ぷつぷつ 7
「まあ座れ」
梢に導かれ黎人と弦蔵は椅子に座った。肘掛のついた四つ足のしっかりした椅子だった。
「鬼か」
座るなり黎人が口を聞いた。
「ああ、そうだ」
梢が答えた。会うなり交わされた二人の会話に驚きもせず弦蔵も黙って椅子に座った。
「予想がついていたか」
黎人は黙ったままの弦蔵の顔を眺めた。
「・・・目覚めたからな」
弦蔵の呟くその静かな声を聴いて黎人は微笑んだ。
「微笑むな」
弦蔵はふいっとそっぽを向いた。黎人は幼子の頭を撫でるかのように優しくその背中を撫でた。
「鬼の半身を焼き殺し、千翔の元に駆けつけたあの時、半身を削ったはずなのに鬼は力を取り戻しつつあった。計画通りに滅することは不可能だと思った私は、使命を全うするために自身の魂に火をつけ一矢に込めた。矢は鬼の額を貫いた。神に渡されし我が魂と共に一瞬にして鬼が燃え尽きたのをこの目で確かに見届けた」
黎人に背を向けた弦蔵の肩が震えた。
梢の閉じた瞼も震えた。
「それでもやはり鬼か」
弦蔵の言葉に梢は答える。
「残滓」
「たぶん舞った髪の毛といったところだろう。それが人の憎悪に呼応して力をつけたか」
二人の声とは違い黎人の声に曇りはない。先ほどとは違い今度は少し力を込めて弦蔵の背中を叩いた。
「憑いたものの憎悪にもよるが皆が困るほど力をつけることはない。そんな力なら私にも伝わるはずだから。どのくらい奴の残り滓があるかは分からないが、一つ一つ滅していけばいいさ。そう難しいことではないよ」
ぽんぽんと背を叩くその手はやはり子供をあやすかのようだ。
「梢もそんなに心配することはない」
梢にも優しい視線を送る。
「ただ、だいたいでも数の把握ができるのならしたほうがいいだろう。今回の除霊で遺物が手に入ればそれをもとに鬼の気を視て欲しいな」
「ああ、もちろんだ」
梢は頷く。
鬼の遺物。
このために生きながらえ目覚めたのなら、それを全部滅ぼした時、あなたは・・・。梢は声にならない声を飲み込み上を見上げた。高く深く続く闇の中の梢にしか視えない存在の気配がゆっくりと動いた。




