨウ)としてこちらもよりフランクに接したく・・・なんて調子に乗ったらまたお仕置きされそうだな。ま、ともかく、現時点で魔法の真髄を調べているなんて事は言わない方がいいだろう。



だが、しかし―――。




こうして見ると姫はさすが姫だけあって、いたって普通に美しい女性だ。




前に見た時は鎧と有無を言わさぬ言動、そしてなにより、常に眉間に皺を寄せ、睨みつけるような顔のせいで目を合わせようとさえ思わなかったが、こうして見ると、細身の腕を包み込むようなふわっとしたシャツに落ち着いた色のジャケットはその髪と目の色も相まってとてもよく似合っている。下はまるで洗練されたモデルかと思えるような細くてしなやかなパンツに、膝まであるブーツ姿。なにより、文字を読むためだろうか、ひと際大きな丸眼鏡をしているのが普段のクールビューティーとのギャップがあってかなり可愛く見える。



というか、その恰好で丸眼鏡は反則すぎる。



普段はツンツンどころか、ゴリゴリすぎなので、こうやって少しでも優しくされた男は一発で落ちるかもしれない。まぁ、今回の計らいは姫なりのお礼のつもりだろうけども。




「・・・どうした?何か言え」



「あ、いや、と、するとここは姫様の書斎でしょうか?」



「まぁそんな所だ。今紅茶を入れてくる、見たい本があるなら勝手に探せ」



「いやいや!!お気遣いなく!!!!というか、あの生意気な小娘――ルッツさんでしたっけ・・・?今日は一緒じゃないんですか?」



「ルッツは今日は休暇だ。あれの父は今は独り身でな、心配なので時折強引にでも様子を見させにいかせている」



「なるほど・・・じゃあ、やっぱり今日はやめましょう」



「・・・何故だ?貴様は調べ物がしたいのでは無かったのか?」



「そりゃ、そうですけど…さすがに男と女の二人っきりってのは」




ナニかが起こるかもしれない事が絶対にないことぐらい分かってはいるが、だからと言って年頃の女性と同じ空間に二人きりってのはさすがに、ね?




と、まごまごしながら姫を見ていると、丸眼鏡越しでも目が点になっているのがハッキリ分かった。そして次の瞬間、息が止まっていた事を思い出したかのように、盛大に吹き出した。笑いを堪えようと、手で俺を制止している。




「ふふっふ・・・いや、すまぬ。私を女として見る男が未だに健在するとは思わなくてな」



ん?


え?



もしかして、そこまでの素晴らしい容姿をお持ちなのに一度も男性に言い寄られた事さえないか?・・・まぁ、王族ならそういう事も、いやいや、さすがになぁ・・・マジで?



(もしかして、今まで男性経験がおありでない?)



と、脳内で聞こうと思ったがさすがに却下である。


かと言って下手な美辞麗句を述べてもかえって逆効果な気もしたので、さっさと話題を変えようと頭をフル回転させている所、姫が話を続けてきた。




「心配するな。仮にお前が今、私に襲いかかってこようともその時はその体と頭は泣き別れだ」



「それは…確かに」



姫は腰にある剣を摩りながら奥の方へと消えていった。



・・・人並みの男性的な気遣いを表明しただけなのに、なんで俺はクビちょんぱされかかったのだろう。




とは言え、これで気兼ねなく調べ物が出来る。俺はとりあえず、この国の歴史について書いてある本を探していく。一通り目ぼしい物を見つけたら、その中に一つだけ魔法に関する本を忍ばせ、本に目を通す。これで何を調べていると聞かれたら歴史についてと言えば、上手くごまかせると言うわけだ。




なになに?―――



始まりの地。



遥か数千年前の事、この地に世界を滅ぼさんと猛威を振るう恐ろしき邪竜が君臨した。そして、多くの悲劇、苦しみを生み出し、人もまた抗うべくまた多くの命を落とした。



それを憂い嘆いた神竜が一人の男に加護とその宿命を与えた。



『邪竜を滅ぼし――世界に平和と永遠の安寧を』



こうして、神竜の加護を受けし勇者。リンドア・アクシアは長き戦いの末、見事に邪竜を討ち果たす。そして勇者を支えた仲間達はこの地の東西南北に散らばり、共に勇者を称えんと、それぞれの地に根を下ろした。そして勇者もまた、その中心に剣を置き、平和の礎を築くべく国を興した。



東西南北に置かれた四つの守護は、正方となってこの地を守り、国はさらなる繁栄と栄華を極め、そしてそれは聖なる神の恩恵を受け、その名を聖方スランティア王国とし、今も尚この地に平和と安寧を齎しているのである。




――冒頭にはそう書かれている。



まぁ、所謂伝説的なもので史実とよべる根拠はないと言う感じか。だけど、こうして見ると俺が最初にこの国の中心を見た時の『◇』の形をした城壁と、この物語に書かれている『正方』は合致している。そしてその守護にちなんで正方は聖方に文字られたという感じなのだろう。



