第11話 ―王都、仕事が、ない― 後編
―人生終わる―
ギルドへの登録は無事に済んだし、最優良冒険者である俺なら仕事は引く手あまた。だが、俺は恐れている・・・・・・。
何処かで拾った茣蓙を巻いて生活する日々?
とっくに尽きた食料?
違う、違う違う、そうじゃない。
「明日がノルマの支払日いいいい!!!!」
もう終わった。
これで俺も晴れて牢獄の住人デビュー。
薄暗い牢屋の中でドブネズミだけが友達の日々。
生まれてこの方チューすらした事ないのに、僕はドブネズミと一緒に牢獄でチュー。
って俺は一体何を言っているんだろう。
ああ、腹が減った。
チューチュー言ってたら、温かいシチューが食べたくなってきた。
一体何故こうなった?
というか先に進むごとにどんどん酷くなってないか?
蜂肉食べてるあの時が一番幸せだったなんて人生もちょっとあんまりすぎないか?
ま、別にいいんだけども。
「参ったな、このままじゃ本当にジリ貧、いや牢屋か追放か」
と、いうわけで一体何がどうしてこうなってしまったのかを振り返って話そう。
―かみ合わせの悪い―
翌日、俺はさっそく朝の一番で掲示板のクエストを物色する。
だが、どういう事か掲載されているクエスト内容は―――
『大至急求!! 〇〇村付近に突如現れたゴブリンの拠点討伐!!』
『来たれ!! 迷宮探索!!目指せ完全踏破!※迷宮で手に入れた報酬の2割はギルドに受け渡す事とする』
『王国勅令!!○○山脈に存在するとされる伝説の竜の探索調査!報酬はおもいのまま』
『助けてください!〇〇村で獣が大暴れして困っています。私の体でよければ好きにして貰っても構いません♥』
――っておいおい、一体どういう事だ?
見れば見る程まともなクエストしかないじゃないか!?
最後のはちょっとダメだろ。ちょっと気になるけどさ。
と、いうわけで探せど探せど、俺が受けられそうな仕事が一つもない。
「いいですかー?そもそもクエスト、冒険と言うのはですね、何十人で手を組んでじっくり戦略を練って確実に成功を掴み取るものなんですよ」
受付嬢のお姉さんが、諭すように説明してくれる。
それはそうだ。寧ろこれこそが本来あるべき冒険者ギルドの姿だと言うのは分かる。
しかし――
「いや、ほら、もっとこう初心者向けと言うか、野草採取とか、困ってる人のお手伝いとか、誰でもできる簡単な仕事とかですね・・・」
「ああ、それも勿論ありますよ」
と、受付嬢が大きく掲示されたクエストの下の方を指差す。そこには目立たぬようにそれっぽいクエストが掲載されていた。
「なんだ、あるじゃな――」
なんだこれ。どれもこれも受付完了になっている。
「そう言ったクエストはもう何日も前から先約が入って、そうなかなか受けられないようになっているんですよねぇ」
申し訳なさそうに受付嬢がニコニコな笑顔で愛想を振りまく。
「・・・詰みだな」
冒険者ギルドではまず仕事は取れないと諦め、俺は外へ出る。
そう言えば・・・――俺は前に言われた事を思い返してみた。
―――そういうわけだから、お前さんも早いとこどうするか決めるこったな―――
何気ないおっさんの言った一言、あれは暗に、
「おめーの席ねぇから!」
という現実を仄めかしていたのか・・・!
王都へ行けば仕事がある。そんな誰もが考えうる安直な動機によって、人々は各地から殺到していく。そうなれば必然的に、需要と供給のバランスが崩れていく。仕事を求める人間ばかりが増えれば、当然ながら全員に仕事が行き渡るはずもない。
仕事にあぶれ、誰もが希望をなくし、地面へとへたり込む。
「なるほどな……それが今のこの街という訳か」
どこか殺伐としているように見えたのは、決して勘違いではない。皆で仕事を奪い合わなければならないほど、この街は必死なのだ。
だが、だからと言ってここで引き下がる訳にもいかない。
引き下がれない。
俺にはもう後がないのだ。
そう思って必死に頑張ってみた結果、俺は冒頭に戻り、路頭に迷うハメになってしまったわけである。
振り返れば俺はとにかく、人とは違う変わったことをして糧を得てきた。
人とは違う変わったこと……?
