第23話 ―頼りになるけどヤマナさん―
―おやつ代は情報料
そういえば、俺ってヤマナさんとよく喋る割にはあの人の事何も知らないよな。聞き手上手だから、自分の事はあんまり話さないし、さりとて、わざわざ他人のプライベートに踏み込んでまで個人情報に興味がある訳でもないしね。
ま、そのうち色々と分かるかもしれないし、結局その素性は謎のままなのかもしれない。
世の中、知らないのは自分だけなんて事もあるしね。
まぁ、それでなくても俺はほぼ毎日冒険者ギルドに入り浸っているので
別にヤマナさん目的で会いに行っても怪しまれずに済む。
ヤマナさんの行動パターンは大きく分けて二つ。
ひとつは普通に事務処理、邪魔にならない所に飲み物とお菓子は必須。注意深く観察していると大体5枚ほど処理したタイミングでお菓子を一つ頬張っている。それと、どこに目が付いてるのか分からないが、誰かがどこにいるのか、何故か把握しているらしい。
ふたつめは、誰かとの談笑。お喋り好きで隙あらばくっちゃべってばかりいる。そういえば、気になったけど、双方で楽しく会話している時、その互いは本当に楽しんでいるのだろうかと考えたことは無いだろうか?もしかすると、自分だけが楽しいだけで、相手はそろそろお暇したいとか。
常に相手のことを思いやってやまない俺は、時に自分の都合で相手の時間を奪ってしまいやしてないか、なんて気にしちゃうんだよね。
まぁ、ヤマナさんはそんなこと微塵も感じてないだろうが。
そんな事を考えていると、ヤマナさんが何故か不敵な笑みを浮かべながら
俺の方へ手招きしている。
「・・・今、私とお話したいなぁって思ってませんでした?」
「いやまぁ、実を言うと二つほど聞きたい事があって」
「ふーん、あ、もしかして今日は私に会う為にギルドに来たんですか?」
「まぁ、そうなるというか、ヤマナさん以外に聞ける相手もいないというか」
「ふーーーん、まぁ、何でもお構いなく、聞いて頂いて結構ですよ」
「うん…ってその手はなに?」
「二つの質問で銅貨1枚です」
「がめつ!!ヤマナさん!冗談でもそういうのやめません??嫌われますよマジで!!」
「何を言っているんですか!こんなきれいなお姉さんとタダで喋るなんて、それこそおこがましいとは思わないんですか!」
「思わねーよ、っていやそういう事じゃなくてですね!」
「分かりました、じゃあ私これから休憩なんで、じゃ」
「あーー!!!分かりましたよ!!払いますって払えばいいんでしょ!!」
「えへへ、毎度~」
畜生!!!あとで絶対ギルマスにチクってやる!
「それで、一体何が知りたいんですか?」
「うん、実は自分で家を建てたいと思ってさ。でも、そういう場合って勝手に建てちゃマズいよね?」
「いえ、建てていいと思いますよ」
「えっ?い、いいの?でも、土地代とか、国の許可とか必要じゃない?」
「土地代?そんなものありませんけど」
「無いんだ・・・と、いうことは、どういうこと??」
「如何なるものであっても、王国領土の土地を無断で占拠する事は禁じる。という決まりは確かにありましてですね」
「うんうん」
「でも、それはあくまで敵の国とか、謎の組織、野盗など国に害を成すもののみ。という決まりであって、国民が空いている土地に家を建てて住むのを禁止しているわけじゃないのでー・・・」
「あ、そうだ、あと土地はそもそも国の所有物なのでそれに勝手に値段なんて付けたり権利を主張なんてしだせば、即牢獄行きになりますねぇ」
「なるほど、じゃあ例えば立地の良い土地に巨大な家を建てても、それは早いもの勝ちという事で許されるわけだ」
「許すっていうか、それこそ前に話していた、じゃあそれだけの土地を守れるの?とか、近隣住民に敵視されたりしないの?とか、様々な自己責任が付き纏うと思いますけどね」
なるほど、そういう事か―――
この世界は何をするにしても、それを国が保証するという構造にはなっていない。家を建ててもいいが、その家に何かあっても自己責任。故に貧乏人は見栄なんぞ張らずに身の丈にあった家を作る。
前の世界と比較するとこれはこれで心機一転も狙いやすいし、夢も描きやすいのかもしれない。というか、土地代という概念が無いのは本当に賛成したい所だな。そりゃ早いもの勝ちってのも不平等だと思うけど、だからと言って土地にまで値段を付けると、それこそ高騰している土地は迂闊に手を出せないわけだし、果たしてどちらが公平なのか。