そう見ると、伝説とは言え良く出来ている。



東西南北に仲間が散らばってその地を守ったとも書いてるところから、もしかすると今でもその血筋は健在なのかもしれない。




「ほう、歴史か」



そして、次のページを捲ろうとした瞬間、いきなり目の前が後頭部のつむじになった。



「ちょっと姫様!後頭部近いですって!!!」



「ああ、すまぬ。少し目が悪くてな。こうしないと文字が見えん」



なるほど、それで丸眼鏡という訳か。にしても、この姫さん、知れば知るほど人との距離がバグっているよなぁ。



「まぁ、せっかくお茶を入れたのだ、少し寛ごう。普段はルッツがしてくれている故、味は少々悪いかもしれないが」



そう言うと姫は、テーブルに紅茶を用意し、おぼつかない手つきでティーカップに紅茶を注ぎ始める。気づけば俺は、姫と対面で向かい合う様に座り、見てくれだけは優雅なティータイムを過ごしているような形になった。




「どうした?早く飲め。冷めるぞ」




如何に数奇な出会いとはいえ、まさか王族の御姫様が淹れた紅茶を飲むことになろうとはな・・・仮に毒を盛られたとしても味なんて分かる由もない。



「これのどこがリラックスタイムやねーん!」と一人で突っ込まずにはいられない緊張感である。



「ふぅ・・・やっぱり私じゃルッツの淹れた紅茶には叶わんな」



そう言われても、紅茶の味など知りようも無い俺が何も言う事は無い。だが、もしここにヤマナさんがいたら―――。




(えー?紅茶なんて誰が淹れても一緒だと思いますけどねぇ)



とか言うんだろうな、きっと・・・。


こう言う場合に限りあの豪胆さは見直したい。



「ところで、何故歴史を調べている?」



「それはまぁ、せっかく自分の国の中心地へ来たわけですから知識として頭には入れておきたいと思いまして」




「ふーん、ならば遠慮なく色々聞くがいい」



姫が眼鏡を片手で直し、自信ありげにそう言い放つ。



「この書斎の本に関しては全ては網羅済み、そして頭に入っている」



「そりゃすごいですね・・・さすが姫様」



「調べるより聞くが如し、とも言うだろう?それにその方が私も退屈せずに済む」



・・・待てよ?



それが本当なら、姫から色々と聞けば自ずとこの国の事や、魔法なんかについても怪しまれずに聞いたり出来るんじゃ・・・?



なるほど、それは確かに『調べるより聞くが如し』だ。



そんな格言聞いたことないけど。




「じゃあ、早速聞きますけど、この東西南北に散った仲間というのは今も、その血筋はご健在なんですか?」



「当然だ・・・と言いたいが、そのうちの一つは既に守護の座を返上している」



「ほう?」



「まぁ聞け。お前の言う4つの血筋と言うのは今でいう所の四大貴族の事を指している―――」




姫はそう言うと、後に四大貴族となった四つの血筋について、その由来を説明し始めた。



「まずは、北の守護者―大地の武人、スヴァルト・シルパッデ。モンク僧であり、聖人守護者として勇者と共に戦ったと言われている。今ではシルパッデという家名だけが残り、モンクとしての継承は弟子たちに譲ったらしい。四大貴族の中では一番影響力があると言っていいだろう」



「次は、南の守護者―赤き瞳の聖女、ヴェルメリア・パッサロ。癒しの力で幾度となく勇者一行の危機を救ったとされる奇跡の女神。今ある聖スランティア教会の始祖であり、現在では神としても崇められている。こちらは貴族では無いがその影響力を鑑みれば四大貴族と言われても差し支えないという感じだ」



「そして西の守護者は白銀の戦士、ティグル・ブラン。数々の勇敢な騎士を生み出している名門中の名門と言えばこの血筋だろう。その名の通り、歴戦の戦士であり、勇者の剣でもあったとされている」




「そして最後――東の守護者、蒼の大魔法使い、ダオ・シン。その絶対的な魔力で国そのものを破壊出来る程の力を持っていたとされる伝説の魔法使いだが、彼だけは、その後も魔法の探求の道を歩みたいとのことで、地位を返上した。その後は彼の愛弟子であった水の魔法師、シュイ・ディーがその後を継いだが、伝説の魔法使いの前ではその実力は霞み、以後、魔力を持つ者も殆ど生まれなくなったという。故に、四大貴族の中では体制だけを保っている。影響力も大きくはないな」




さすが姫様・・・こうも完璧に模範回答をスラスラと言える器量は純粋に凄いと思った。凛とした声も相まって心地よく耳から脳内に知識が蓄積されていく。




しかし、そうなると特に、ダオ・シンという魔法使いがその後何処へ行ったのかは気になるな。恐らく他国に比べて魔法がそこまで目立ってないのもそれが原因だろうし。でも、まだ実際に結界やら呼び鐘の魔道具は今でも街の主要インフラとして存在している。そういえば、カリメアが付けてたポヨポヨの胸パッドも魔法で生成したとか言ってたっけか。



