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第16話 ―虫を冠する第十二王女―



―賊の襲撃



「姫!!『新興街・東門前』にて野盗襲撃との報が!!」


「何っ!?」


――迂闊。



それは我が城外治安部隊、王蜂(おうほう)騎士団が、まさに反対側の西門前の見回りに差し掛かった頃のことだった。



「副団長!!どれくらい掛かる?」


「ハッ、ここからですと全力で1刻半程かと」


「遅い!一刻でその場を目指す、我に続け!!」


「ひ、姫!まだ情報も不確かな故、作戦を――」


「馬鹿を言うな!! 今この時をもっても賊の襲撃は続いているのだ、一刻も争う! 全軍、駿馬の限りを尽くせ!!」



馬を駆けながらも私は思考する。


賊は――我らの動きを察知しての事だったのか?いや、きっとそうに違いない。で、あるならばどうやって・・・密偵、視察、それとも内部による通告者?



クソ、考えるとキリがない。


大体、四方すべてを賄えるだけの隊を置けばいいだけの事なのに。


その事については何度も王へ具申した。けれども未だに答えらしい答えを貰えていない。


その結果がこれか。



「急げー!!もうすぐ到着するぞー!!」


私は声を張り上げる。


願わくば、民に犠牲あらざらんことを――。


――――――――――


しかし、空しくも――我が隊が到着した頃には、街は見るも無惨な有様となっていた。


「誰かー!!生きてる者はおるかー!!」


私は大声で生存者を探す。すると、荒らされた家の外で抱き合う夫婦の姿を発見した。



「賊はどこへいった?」



女の方が震えながら、賊が逃げていった方角を指差した。



「お、お願いです!!娘が、娘がさらわれたんです!!」



私はその声には答えず大声で叫ぶ―――



「聞け!!賊は南南西の方角へ逃走!!これより殲滅をはかる!者共遅れを取るな!!」


「姫!! しかし民の救助が――」


「賊を討つのが先だ!!この機を逃さん!!」



「――王蜂騎士団、全軍に告ぐ!」



「民を傷つけ、我が国土を荒らした賊を――一人たりとも逃がすな!」


「仰せのままに!!」


私が自らの権限で組織し、育て上げてきた城外治安部隊――王蜂騎士団。


その数三十は下らない騎兵の軍隊が、今、賊を討ち取らんとその後を追いかけていく。


それからしばらく追撃に馬を走らせていたその時だった。

前に馬影が見えだす。


後手に回ったのは痛手だったが、ようやく賊の尻尾を掴めた。



「いたぞ!!西方向!!数、二十下らず!!」


「弓騎兵部隊、前へ出て構えー!!」



剣を抜き、弓騎兵を前へ出す。



「構え終わり!いつでも放てます!!」


私は剣を高く上げ、そして勢いよく振り下ろす。


「撃て―――!!!」


矢は高々と上空で大きな弧を描き、先を駆ける賊の後方へと降り注いだ。


尻を射られた馬が大きく暴れ、乗っていた賊を次々と野へ放り投げる。


そこで賊はようやく自分達が追撃されている事に気づく。



「チッ・・・追手か!」


「構うこたぁねぇ!!どうせ例のお飾り部隊だ!!じきに諦める」



「それはどうかな!?」



頭目と思しき者の声が聞こえたような気がして、私は苛立ちながら馬の腹を蹴る。同時に馬は一気にその力を解き放ち、加速していく。



「ば、馬鹿な!!」


「ひ、姫―――!!!無茶は、無茶はおやめくださいー!!!」


「姫だと?おい、この女、王族だぞ!」


「何?こいつは大物が釣れたぜ!!」


「……って、おい! なんだこの馬!?」


「速ぇ!? こいつ、どこまで突っ込んでくる気だ!?」



私は全力で馬を走らせる。



「そこいらで盗んだ馬と、幾重にも鍛えられたる我が愛馬を一緒にしてくれるなよ!!!」



そう叫んだ次の瞬間には、私は馬群の先頭を一気に追い抜き、そのまま遥か先へと駆けていた。


だが――そこで一気に手綱を引く。


愛馬は(いなな)きながら前脚を高々と持ち上げ、その身を大きく反らした。

そして着地するや否や、敵へ向けてその身を翻した。




「お、おい・・・まずい!剣を抜け――――」


「遅い!!!」


私は抜いた剣を賊の喉元目掛けて斬り落とし、さらに続く二、三の賊もその馬ごと斬り捨てた。



「か、頭がやられたーー!!」


「逃げろ――!!」


「逃がすか!!者共ーーー!散れ!!掃討せよ!」


私は高々と(とき)の声をあげる。


だが、その直後――激しく息を切らし、己の体が限界に達していたことを知った。私はゆっくりと、その鞍から身を落としていく……。



――――



気づけば私は、従者であり側近の馬の背に乗せられていた。



「姫に何かあれば御父君が悲しみます。どうかこのような無茶はもうおやめください」


私よりもまだ若く、幼さが残る娘の声。だがその声は本当に私の身を案じてくれているかのようだった。



「・・・うるさい。お前の父親とあれを比べてくれるな」


「姫っ!御父君をあれよわばりはいけませんっ!!」


「もういい、私は少し眠る。街まで来たら起こしてくれ」



―冷ややかな目線



「ありがとうございます!ありがとうござます!!」


どうにか賊は討ち取り、さらわれた娘も無事に親の元へ帰すことができた。



だが・・・。


街は荒れ果て、火は消せどもその燻りは未だ白い煙を上げ焦げ臭さを漂わせている。


悲しみに暮れる人々が我らに向ける視線に、感謝の笑みはない。


ただひたすらに――


「何故、もっと早く来てくれなかった」


そんな恨みの声が、幻聴となって聞こえてくるようだった。


賊は討った。


だがこれは・・・


こんなものは・・・・・・・・・!!!!



