第27回 ―巨大な資本を訴えるドナドナ―
―目には目を、金には金を
色々あったが、なんとかカリメアを説得する事ができた。
とはいえ、今度はナジーム爺の方をなんとかしないといけない。なにせ、俺が今考えている事はナジーム爺の理想とは大分かけ離れたものだからな。
―わしは・・・誰にも等しく挑戦できる権利を与えたいんじゃ―
あの時、俺はナジーム爺のその言葉を聞いて正直ゾッとしたのを覚えている。結局、それは奇麗事どころか、下手をすれば事業そのものを崩壊させかねないからだ。
―――機会を与えた相手が、善人でなかったらどうなるか。
今まで培ってきた紙作りのノウハウを、第三者に売り渡すなんて事もありうる話。なろう作品でさえ、一握りの先人の成功を夢見て有象無象が玉石混交であえんびえんしていると言うのに…あ、違った、阿鼻叫喚だった。
とにかく、俺がもっとも恐れているのは技術を盗用された際の収拾やその後の対応である。
前の世界でも、世界トップシェアという安泰の上にあぐらをかいていた企業が、気が付けばあっという間に他国から押し寄せる巨大な資本の前に太刀打ちできず、沈んでいった例を俺は知っている。
あれを見た時、誰もが同じ轍を踏むべきではないと思ったんじゃないだろうか。
技術を盗用され、さらに資本力でも負ければこの先ナジーム製の紙など文字通り紙くずに成り下がってしまうだろう。
だからこそ、それに携わる人間は公平かつ厳正に選ばないといけない。
そこに貴族も平民も関係ない。ナジーム爺からすれば、決してフェアとは思わないだろうけど、ここはあえて能力と実績で人を選ぶべきだ。
まぁそう考えた上で、著作権の概念もないこの世界ではどうやって技術を守るかと考えた時、真っ先に思いついたのは、ナジーム爺も口にしていた巨大で恐ろしい金の力というやつである。
あえて、その巨大かつ圧倒的な資本の力を見せつけ、次に続けと市場を目指す者に対し、大きな牽制力を得るという訳だ。
そこから生まれた資本力によって、技術をそのまま運用されたとしても、利益を生み出せないほどの市場をこちら側で作り上げる。そして出資に関わった商会や有力貴族たちにも利益を還元し、最後に資本力を持たない平民へチャンスを与える。そして、そのためならば、どれほど大きな出資であろうと拒む理由はない。
前の世界での『核の傘』と言われた、あの凶悪な制止力をそのまま金に変えた発想である。
それにこの方法なら、仮に競合するライバルが現れた場合でも、対応を練る時間を得る事が出来る。それだけ巨大な資本力と言うのは、一朝一夕で築けるものじゃないしね。
最終的にナジーム爺の理想にも近づけるというわけだ。
だけど、問題もある。
今の時点でどれほどの出資が見込めるかは未知数であること。
そして、同じく現時点ではアイデアだけが先行して、それを納得させるだけの根拠が無い事だ。
ナジーム爺とカリメアの資本力。そして、俺の考えた構造のみが今の手持ちという事になる。
あの後、カリメアとは色々話したがこの世界も当然商業ギルドというものは存在し、商売に係わる事なら大体はギルドを通すことになる。
俺が狙っているのはその中でも、国を牛耳るような大物が集う会合的なものが無いかという事だ。
そこに入り込む隙さえあれば、少なくとも二人の財力と信用を後ろ盾に、交渉の場に立てるチャンスは出てくる。カリメアには3人でもう一度集まる前に、事前にそれらの有力者が集う会合や、そこに連なる者のリストの作成をお願いした。
情報を揃え次第、最終的にどうするのかを考える。
どの道、俺の考えを二人が呑まない以上、この話もまだ机上の空論に過ぎない。
俺としては三人寄れば文殊の知恵じゃないが、そこでうまい具合に話が進展すればいいや、という感じだった。
―Let's go to the library
「さて――」
次に集まる日程は、カリメアが追って連絡することになった。ナジーム爺にも声をかけるとの事なので、俺はそのまま新興街に戻ろうかとも思ったが、時間的にまだまだ余裕もある。