「その、ご隠居されたダオ・シンという魔法使いはその後どうなったんですか?」



そう言うと姫は軽く首を振った。



「どうもこうもない。その後、彼は表舞台から完全に姿を消している、おそらくどこか地下深くに潜む研究室で躯と化しているだろう。と言うのが学者達の見解らしい」




‥‥まぁ、情報が出ないんじゃそうなるわな。



「そういえば、この国にはあまり魔法使いがいないと聞きましたけど」



「うむ、我が国は魔法後進国と言われている。実際に魔法使いの血筋はあっても魔法使いは排出されないし、他国に比べても魔法の恩恵を受けてないのも事実」



「それでも、結界とか、要所要所に魔法と呼ばれるものがあるのを見たんですけど、完全になくなった訳じゃないと?」



「良いところに目を付けたな。そうだ、この国でも魔法は重要な役割を担うものであるのは間違いない。一番わかりやすいのが地下水路の下水浄化処理だろう、生活排水の浄化は全て魔法で処理されていると聞いたことがある。後は街の街灯なども魔法によるものだ」




「なるほど、でも不思議ですよね?魔法を使えるものがいないのに魔法と呼ばれる道具やそういった生活基盤の中心では魔法が使われている・・・」




そう言うと姫は不敵にニヤニヤと笑い始める。


トラウマもあるのでこの笑顔はどうも好きになれない。




「矛盾しているとでも言いたいのだろう?だが、魔法使いが居なくても魔法そのものは発動可能だという事だ。国家の生命線にもなっている聖スランティア教会の結界の発案者はダオ・シン。彼は地位を返上する直前まで、実に国に尽くしてうれたらしい」




「そう言った事も踏まえ、魔法学に関する研究や現在に至るまでの運用方法は、先ほど名前が出たシュイ家の末裔達が地道に今日も励んでいる。言うなれば彼らはこの国の中枢を担う縁の下の魔法使いというわけだな」



縁の下の魔法使いって、一人でも欠けたら雪崩式に崩壊しそうだな・・・。



「そのシュイ家の方々とは、一般の人間でも話を聞けたり出来るんですか?」



「勿論、と言いたいがどこでも素性の怪しい者は警戒されるのがオチだ。というかお前、魔法に興味があるのか?」



まぁ、さすがにここまで食いついてれば気づかれるか。



「ええ、まぁ・・・どうも魔法ってのは便利なわりには仕組みがよく分からないんで、気になったと言うか・・・」



「ほぅ」




・・・さすがに、ちょっとまずかったかな?



上手くオブラートに包んでいるつもりだったが。




「お前が魔法異端者だとはな」




「え?いや、別に魔法そのものを否定しているわけじゃないのですよ?」



「ふふ、分かっている。大体我が国じゃ魔法異端者は別に珍しくもない。事に剣にしか生きれないブラン家に連なる系譜は、ほぼ全員悉く魔法異端者揃いだ」




「それは、さっき言った騎士の名門でしたっけ?」



「ああ、とりわけ我が王蜂騎士団など、特にな」



「なるほど…姫様としては魔法についてどう考えているんですか?」



「ふむ…」



そう言うと、ひとまずカップに口を付け、手に顎を乗せて考え込む。



「そう言われてみれば、私も魔法に関してはあまり深く考えた事がなかったな。魔法後進国であることは国として大きく遅れを取っている事には違いない。とは言え、この平和な時代に果たして魔法が必要かと言われても・・・・」




「うん、よく分からん!」




「・・・はぁ、なるほど」



そうやって色々と話していると、辺りはすっかりオレンジ色へと染まっていた。



しかし、まぁ結構長々とお世話になってしまったな。

せっかく淹れてくれた紅茶もすっかり冷めてしまっている。



こういうのを魔法のケトルで瞬時に温められばいいのにねぇ。



「ところで」



「お前、その後はどう過ごしている?」



「あ、ああ―――」



と、うっかり紙の企業秘密を口に出しかけたが思いとどまる。



―――うーむ、この姫様・・・果たして信用に足りる人物なのか、今頭の中で描いている今後の構造などを全て姫に話しても大丈夫なのか。




「・・・なんだ、紅茶がすっかり冷めてしまったな。淹れなおそう」



「いえ、姫・・・それよりも俺の話を聞いて貰えますか?」



――その時、姫が紅茶を淹れなおそう―と口にした事が、何故か俺の中での決定打になった。



根拠は特にない。



しいて言うなら、王族であり、その振る舞いも気品に満ちているのに、何故かその中で生きる彼女が、ごく普通の女性に見えたような気がしたからだ。






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