20.変わる世界
窓の外に見える、不気味な赤い空。
そして…地獄の一部が顕現したような、地上の光景。
…いいや、俺はこの光景に見覚えがあった。
「…あれって…何か…似てませんか?」
「…うん。たぶん僕達は、アレを知っている…。」
大島と山里さんも、俺と同じ考えに至ったようだ。
「…ARダンジョン。」
俺が呟くと、大島と山里さんも無言で頷いた。
そう、DDTのARダンジョン…アレの持つ雰囲気に良く似ている。
…どういう事だ?
…まさか、この光景もAR…作り物なのか…?
…いや、違う。
あの上位存在と名乗る天使が言っていた。
今まで「古き支配者達」とかいうヤツを封印し、真実を「拡張現実」によって隠蔽していたと。
…ってコトは…。
「…マジかよ…もしかすると、俺達が今までARだと思ってたダンジョンやモンスター…アレって、本物だったんじゃないか…?」
「えぇっ!?ま…マジですか!?」
「…うわぁ、ソレ…有り得るよ。」
つまり…ARダンジョンってのは──
『AR(によって隠蔽されている)ダンジョン』…だったってコトか?
「…何だそれ怖っ!!」
「事実を知ってたら、とてもじゃないけど一人で突っ込もうとは思えないね…。」
「…ま、まぁ…事前にレベル上げが出来たんで、結果オーライってコトで…。」
そんな事を議論している俺達の周囲には、未だ外の光景に現実味が湧かないでいる社員の皆。
…あんな光景を目にしても、誰もパニックを起こしたりはしていない。
これには、皆に相談して取ってもらった「あるスキル」が寄与していた。
◇【平常心】:消費TP1
…いや、マジで取っといてよかったぜ【平常心】。
お陰様で、こんな非日常に巻き込まれてるってのに…何処か他所の話みたいに落ち着いていられる。
俺は貴重なTPを無駄にできないと思って、取得を少し渋ってしまったが…山里さんの判断が正しかったみたいだな。
「うわぁーーーっ!うわぁーーーっ!何だアレはっ!?この世の終わりだっ!おしまいだっ!!」
…一名程、ちゃんと話を聞いていなかったアホが居たようだ。
梶本ぇ…なんて面倒臭いヤツなんだ…!
あれだけ説明したのに…コイツ、【平常心】取らなかったな?
…仕方が無い。
「…大島、アレを頼む。」
「あ、OKっす!」
俺の意図を理解した大島が、絶賛大混乱中の梶本に右手をかざして集中する。
「…行きます!【魘夢】ッ!」
叫ぶ大島の掌から渦巻く煙の様な物が飛び出し、梶本の頭を包み込む。
…しばらくして煙が霧散すると、梶本は立ったまま眠ってしまっていた。
…引きつった表情を見るに、あまり良い夢ではなさそうだけれど。
EXスキル ◆【魘夢】:対象を強制的に悪夢へと誘う。
アレは俺と大島の二人で、郊外の廃墟化したニュータウンへとダンジョン遠征した際、大島が取得したEXスキルだ。
ちなみにダンジョン名は『夢幻城砦』、ボスは巨大な蝶の姿をした『エン』だった。
…あの時は残念ながら、俺はEXスキルを取得出来なかったんだよなぁ…。
「…おお、マジで眠っちゃいましたよ、梶本部長!…ざまぁ!」
「…さぁ、五月蠅いのが居なくなったことだし、今後の話をしよう。」
「あ、それじゃあ…社長、就業時間内ですがテレビをつけさせていただきます。」
山里さん、こんな状況でもちゃんと許可を取るんだ…流石だなぁ。
「…いや、もちろん構わんよ。私も外の状況が知りたい。」
許可も取れたので、会議室に移動し備え付けられた大型テレビを付けた。
画面に映し出されたのは…どうやらヘリコプターからの映像の様だった。
上空からの映像にはスカイツリーと──
まるで無秩序に増築を繰り返した様な、異常な形に積み上げられた寺院の姿が映り込んでいる。
『…ている映像はCGやAI生成されたものではございません!本日正午、世界各地に出現した不気味な建造物群の正体は、依然として不明のままです!この現象は日本だけでは無く世界中のあらゆる国で同時多発的に発生している模様で、米国ではホワイトハウス前に出現した「雷を纏う雲海」へと特殊部隊による偵察が行われているとの情報が入っています!日本政府の緊急声明は以下の通りです!「市民の皆様はこれらの建造物群へ不用意に近づかないように、決して触れたり内部を確認しようと試みないで下さい。現在緊急対策本部による調査隊が組まれております。近隣にお住まいの方は速やかに避難所へ退避して下さい。」繰り返します──』
矢継ぎ早にテレビから流れ込んでくる情報に、一同唖然としてしまった。
…あんな物が世界中に…マジで変わっちまったんだな…この世界は。
「…世界中がこんな状況じゃ、このまま待っていても救助が来るとは思えん。…君達、我々はどうしたらいい?」
社長は不気味な映像を映し続けるニュースから目を背け、俺達三人に問いかけた。
顔を見合わせた後、山里さんが代表して応える。
「…僕達の予想だと、あの建造物群の内部には怪物が詰め込まれています。万が一それが外まで溢れ出すような事になったら…皆さんにもDDTでスキルやステータスを強化してもらいましたが、まだまだ最低限の自衛レベルです。事態が動くまで、皆さんには会社に閉じ籠もり引き続きトレーニングによる強化を続けて貰いたいと考えています。」
「…避難はしないのか?」
「…今は外出自体が危険と考えます。それに…下手に避難所へ行ったところで、パニックに巻き込まれるだけでしょう。」
…そう、会社の皆が落ち着いていられるのは、あくまで【平常心】というスキルの効果があってだ。
スキル無しの状態では…恐らく、先程の梶本みたになる人も多いだろう。
「会社には確か備蓄食がありましたよね?…それに加えて、外に停めてあるトラック…アレの中に、僕等が買い集めておいた備蓄食が入っています。あれだけあれば、この人数でも一カ月は持ちます。」
「トラック…君達はこの状況を…予想していたのか?」
「…決して、確信があった訳では無いんです。スイマセン…。」
謝罪する山里さん。
…その姿を見て、社長は言葉を続けた。
「…君達を責めるつもりは無い。…君達は、これからどうするつもりだ?」
無言で振り返り、俺を見る山里さん。
…彼に変わって、俺が社長の言葉に返答する。
「俺達は…アレを調査して来ます。」
「もしアレが俺達の思っている物ならば…現状で対応できるのは、俺達だけです。」




