第22話 ―この世の不可侵に触れた(い)―
―和気あいあい
ようやく平和が戻ってきた。
穏やかな朝、顔を洗ったら身支度をし、今日も今日とて樹皮採集。帰る前に
森を探索し、日が暮れる前には新興街へ帰る。俺がずっと求めていたのは、こういう些細で、それでいて平凡な生活なのだ。
そして、仕事を終えたら次の日はしっかり休むのも忘れない。
自分のペースで仕事が出来るって本当に素晴らしいね。
そして、休みの日は大体だらだらと過ごしている。とはいえ、今は諸事情に
より住処が無いので、少し肌寒くなったこの季節は冒険者ギルドに
よってクエストを物色するフリをしながら、さり気なく暖を取っている。
すると、いつの間にかヤマナさんがやってきて談笑が始まる。
ヤマナさんは本当に聞き手上手である。
ある時は、俺の武勇伝を笑顔で何度も頷きながら聞いてくれた。
――そうですよね。では――防犯のために、騎士団の全兵力を投入する必要はあると思いますか?
「・・・って言った時のあの静まり―――そして驚愕する狐男、好き!結婚して!とせがむ金髪美女・・・あの時の騎士団連中の顔と言ったら……ヤマナさんにも見せたかったなぁ」
「うんうん、でも騎士団の人達もなんで言われるまで気づかなかったんでしょうねぇ」
「そりゃ頭でっかちだからじゃないんですか?庶民の感覚じゃ防犯対策なんて常識ですって!大体野盗風情に―――」」
と、そんな感じでヤマナさんとは和気あいあいと楽しませてもらっている。
殺害予告されたり、拘束された挙句腹蹴りされたり、そんな過去はお構いなしに俺は楽しく談笑している。
あと、なんでそんなに熱心にメモを取っているのかも謎だ。
ま、楽しいからいっか。あはは、あはははは。
―そうして数日後
さて、今日も樹皮採集。
収入も安定し、必要最低限な生活は維持出来ている。
衣食住で言うならナジーム爺のところでの雑魚部屋生活以来、住むところは野宿専用、略して野専になってしまった。
YOUハナニシテンノ、ですって?
いや、王都って意外と暖かくて野宿でも何とかなっちゃうというね。
もちろん、新興街とはいえ格安宿や貸し部屋などはあるけど、月々の支払いを考えると別にいいかなって感じ。一カ月の家賃が銀貨1枚程度だけど、それを恒久的に支払うって考えると、それならいっそ自分の家が欲しい。
それこそ、村を立て直した時のノウハウがあるのでちょっとした小屋なら問題無く建てれるとは思うんだけど、まぁ勝手に建てちゃダメだよねぇ?
土地とかも恐らく国の所有物だろうしさ。
というわけで普段も、それからしばらく後も、なんなら死ぬまで一生俺はたぶん樹皮採集をしていると思ふ。
何かを期待しているのなら申し訳なく思う。
でも、すまない。
割とリアルでこれが普通なのでは無いかと俺は思う。
今まで散々色々な出来事もあったし、酷い事もされたけど、そんなテンポよく色んな事が起こるなんて、事実は小説より奇なりじゃないんだからさ。
ここはそう、肩の力でも抜いて、チートやハーレムのことなんて忘れてほしい。
本当の意味で頭をからっぽにして、俺の採集ライフをその目に刻んで欲しい。
つーかさ―――
「なんでこんなに探し回っているのに、ロクな生き物がいないんだああああ!!!!」
「おかしいだろ!こんなんおかしいて!!」
そうだ、樹皮採集なんかどうでもいい。
始めて食べた虫肉の味が忘れられないから、わざわざ半日もかかるこの道のりを乗り越えて森の生態調査をしていると言うのに、どんだけ調べても食いごたえのありそうな生き物が全くいないというのはどないなっとんねん!
