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鬼道、つれづれ日記  作者: 椛こま


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ぷつぷつ 6


北家の禁書庫。

陰陽師四家の中での北家の役割というのは他の三家とは違っている。もちろん悪霊や怨霊を除霊することもあるのだが、北家の専門は卜占(ぼくせん)だった。

卜占にて吉凶を占う、個人の吉日、方角、祝い事の日取りから、朝廷の祭事や忌日までありとあらゆることを占うのだ。

北家の卜占の源は、北家が引き継いでいる膨大な資料と知識を基礎として成り立ち、北家が使役しているとされる神に近しき存在がそれを助けて成り立っているとされる。

この膨大な知識の中に呪術も含まれ、それら書物を管理している場所が北家の保護する稀地に存在する書庫なのだった。

そしてその書庫の管理者こそが、神に近しき存在に選ばれし者であり北家の当主の妻なのだ。

ある意味では真の北家の主ともいえる女性なのだ。


渡殿を渡り庭に下りると、どんどん黎人は裏山に向かって歩いている。陰陽師四家の名が示すように、各家は都の中心である天子様の住まいの天守閣から見た方角に位置し、南家以外はその一部が山に接していた。

木が多い茂った林の中の僅かな道をわき目も振らず黎人たちは進んで行く。

道はさらに狭くなり両側にそびえる木々たちに恐怖すら覚えるほど、そこは暗く視界が悪くなった。

幾分も進んではいないのに深く深く林の中を彷徨っている感覚を覚える。道とも言えない道は細く歩き難いはずなのに、黎人は整った街道を歩くようにすいすいと進んで行く。

急に目の前が開けてしめ縄が巻かれた一本の大木が現れた。


「うっ」


目の前の大木を懐かし気に眺めていた黎人は背後の弦蔵の嗚咽に我に返った。


「弦蔵」


慌てて背中をさする。


「大丈夫か?」

「ああ」


そう返事が返ってきたが苦しそうな弦蔵の顔を持ち上げ黎人は額を当てた。額を通して自分の霊力を流し込む。触れ合った額が僅かに白く灯り、乱れていた弦蔵の呼吸が整っていく。

北家だけではなく陰陽家には禁足地がある。

そしてそこを各家の当主が守っているのだが、それは当主の使命でもあり契約でもある。別の人ならぬ者と契約した者をここの主が否定するのは極当たり前の事だった。

黎人の霊力を注ぎ込まれた弦蔵は気力を取り戻した。


「もう、大丈夫だ」


そっと額を離す。


「すまない、あまりに久々に神気に当たって気を取られてしまったよ」


まだ心配そうに眉を寄せる黎人の腕を今度は弦蔵が優しくさする。


「大丈夫だ。ありがとう黎人」


弦蔵の愛のこもった瞳で見つめられると自然と顔を近づけたくなってしまう、黎人は自制を込めて半歩下がった。

その時、大木の洞からにょっきりと白い腕が這い出て来た。狭い洞の中を掻き分けるように出て来た二本の腕が幹を掴むと頭、肩と這い出して来る。ゆっくりと全身が出てくると、女はぱんぱんと衣を叩いた。


「久しぶり」


村娘のように簡単な単衣を身にまとった小さな少女がそこに立っていた。


「久しぶりだね、梢」


黎人は最後に見た姿から何ら変わっていない少女を抱きしめた。


「ああ、本当に起きたのだな」


お互いに背中をぽんぽんと叩き二人は離れ、見つめ合った。


『変わってないな』


二人の声が重なり、二人はひとしきり笑った。


「では行くか」


梢の掛け声で引きずり込まれるように三人は洞の中に入っていった。ぬめりとした物の中に引き込まれたように見えるのに、肌に当たる物はなくそれでいてそこに何もないわけではない。三人で引き込まれたはずなのに自分以外の存在を感じることも出来ず、真っ暗な空間に閉じ込められたような放たれたような摩訶不思議な感覚に襲われているうちに、急にどこかに放り出されたかのように視界が戻る。

別の領域、異世界というものだとされるが、ここがどこなのかは誰にも分からない。

目を何回か瞬かせてから黎人は目を開けた。

十分な広さの空間。四方の壁にはぎっしりと様々な書物が納められいる。部屋の広さには限りがあるが天井は見えない。見上げればどこまでも真っ暗な空間が続いている。


「お邪魔いたします」


弦蔵は見えない天井に向かい頭を下げた。黎人もそれに倣って頭を下げる。


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