せっかくなので、このまま王立図書館へ行ってみることにした。
マルコー商会から王立図書館までは、三十分ほど。
ちょうど王都の中心にある城の付近で、この辺りには色々と国の重要な建物が集まっているようだ。
そして、いよいよ王立図書館を見つけたわけだが――。
入り口には、しっかりと門番が立っていた。
そのまま素通りさせてもらえるような雰囲気ではない。
だがここで帰っては、俺だけにしか解き明かせない魔法の真髄がまた一歩遠退くことになる。
それに、何の悪いこともしていない。
普通に考えれば、堂々と――
「おい」
「こ、こんにちは」
「ここはお前のような者が来るところではない! 早々に立ち去れ!」
はい、出たー。
テンプレのような追い出しパターン。
はぁ……。
そりゃ、実際はそういう対応をされるのが普通なのかもしれない。
だが、こうも露骨に色んな目に遭っていると、果たして異世界転生が本当に良いものなのか疑問に思えてくるな。
「……帰るか」
そうして理不尽の壁に背を向け帰ろうとした時、先ほどの門番が誰かに向って恭しくお辞儀をしているのを見たのでチラっと視線を向けてみる。
どうせ、位の高そうなご貴族様だか何かが現れて、恐縮しまくっているに違いない。参考までにその御仁がどんなツラをしているのか拝んでやろうと思ったまでだ。
ここはガンの一つや二つくれてやらないと、無駄骨になった徒労が報われない。
「プリシア様、もうお帰りですか!今日は従者もいらっしゃらないという事、くれぐれも道中お気を付けてお帰りください」
「ああ…全く問題ない」
・・・あーあ、さて、帰ろう。
何も聞こえなかったしね。
「あ」
!!!
気づかれたと察した瞬間、俺は自然に全力疾走で最初の角を曲がり、さらにその先の角も曲がって、隠れてやり過ごす――という、見事な逃亡劇を決めるつもりだった。
・・・だったのだが、実際には石畳の上で転んでのたうち回り、打った足の激痛で悶絶していた。
「肘がー!!肘が――!!!」
「・・・そこは膝だろう」
「ってお前、こんな所で何をしている?」
「あ、姫様じゃないですか。お久しぶりでっす」
「ここで何をしていたのかを聞いたのだが?」
「いやや!図書館に用事があったんですけどね、そこの門番さんに門前払い喰らっちゃって…泣く泣く帰ろうかと」
「なにっ!・・・いえ、申し訳ありません、まさかプリシア様の知り合いだとはつゆ知らず」
「いや、別に構わぬ、あと知り合いじゃない」
そういう所なんだよ!
「は……? そ、そうでしたか。こんな怪しいやつがプリシア様と知り合いのはずなんてありませんよねー!! おい、分かったらさっさと帰れ!!」
・・・相変わらずこの姫さんに出会うと、何故か何も悪い事してないのに酷い扱いを受けるよな。きっと、心に毛も生やせないようなか弱い人間だったら、心が傷付いて号泣してしまうに違いない。
「で、お前は何を調べに来たのだ?」
「それ、今言います?」
「返答の次第によっては良い場所へ連れてやっても構わんぞ」
「いやいいです、そんな大した用事でも無かったんでもう帰ります」
さ、かえろかえろ。
何も聞こえなかったしね。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ガシッ!!
その時、何故か姫が無言で俺の腕を鷲掴み、もう片方の腕で胸倉を掴んで強引に立ち上がらせる。
「あ!痛い!!何を・・・やめて!腕がもげちゃう」
「いいから行くぞ」
こうして俺は有無を言わさず、姫に連行される事になった。
まるで、ある晴れた昼下がりに荷馬車で揺れてるかわいいドナドナのような光景なのに、悲しむべきか、この状況を街の連中が見て不思議に思うことがあっても、そんな俺を助けようとする者は一人もいないという事だ。あ、そこはドナドナじゃなくて子牛だろって?わざとあえてドナドナ言うてんねん。ドナドナのほうが子牛よりかわいいだろ。
そんな一人問答している中でもやはり、誰一人として俺に同情してくれない。
明らかな冤罪なのに……ドナドナ?