「もしもーし、戻ってこーい」
ヤマナさんが頭をノックするので会話に戻るとする。
「もう一つは、えーっとヤマナさん、結界って知ってます?」
「ええ、結界は知ってますけど」
「それって、ずばり・・・魔法ってやつですよね?」
「ええ、魔法ですけど」
「ってことは、誰かがずっと魔法で結界を張っていると、いうこと?」
「いえ、確か恒久的な結界装置を利用していると聞いたことが・・・えっと、私も詳しくは存じないのですが、確か王宮のてっぺんに起点があって、後は東西南北に結界装置を設置している、って感じだったような」
「ふーん、その結界で王都には魔物が迂闊に入って来れないようになっているんだ」
「そうなりますね。ああ、それとある程度気候を和らげる効果もあるそうですよ、この辺で雪なんて降らないでしょう?」
「!!・・・言われてみれば雪が降る程寒くもならないな」
「うんうん、だから容易に野宿もできちゃいますしね。私はしませんけど」
そう言うとチラっとこちらを選別するような視線を送るヤマナさん。
そうやって野宿を馬鹿にするやつは、いつかきっと野宿になるに決まっている。
「でもまぁ、俺の田舎ならともかく、この新興街でも魔法なんて聞いたこともなかったしなぁ」
「魔法使いってこのギルドにも来るの?」
「いえ、まったく。というか、この国に魔法使いなんているのかな?」
「えっ? 魔法使いもいないの?」
「ええ、これも歴史を学んでいたときに知ったことですけど、どうもこの国で昔の王様が、一時魔法の使用を自粛せよ。との御触れを出した事があったそうで、それ以来この国では魔法を重んじる考えが徐々に薄れていったみたいですねぇ」
「へぇ、歴史か~」
いつか、時間がある時でもこの国の歴史を調べてみたいものだ。
「じゃあ他の国だと魔法はもっと身近なのかな?」
「はい、でも魔法なんてなくなって冒険そのものはどうにかなるものらしいですけどね」
「というか、魔法に興味があるんですか?魔力もないのに?」
「うん、まぁ・・・って魔力がないのに?は、余計じゃね?」
「この国じゃ魔力がある人の方が稀有ですって。だから皆魔法に興味もないし、現に新興街じゃ魔法の恩恵もありませんしねぇ」
・・・なくても別に不自由はしない。
恐らくは。そういうものなんだろう。
「魔法の事をよく知りたいのなら中心街にある王立図書館に行くのが一番だと思いますよー。はい、これ」
そう言うとヤマナさんが俺に一通の書状を渡す。
「なにこれ」
「書状と伝言を預かっていたんです。なんでも相談したい事があるそうですよ~」
「普通、先に渡さない?」
「ええ、渡そうと思ったらお金くれるって言うんでつい・・・」
――ダメだこりゃ、もう突っ込む気力さえ沸かねぇ。
俺は早速書状に目を通す。
それは、なんと・・・!
「中心街通行許可証・・・だと!?」
そしてその書状を保証する者として、あのナジーム爺さんの名前が記入されていた。
「ナジーム爺さん、中心街へ移動したんだ」
「そりゃ、あれだけ成功したんですしいつまでも新興街の外れになんて住んでられませんって」
・・・おいおい、こんな短い間に一体どれだけ成功してんだよあの爺さん。
「そういえば、工房はどうなったんだろう?」
「ああ、それも今は別の者が倉庫に利用しているようで。製紙工房そのものは・・・あれはもう、工房と言うか要塞ですね」
「はぁあああ??」
そして、俺はその足で新たに出来たとされる製紙工房――を目の当たりにする。
それは、確かに要塞と言われても仕方のない巨大な工場にまで進化していた。四方は大きな塀に覆われ、正門には沢山の荷馬車やそれを見守る門兵らしき者さえ配置されている。
「すごいな・・・こんな短期間でここまでなるかよ・・・」
勿論中に入りさえすれば、昔の馴染みの一人や二人は居るんだろうけど、俺はあえてそうはせず中心街の方へ足を向ける。なんとなくだが、もうあそこに自分の居場所は無いような気がしたからだ。
それにしてもまた中心街か、許可証があるという事はもう今後いちいち通るたびに金を徴収される事も無いのだが―――
会いたくない奴が多いのもまた事実。
姫とか。
あと、生意気な女従者とか。
とはいえ、ナジーム爺さんの相談を無下にする訳にも行くまい。
「まぁ、どれだけの豪邸に住んでいるのか確かめるのも悪くない、か」
あと、この際だ、生活資金もたかって――免除して貰おうっと。




