27.乾さん
…『六道輪廻・栄螺堂』を攻略し、会社に戻って来たら…。
「「「「わーっしょい!わーっしょい!わーっしょい!」」」」
「うぇ…ま、マジで…吐きそうです…皆さん…ストップ…。」
…会社の皆が、何故か制作部の若手女性社員、乾さんを胴上げしていた。
…いやいやいや、コレどんな状況なんだ?
…一分程続いた胴上げ祭りが治まると、数人の社員さんが俺達に気が付いた。
「…おお、夢野!無事に戻って来たのか!」
「大島君も山里君も、怪我も無いようで良かった…!」
ちょっと外を偵察してくるという名目で外出していた俺達の帰還を、皆が取り囲んで喜んでくれた。
…先程まで祭りの主役だった乾さんは、その輪の外で地面に跪いて青い顔をしている。
…ありゃあ相当辛そうだな。
俺が少し心配していると、山里さんがアイテムストレージから状態異常回復ポーションを取り出して乾さんに話しかけた。
「大丈夫?…乾さん、良かったらコレ飲んで。」
「あ…あ、ありがとうございます、フヒ…。」
?…乾さんは震える手で小瓶を受け取ると、蓋を外して一気に飲み干した。
「…んん、落ち着きました!」
一瞬で顔色が戻った彼女は、そう言ってゆっくりと起き上がる。
「…え~っと、それで…一体何があったんですか?」
俺の質問に、皆が興奮治まらない様子で、矢継ぎ早に説明を始めた。
「夢野君達が出かけてから暫くして、ニュースで速報が流れたんだよ!」
「そうそう、『謎の建造物群の周辺で、危険性の高い動物が確認されました』って!『不要不急の外出は控えて、室内から出ないで下さい』なんて言うから、みんな夢野達の事心配してたんだよ!」
「それからまた暫くしたら…外が騒がしくなってきて、叫び声とか聞こえてきて…。」
「何人かが正門まで様子を見に行ったんだよ。そうしたら…。」
そこまで言った皆が、急に黙ってしまった。
…え、急にどうしたんだ?
俺の困惑が顔に出ていたんだろう。
年配の社員さんが、言い淀みながらも続きを話し始める。
「…あれは…『鬼』…だったよ。」
「ニュースでは『危険な動物』なんて言ってたけど、あんなの見間違えようが無いよ!」
「3mはある人型で、頭に大きな角があって、肌が真っ赤で…。」
「冗談みたいな牙が生えてた!身長と同じ位長い金棒も持ってた!」
「…それで、その鬼が二匹…ご近所の人達を追いかけまわしてたんだ。」
「社長が指示して、門の内側に避難させたんだけど…鬼も寄って来ちゃってさぁ!」
え…それじゃあ皆、まさかその鬼と戦ったのか!?
俺は実物を見て無いけど、3mある人型のモンスターって結構手強そうなんだけど…。
「…いやぁ~、アレは本当…かっこよかったわ。」
「皆で必死に門を押さえてたら、突然二階の窓から何か飛んできたんだよ。」
「ビックリして振り向いたら、鬼が大きな『つらら』に突き刺されて死んでたんだ!」
「それで、追いかけるように窓から人が飛び出してきてさ…。」
へぇ…!つらら…【氷魔法】か?
誰か取得したんだな。
…ん?
ちょっと待て。
「残りの一匹も『つらら』であっという間にやっつけちゃったんだから!いやぁ~、本当に凄かった!」
「ホントホント!格好良かったよなぁ──」
「「「「…乾さん!」」」」
…おいおい、マジか…。
「え…えへへ…フヒヒ。」
…目線を合わせずに顔を赤くしている乾さん。
…それは照れと気まずさが共存した、なんとも微妙な表情だった。
へ_\○ へ_\○ へ_\○ へ_\○ へ_\○
「ええっと…。」
社内の会議室。
今そこにいるのは俺と大島、山里さんと…乾さんの四人。
…乾さんは俯き、俺から視線を逸らし続けている。
…参ったな。
別に責めようとか、そういうのじゃ無いんだけど。
男三人で女の子をイジメてるみたいで、最悪の絵面だぞオイ…。
…さっさと始めよう。
「…うん、もうぶっちゃけて聞くんだけどさ。…乾さん、君…以前からDDT使ってたよね?」
乾さんの肩がビクッと震えた。
「…なんで…そう思うんですか?」
「…乾さん、つららを出したってコトは【氷魔法】か【氷魔術】を習得してるね?」
彼女は…無言。
俺は構わず言葉を続ける。
「【氷魔法】や【氷魔術】は、【火魔法】なんかよりも取得に必要なTPが多いんだよ。具体的に言うと…【氷魔術】の取得に必要なTPは10ポイント。…今日初めてDDTを使い始めた人間には厳しいポイントだ。」
「…。」
「…それに、ステータスもそこそこ高いよね?…少なくとも、二階の窓から飛び降りても怪我一つ負わない程度には。」
「…フ。」
?…今、笑ったか…?
「…僕が渡した『状態異常回復ポーション』…一切ためらわずに飲んだよね?…こんなガラス瓶に入った薬、普通なら怪しむと思うんだけど…知ってたんだよね?アレが『状態異常回復ポーション』だって。」
山里さんが追及する。
…言われてみれば…大島ですら、俺が渡したHP回復ポーションを怪しんでたもんな。
「…フ…フヒ…。」
「あ…そういえば…会社の皆でトレーニングしてた時、乾さんだけ異常に上手かったです!音ハメもバッチリでした!」
大島が急に思い出したように言う。
…うん、トレーニングなんて日々の積み重ねだからな。
…乾さん、相当やりこんでるな。
「…フヒ…フヒヒヒ…!」
笑い出した乾さんは突然椅子から立ち上がり、俺の前までツカツカと歩み寄って来た。
そして…逸らし続けていた視線を俺へと向けた。
「い…乾さん…?」
「ゆ、ゆ、夢野…さんっ…!!」
「…す、すいませんでしたーーーーーーっ!!!」
そう叫んだ彼女が俺達に見せたのは──
…それはそれは、美しいフォームのジャンピング土下座でした。




