18.一時間の使い方
俺がダウンロードして使っていたアプリケーション…DDTは、人類の上位存在が作った「古き支配者達」…とやらに対抗する為のモノだった。
そんな衝撃的な事実を言い放った、眼前の天使…上位存在は、時間を惜しむように言葉を続ける。
『…Different Dimension Training‐Version.3は、全人類の意識下にダウンロードされます。使用方法についても同様にダウンロードされますが…すぐに全てを理解するのは困難でしょう。差し当たって必要とされる知識は、先行し試用している者達に訊ねると良いでしょう。』
おおう…上位存在さん、そこを俺等に投げてくるのか…。
こっちはまだ、Ver.3の変更箇所とかも確認出来て無いっての。
…まぁ、訊ねられれば教えるけども。
『…さぁ、もう時間がありません。…人類よ。…私の愛しい子供達よ。どうかこの試練に打ち勝ち、真の自由を手にする事を…切に願っています。』
天使が両手を広げると、眩い光が辺りを包み込む。
…気が付くと、俺は何事も無かったかの様に、会社の席に座っていた。
…夢…じゃあ、無いよな…?
スマホを取り出し「DDT」を起動しようとすると、画面にメッセージが表示される。
『Different Dimension Training‐Version.2はサービスを終了致しました。既存ポイント・データは全てVersion.3に引き継がれます。』
…DDT、サ終してた。
いや、正確にはVersion.3に移行した…で良いのか?
上位存在が言っていた事を思い出し、目を瞑って意識を探ってみると──
…あった。
確かに俺の中に…新たに組み込まれた「力」が…「理」が。
これが…Vr.3。
…人類の、対抗手段。
「…なに、今の…?」
「えっ?えっ?」
「…やばい、俺一瞬寝てたかも…。」
同じフロアの同僚達がザワめきだした。
やっぱり俺だけじゃ無い。
…皆、同じモノを見てたんだな。
「…あぁ?何だ今の…確か俺は給料泥棒共を注意してたんじゃ…あぁ?」
…うん、本当に全人類が同じモノを見てたんだな。
梶本の奴までアレを見てるんなら…そうなんだろう。
「ゆゆゆ夢野先輩っ!!今のって…!?」
「…夢野君、さっきの見たかい!?」
「ああ、ええ…見ました。」
大島と山里さんが、俺の席に集まって来た。
俺は先程試してみたことを告げると、慌てて何やら始める二人。
目を瞑ったり、こめかみを押さえたり…そして。
「…うわっ!本当だ!頭の中にDDTのステータス画面がある!!」
「これは…流石にもう、理解が追い付かないね…。」
興奮する大島と、既にお疲れ気味の山里さん。
…そうだ、時間!
壁の時計を見ると…うっわ、もう残り一時間しか無ぇじゃねーか!!
…おちおち確認する時間もくれないのかよ、上位存在さんよぅ!
「…時間が無い、今は俺達に出来る事をしましょう。山里さんはSNSでDDTの基本的な使い方を周知して下さい。アプリ版のDDTを広めた山里さんの発言なら、信憑性も高いでしょう。」
「…うん、分かった!」
「大島は…実況系の掲示板サイトにDDTの使い方を頼む。」
「わ…分かりました!…ところで、夢野先輩はどうするんですか?」
「…俺は、社内の皆に説明する。」
…ハァ…嫌だなぁ…。
目立つのも嫌だし、きっと頭がおかしくなったと思われるんだろうなぁ…。
…もういいや、力業で行っちまおう。
「…ホラホラお前等!いつまで白昼夢の話なんかしてるんだ!?今は仕事中、お前等も給料泥棒になるつもりか!?」
あんな事があった後だってのに、梶本の野郎…流石にそれは無理があるだろうよ…。
…今はコイツに構ってる暇は無いな。
良し、俺も腹を括るか──
「ハイハ~イッ!皆さん、俺に注目して下さ~い!」
両腕を振り、馬鹿みたいに大きな声で呼びかけ注目を引く。
…普段こんな事しないタイプの俺の奇行に、良くも悪くもフロア内の注目が集まった。
…これで第一段階はクリアっと。
「夢ニュー…いや、夢野っ!!今は就業時間中だって、さっきから言ってるだろ!!」
梶本が何か言ってるが、無視無視。
注目を集めたから…次は、「証明」だな。
「『フレアブレス』っ!!」
…そう叫んだ俺の口から、灼熱の炎が噴き出す…!
良かった…ちゃんと出た…!
さっき自分の中にダウンロードされた「使用方法」を確認した時、遂にスキルが実装されたのを確認済み…とはいえ、ぶっつけ本番は少しハラハラしたぜ。
…コレで何も出なかったら、本当に頭がおかしいヤツだからな。
…っと、人が居ない方向、それとスプリンクラーが反応しないように調整…っと。
「えぇっ!?」
「なっ…!?」
「はぁっ!?」
…よしよし、みんな驚いてるな。
「…。」
…梶本に至っては、顎が外れんばかりに大口を開けて固まってしまった。
…うん、静かになってやりやすいや。
この勢いで一気に行っちまおう。
「…皆さん、信じられない事なんですが…先程見た白昼夢、アレは現実です。あの金髪天使が言っていた通り、あと一時間もしない内にこの世界は…何かしらの変化を迎えます。」
「…今見せた通り…俺には魔法みたいな力、『スキル』があります。あの天使が言っていた『先行し試用している者達』ってのは、俺や大島、山里さんの事です。」
ざわ…ざわざわ…。
「…やっぱり、夢じゃ無かったのか…?」
「え、じゃあ…ナントカってゲーム画面みたいなアレ…。」
「…やっば、俺達…宇宙人に改造された…ってコト?」
多種多様な反応にフロアがザワつく…。
が、皆アレが現実に起こった事だと、一応は理解してくれたみたいだ。
…恥を忍んで体を張った甲斐が有ったな。
…よし、証明は済んだ。
これでやっと本題に入れるぜ。
「…あまり時間がありません。皆さんにダウンロードされた『Different Dimension Training』…通称『DDT』の使い方を、これから説明します。」




