19.開示(Revelation)
上位存在が明かした、世界の真実が開示される時間まで…あと三十分。
…この残された時間で、俺達が何をしているかというと…。
「ハイ小川さん十周目!残り八周ですよ!…峰岸課長、残り十三周です、頑張って下さい!」
「ちゃんと頭の中で流れてる音楽に合わせて!乾さん、音ハメバッチリです!素晴らしい!」
「『クソ雑魚スライム野郎コース』、または『本日のデイリーミッション』が終わった方は俺の所に来てください!ステ振りとスキル選択の補助をします!」
会社内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
会議室の長机は壁際に寄せられ、カーペットの上では幾人もの人が腹筋や背筋に精を出し。
社内工場へと続く通用路は周回コースと化し、息も絶え絶えの大人達が苦悶の表情で走り続け。
…唯一打ち合わせブースのみは、個人面談…いや、この雰囲気は…例えるなら「老人の為のスマホ教室」だな。
今、社内は即席のジムと化している。
Ver.3の特徴なのか、≪トレーニングメニュー LV.1≫が全員同一で『クソ雑魚スライム野郎コース』だった。
…ただし、以前のバージョンと効果が若干違っている。
≪トレーニングメニュー LV.1≫
■クソ雑魚スライム野郎コース
初心者の方におすすめするコースです。
・腹筋10回×3セット
・腕立て伏せ10回×3セット
・スクワット20回×2セット
(効果:HP+・力+・体力+)
減量の効果が無くなり、HP+が追加されている。
…うん、これから起こるであろう事を考えれば、こっちの方が実用性がある。
そして≪本日のデイリーミッション≫…こちらに至っては、明らかな配慮…いや、忖度が成されていた。
≪本日のデイリーミッション≫
・ランニング(0/5km)
(期間限定特別報酬:TP+5)
5kmのランニングに対してTP+5の大盤振る舞い。
…「期間限定特別報酬」とは良く言ったものだなぁ。
この「期間」って、残りの三十分間だったりするのかねぇ?
会社の皆にDDTをレクチャーするにあたって、まずはその閲覧方法を説明した。
…実際に自らにDDTというアプリがインストールされていると理解してもらうのに、現物を見てもらうのが一番手っ取り早かったからだ。
最初は半信半疑だった皆も、瞳を閉じ、脳裏に浮かび上がったステータスを見ては事実を受け入れるしかなかったようだ。
そうして俺達は、残された時間で最高効率の強化を行うべく、DDT経験組が中心となってトレーニングを開始した。
方針としては「期間限定特別報酬」の入手を最優先、次いでステータス強化のトレーニング。
TPをゲットしたら、あとは可能な限りトレーニング…俺は無理せず一日一回を日課にしていたが、なにせトレーニングには回数の上限が無い。
…これはつまり、体力が続く限りいくらでもステータスを盛ることが出来るという事だ。
山里さん主導の元、会議室ではトレーニングメニュー LV.1『クソ雑魚スライム野郎コース』のトレーニングが開催されている。
「凄く良いですよ皆さん!…さあ最後はご一緒に…!」
「「「「『Muscles do not betray(筋肉は裏切らない)…!!』」」」」(ビシッ!!)
例のフレーズも多人数で厚が増すと、中々に迫力があるな。
…アレ、変な脳内物質がドパドパ出るんだよな…心なしか皆、恍惚の表情を浮かべているように見える。
「…ハァ、ハァ、ハァ…ほ…本当にこんな事がっ…必要なのかねっ!?…オオシマ君っ!」
「…社長、今は僕達を信じて走って下さい!」
ヘロヘロになりながら走っている社長に、大島が応援の言葉をかける。
高齢の社長には中々きついだろうが…今は頑張ってもらうしか無い。
「大島ぁっ貴様…社長を走らせるなんて何様のつもりだ!?こんな茶番に付き合わせやがって…!!」
…梶本の野郎、一人だけ走りもせずに何を吠えてるんだ?
こんな時まで偉そうに…未だに現実と向き合えていないのだろうか?
…アイツだって、上位存在には会ったハズなんだが。
「社長!こんな事に付き合うだけ馬鹿馬鹿しいですよ!正気の沙汰とは思えません!」
「ハァハァ…いや、しかし…確かに私も見たんだ、あの天使を…。」
「アレはきっと集団幻覚…もしくはアイツ等に何か薬でも盛られたんですよ!そうに決まってます!」
…ああ、あの野郎…ハナから信じて無いんだな。
…別にいいさ。
俺達は知っている事をレクチャーした、それを信じるか信じないかは自分で選べばいい。
…後で後悔しても、もう遅いんだ。
…ゴォォォォォォン…
…ゴォォォォォォン…
…何だコレ…鐘の音…!?
何処か空の彼方から聞こえてくる…腹の底まで響くような、心の不安を揺さぶるような…そんな音だ。
「…見て…窓の外…!」
女性社員が指さす方を見る。
まだ正午だってのに、空は真っ赤に染まっていた。
「なん…だ…あれ…。」
窓に近寄った社員が声を震わす。
霧の彼方に見えるのは、朝までは存在しなかった巨大な塔。
蠢く影が形作る、異形の渦。
天を突く水晶の森、積み上げられた骸の城、墓標の様な剣の山、赤黒く流れる臓物の川…。
…何処からか、悲鳴と…嗤う声が聞こえる。
それは正に、日常の終わりを告げる声だった。
…ああ。
遂に、始まったんだ。