「そうか! 人とは違うことか!!」
なんでこんな当たり前のことに、今まで気づけなかったんだろうか。
発想の転換である。皆と同じように仕事に困るのなら、仕事に困らない方法を模索すればいいのだ。しかし、人と違う仕事と言ってもそうそう頭に思い浮かぶアイディアなどない。
皮肉なことに、俺の最も得意としていた『サバイバル術』は、この王都では最も相性が悪かったという事実。
かつての蜂煎餅作りに活路を見出したくとも、大蜂の生息区域が王都周辺にまで広がっている保証は無いし、ミミズも然り。さらに言えば王都周辺は広大な穀倉地帯が広がっていて森とよべる森に行くには何日も掛かってしまうという非効率。
「あ''ーー!戻って蜂煎餅作りたくてもその道中で絶対に野垂れ死んでまうー!!」
つまり、俺は王都を目指した事によって完璧に自分のアイデンティティをドブへ捨てていたのだ。俺、馬鹿すぎる。バカすぎて笑える。
いや、笑っている場合じゃない。
人と違うことを思いつくことが先決である。
「そういえば、かなりの確率で人と違う奇妙なダンスをしているおっさんに遭遇するけど、ああいうことじゃあないんだよなぁ」
あれで飯がくえりゃ俺だってやるけどさ。
大道芸人とかそういう路線かぁ・・・?
いや、そもそも俺何もできないし――
そう色々と考え込んでいると、意識が朦朧としてきた。
ああ、いよいよお別れか。
願わくば、今度こそチートやハーレムのある世界に―――。
―――――――――――――――――――――
―夢にまで見た和紙作り
「はぁい、今日は和紙作りをします」
揺れ動く意識の中、俺は前の世界での朧げな記憶を思い出していた。
全体に星のエフェクトを撒き散らしていそうな、ほわほわな中年女性が笑顔で木の枝を持っている。
しかし、妙に懐かしい顔だな。
まぁさすがに好みの相手では無いのだが・・・・・・。
あ、思い出した。
この人、前の世界で俺に和紙作りを教えていた先生じゃないか。
ああ、懐かしい。なかなかにユーモアあふれる先生だった。
まぁ時折恐ろしい形相になる事もあったが、それは俺がサボっていたから。
学校に居た時の特別授業で和紙を作り――
和紙……紙?
「「「「紙か!!!」」」
俺はこれこそイケそうだと上半身を一気に起き上げる。
この世界じゃ紙はまだ高級品で普及はしてない、
市場を見ても紙などはめったになく――――
―前は蝋版だったんですけどもうそれだと処理が間に合わなくて――
あの時の受付嬢の言葉からも裏付けられる。少なくともデスクワークの多そうな冒険者ギルドでさえ、紙はまだ日用品とは呼べない代物なのだ。
「イケるぞ、これはイケる!!!紙だ・・・そして俺は神だ!!!わはははは!!!」
極限の精神状態と極度の錯乱状態で自分でも何を言っているのか分からなかったが、とにかく活路は見いだせた。
というか、もうこれに懸けるしかない。
―そうして翌日
俺は罰が悪そうに冒険者ギルドへ顔を出す。
「すみません、今月のノルマの事なんですが・・・」
「はい?」
受付嬢がニコニコしながら、首を傾げている。
ちょっとした沈黙のあと、彼女は「ああ」と合点したように、手でポンッとはんこを押すような仕草をした。
「ああ、ノルマって納税の事ですかー?いやだなぁ、何も稼いでない人からどうやって税金取れるんです?そんなの払わなくていいんですよ~」
は・・・・?
あれだけ悩み抜いた俺の時間は?
「あ、そういえばこれマスターから差し入れです。もう優良冒険者なんですから早くしっかり稼いで、うちのギルドをおっきくしてくださいよー?」
「は、はひ」
俺は差し入れの温かいパン袋を手に掲げながらギルドを後にした。
人生よ
悩んで意味なし
馬鹿一代(字あまり、季語なし)
俺――心の俳句