「クソ!クソクソクソ!!!」



私は己の剣を地面に叩きつけ、何度も何度も踏みつける。


「ひ、姫・・・おやめください!!!」


「皆が見ております故、どうか心を静めくだされ!」


「うるさい、煩い煩い!!!」


「民草さえ守れぬ部隊の、何が治安部隊だ‥‥!」


悔しい、そして私は久々にその目から涙を流した。


それは、父上の傀儡にされたあの日以降の出来事だった。



―弔いの時




野盗襲撃の後、皆で灰塵と化した街を片付けていく。


工房での被害者はペンネルさん一人だけで、その弔いは彼をよく知る、工房の皆全員で行った。



「馬鹿野郎・・・桶なんてすぐ作れるだろうに…」


「畜生・・・なんであんたが死ななきゃならねぇ」



悲しみにくれるその気持ちは俺も一緒だった。



「と言うかさ……もうあとどれくらい、こんな悲しみに暮れなきゃならないんだ」


俺は独り言のように呟く。


なんで平和は続いてくれないのだろう。


皆の幸せを、平然と奪う奴がいるのだろう。


そして――俺のこの平和ボケした感覚は、いつまで俺を縛り続けるのだろうか。


平和が当たり前だなんて、そんなことを俺が言えるはずもない。


皆が平和に暮らしていくには、それ相応の力が必要なのだ。


それは、俺が今まで考えていたよりもずっと当たり前のことだった。



そんな時だった―――



「クソ!クソクソクソ!!!」


もの凄い形相で、自分の剣を地面に叩きつけ、何度も踏みつける女騎士がいた。周囲の者たちに止められながらも、彼女は必死に何かを叫び続けている。


やがてその頬から、一筋の涙が零れ落ちる――。



「あ、無事だったんですね」


それを見ていた俺に、ヤマナさんが話しかけてきた。


「ああ、そっちは大丈夫だったの?」


「はい、もしもの為に地下に逃げ込めるシェルターがあるんです。それで冒険者ギルドに居た人達は全員避難できました」


「そうか、そりゃよかった」



「ところでヤマナさん。あの騎士団、それとあの方は?」



自分で聞いたのもあれだが、俺はなんとなく、その人を何処かで見たような気がしていた。


「ああ、あの方々は城外治安部隊で知られる王蜂騎士団の方々で、今取り押さえられている方はこの国の第12王女、プリシア・アクシアス王女殿下ですね」



「ああ、そういえばさっき野盗討伐で一斉に馬を駆け出て行った連中か。でも、何故あんなに怒っているんだろう?」



「それは――街を救えなかったことを悔やんでいるんじゃ……」



「結局、王族の戯れ・・・お飾り部隊なんだよあれは」



その時、俺達の会話に別の男が混ざってきた。



「そんな言い方は・・・と、擁護したいところですが、実際あんまり大きな成果を上げてないのもまた事実・・・なんですよね」


「第十二王女にして、もっとも政権争いから離れた王女と言えば有名な話だぜ。なんでも使い道がないから王様直々に放免なされたって話だ」


「それであの姫に纏わる最も面白い話がこうだ」



姫に纏わる面白い話・・・?


こんな時になにもそんな不謹慎な事を言うもんじゃないと思うが…。



「そうだな、1年ぐらい前だったか。姫様が突然王様に()()()()()()()()()()を国中に広めろと言い始めたんだ。もちろん、そんなものは通るはずもねぇ。王様はおかしくなった姫を宥めるのにたいそう苦労したって話だぜ」



「話はそれだけじゃ終わらねぇ。その話は瞬く間に貴族達の間で広まっちまってよぅ。それであの姫に付いたあだ名が―――」



「―蜂虫(ほうちゅう)の王女―ですよね?」



ヤマナさんが待っていたと言わんばかりにその名を口にした。



「そうそう、なんだ?俺は虫喰らいの姫様って聞いたぜ?まぁどっちでもいいけどさ、いや、良くはねぇか。あの姫様にとっちゃ」



「蜂・・虫の・・・王女」



「なぁ、その虫食・・・非常食ってのは、一体誰から聞いたんだ?」



「はぁ?ああ・・・確か、恐ろしい程ど田舎の辺境に住む変な男から聞いたって話だったなぁ。まぁそんな話をまともに信じたせいで虫扱いされてる訳だから、そんな男は見つけ次第・・・これだろうな」



男は手で首を切る仕草をした後、何事も無かったかのように去って行った。



「虫を使って非常食をねぇ…世の中変わった事をする人もいるんですねぇ」



おいおいおい・・・ちょっと待ってくれ。



その非常食を教えた男。

あの時の高貴な女性。

そして――忘れられない、一枚の金貨の重さ。



「うあああああああああそれ俺だあああああぁぁぁ!!」



悲しみに暮れる間もなく俺は空へ向けて絶叫した。



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