まぁ正確に言えば、いることはいる。
少しジメジメした土を掘り返せば、釣りの餌になりそうなミミズならいくらでも取れる。だが、それが大型化したものが一向に見つからない。
いくら距離があるとは言え、亜種のひとつやふたつぐらい居ても良いはずなんだけどなぁ。
「うーむ・・・」
「大声あげるから何事かと思ったけど、探し物は中々見つからないみたいですね」
そう言って若い冒険者の一人が声をかけてくれた。
最近よく樹皮採集クエストで一緒になる新人冒険者のノイシュ君である。
「俺が居た村の周辺だと、大型種の昆虫とかわんさかいたもんなんだけどなぁ」
「ああ、もしかして魔物を探しているんですか?」
魔物――?そういや、こっちの世界じゃ通常よりも巨大化している虫は魔物扱いされていたっけか。
ある意味益虫だというのに勿体ない話だ。
「ジャイアントワームとかジャイアントビーって魔物扱いなの?」
「えっ?普通に魔物ですよね?」
「ちなみに、食べ――素材を利用したりは?」
「それは、もう。でも、どっちも迂闊に手を出すと危険なモンスターって聞いたことが。僕みたいな駆け出しだとソロだと無理ですね」
――えっ?そう?
普通に狩ってたけど?
「もしかして、ずっとその魔物を探していたんですか?」
「まぁね、亜種でも居ればいいなって思ってたけど、ここいら周辺は本当に虫しかいないわ」
「ああ――それは、きっと王都からの結界のおかげですよ」
「けっ・・・かい?」
「はい、魔物を寄せ付けないよう聖方スランティア教会にて魔法結界を展開させているんですけど、もしかして今まで知らなかったんですか?」
いや、知らないよ。
でも、まぁいよいよというか、とうとう出てきたな・・・
魔法。
新興街では会話の単語にさえ出てこなかったので今まで忘れていたが、この世界にも確かに魔法は存在するらしい。
というか、そのせいでお目当ての生物が今まで見つからなかったのか。
俺からするとありがた迷惑もいいところだなぁ。
ノイシュ君ももうちょっと早くそれを言ってほしかったよ・・・。
「じゃあ、王都が魔物に襲われる事もないのか、どうりで人も集中する訳だな…」
「いえ、必ずしもそうとも限らないというか、強い魔物が出てきたら襲ってくると思いますよ」
「え?だって結界で守られているでしょ?」
「はい、でも、その力もせいぜい魔物を近寄らせない微弱な波動を発生させている程度のもので、過去には何度か近隣の村が魔物に襲われるという事件も起きてますしね」
ふーん、結界と言っても万全という事じゃないのね。
忌避剤・・・みたいなもの、カトリセンコウ・・・?
まぁ、結局その日は無事に樹皮を納品してマイベストプライスに転がり込んだのだが、『魔法』と言うワードを聞いて俺の中に眠っていた疑問が不意に急上昇してしまった。
・・・そもそも魔法ってなに?
と、いう疑問である。
当然、この世界では魔法は普通に存在している。
でも、前の世界でも魔法は何故か当たり前のように扱われていた。まぁそりゃあ、ファンタジー。つまり、フィクションだからなんだけど。
でも、それでも数多とあるなろう系作品の中で「そもそも魔法ってなぁに?」という問いを追求した作品も見当たらなかった。
魔法はなぜ生まれたのか?
どうして魔法が発動するのか?
そもそもそれは魔法なのか?
化学的に証明とかできたりするんじゃないのか?
まぁ、ぶっちゃけ俺の中で――
「あーなんだ~魔法か~すごいねぇ~魔法って便利だなぁ」
で、終わる事に今まですごい引っかかりを感じていたのだ。
どうせ、この先の俺の人生と言えば、樹皮採取で生計を立てつつ、小さな小さなマイホームを手に入れ、そこで慎ましく安らかに暮らすでしかない。
そう思うならいっその事、前の世界では存在しなかった、魔法という現象について調べてみるのも悪くないかと思ったのだ。
ふっふっふ・・・なんだかもしかして俺、凄い事しようとしているんじゃないの?
だって、この世界で俺だけなんじゃね?魔法を調べようだなんて思った人って。世界で唯一ってなんかやばくね?解き明かしたらもうノーベル賞ものじゃない?この世界にノーベルはいないけど。
そうやって、ワクワクが止まらぬまま、何時もの如く何故かそこにチートやハーレムなどの妄想も膨らみ、見事に目がギンギンになって朝まで寝れなかったと言うオチ。
とはいえ、この世界はどこでも自由に出入りできる訳じゃ無いので、この魔法とは何ぞや?という調査はもう少し魔法に触れる機会を待つか、実在する魔法使いさんに会えた時までまた封印しておくか―――
それとも、ヤマナさん辺りは何か知っているだろうか・・・?




