21.潜入
「…よし、シャッターも下したし、ロッカーや机でバリケードも作った。あとは外側からトラックで塞げば、簡単には突破できないだろう。」
俺達は会社の正面入り口と非常口に侵入者対策を施し終えると、そっ…と正門を閉めて外へと出た。
街は…不気味な程に静まり返っている。
夕焼けよりも赤い空に照らされた風景は、何とも言えない不安や焦燥感を駆り立ててくる。
…これ、まさか今後ずっとこのままなのか?
…勘弁してくれよ…。
「夢野先輩、何処に行きますか?」
大島が辺りを警戒しながら訪ねる。
「ここからだと一番近いのは…あの塔かなぁ?」
俺は…赤く照らし出された、螺旋状の建造物を眺めながら答えた。
へ_\○ へ_\○ へ_\○ へ_\○ へ_\○
その塔は…なんとも奇妙な木造建築だった。
神社仏閣の様な日本式の建築物なのだが、巻貝の様に螺旋を描きながら天高くそびえ立つ姿は、アンバランスで現実味が無く…ぶっちゃけ、なんか気持ち悪い。
つーか、和風の木造建築だったのか…遠目に見た時には気付かなかった。
そんな塔の根元まで行くと…先程までの静けさと打って変わり、喧騒に包まれていた。
…人だ、人が居る。
最初は避難中の人々かと思ったのだが、どうやら異形の塔を見物に来た野次馬達が、遠巻きに取り囲んでいるようだ。
…警戒して家に閉じこもる人々と、不用心に出歩く人々…か。
『…不用意に近づかないで下さい!政府による特別警戒態勢が発令されています!住民の皆様は直ちに避難所へ移動してください!』
塔の麓を見ると、三角コーンと虎模様のコーンバーで急造されたバリケードを前に、拡声器を持った自衛隊と警察官の混成チームが野次馬を牽制している。
「どうします?あれじゃあ中に入るにも悪目立ちしちゃいそうですよ?」
「確かに…どうしたもんかな…。」
俺と大島が頭を悩ませていると、何かに気付いた山里さんが声を潜めて呟いた。
「…その心配は無いみたいだよ?二人共、DDT越しにあの塔を見てごらん?」
言われた通り、DDTを意識した状態で塔を見つめる。
『「六道輪廻・栄螺堂」に侵入しますか?Y/N』
…成程な。
この距離で既にダンジョンの侵入可能範囲内だったのか。
…そして、やっぱりアレが俺達の知る『ARダンジョン』と同じ系統のモノだと確定したワケだ。
俺達は人目を避け、建物の影へと移動した。
「…皆、準備は良いか?」
俺の問いかけに答えようとした山里さんが、何かを思い出した様に声を上げた。
「忘れるところだった…突然だけど二人共、『ARダンジョン』と『トレーニングバトル』ってどれくらいやってた?」
「?…自慢じゃないですけど、俺はどっちもかなりやりこんでましたよ。」
「自分は『ARダンジョン』の方はそこそこ…『トレーニングバトル』は暇つぶしに最適だったんで…って、なんでこのタイミングでそんな事を?」
大島の疑問に、山里さんは笑顔で答えた。
「これからダンジョンに潜るのに、武器も無いんじゃ不安でしょう?」
そう言い切った山里さんの右手に、光るドットが集まって長槍が出現した…!
「え…何処から武器が!?」
「山里さん…コレってまさか…!」
「…夢野君の想像する通りだと思うよ?」
俺は自分のDDT…その中に収納された『所持アイテム』を開く。
『トレーニングバトル』の褒章品や『ARダンジョン』でのドロップ品の数々が並ぶその中から、『トレーニングバトル』の連戦報酬として貰ったレアアイテムを選んだ。
「…うおっ!?」
俺の右手の中で、輝くドットが寄り集まると…大太刀の様な刃に、長い柄が特徴的な武器…「長巻」が現れた…!
「マジかよDDT…アイテムまで実体化するのか…!」
「えっ!えっ!?マジですかっ!?じゃあ俺も俺もっ!!」
妙なテンションの大島が、ああでもないこうでもないとやった末に選んだのは、刀身の大きな西洋剣…ツヴァイハンダーとかクレイモアと呼ばれるタイプの、両手持ちの剣だった。
「うっひょ~!カッコイイ~!!」
(馬鹿っ、大声出すなっ!!)
俺が小声で注意するも、時すでに遅く──
「…オイそこの奴等、武器を持ってるぞ!?」
野次馬の一人が物陰に隠れていた俺達に気付き、悲鳴にも似た大声を上げた。
「ヤバい、行くぞ皆っ!」
俺は大慌てでDDTを開き、塔を見つめた。
『「六道輪廻・栄螺堂」に侵入しますか?Y/N』
「Yes」だ「Yes」!早くしろ!
すると…辺りの景色が一変した。
暗い木造の廊下の様な場所…等間隔に並び揺れる蠟燭の光だけが、辺りを照らしている。
ここが…『六道輪廻・栄螺堂』ってヤツの中か。
「なんか…カビ臭い所ですね…。」
「うん…それにとっても埃っぽい…。」
「床や天井もあちこち腐って落ちてるな。…足元に気を付けて行こう。」
渦巻く様に奥へ上へと続く木造階段を一歩踏みしめた、その時──
…まるで獣の様な咆哮が、階段の奥から響き渡った。




