17.X‐デイ
…備蓄やら準備やら仕事やらで、時間はあっという間に過ぎて行き。
『 004:13:42 』
遂に、X‐デイ当日。
計算上は、今日の正午丁度にDDTのカウントダウンが0になる。
俺と山里さん、大島の三名は普段通りに全員出社している。
…果たして、本当に何か起こるのか…。
「…夢野先輩、これで何も起こらなかったら…俺等マジでDDTに踊らされてた大マヌケですね…。」
「お前なぁ…いや、それならそれで良いんじゃね?ただの取り越し苦労なら世界は平和なまま…俗に言う『病気の子供は居なかった』ってヤツだ。」
確かに、この日の為の対策に時間も金も結構使っちまったからな、俺達。
…まぁ何も起こらなければ、買いこんじまった備蓄を肴に笑い話にでもすればいいさ。
「…お前等、さっきから仕事中に何を無駄話してんだ!?口動かす暇があるなら手を──」
営業部長の梶本が大声で喚き始めた…その時。
音が消え
光が消え
肌に感じていた、空気の感触が消えた
「……え?」
ふっ…と目の前の景色が変わる。
規則正しい網目状の直線…それが地平線まで続く、無間地獄の様な空間。
…そんな空間に、突如として俺一人が放り出された。
…なんだコレ?何が起こってるんだ…?
まさか、コレがDDTのX‐デイなのか!?
いや、でもカウントダウンの終了にはまだ四時間近く余裕があったハズだぞ…!?
マジで何がどうなってるんだよ…!
『…こんにちは、人類の皆さん。』
「…はっ?…う、うわぁぁぁぁぁっ!?」
突然話しかけられ振り返ると…そこに居たのは、巨大な猫の顔。
…そう、巨大な猫の頭だけが宙に浮いた状態で、俺をじっと見つめていた。
デカい…デカすぎる。
蟻と象。
ミジンコとクジラ。
…それ位、存在の次元が違う。
なんだこれっ!?なんなんだコレっ!?
滅茶苦茶怖いっ…俺なんか一口で飲み込まれてしまいそうだ…!
『…発汗、心拍の乱れ…ふむ、この生命体は人類に愛される外見をしているハズなのですが…おかしいですね。…失礼、一度やり直します。』
巨大猫はそう呟くと、また唐突にフッと消えてしまった。
…そして。
『…こんにちは、人類の皆さん。』
目の前に現れたのは金髪の…天使…
…うん、絵に描いたような女性型天使、なんだけど…。
(…さっきの生首を見た後だと、なんともなぁ…。)
『…微妙な反応ですが、もうあまり時間がありません。このまま続けます。』
金髪天使は六枚の翼を広げ、見下ろす様にこちらに向き直ると語り出す。
『私は「@#★§≒▲%&◆*!?」…貴方達人類の上位存在です。今までは別の次元から、貴方達の成長を補助しながら見守ってきました。』
…なんかとんでもない事を話しているが…突拍子も無さ過ぎて全然現実感が無いな。
それとコイツ、さっきから「人類の皆さん」とか「貴方達」とか…なんか単位がデカいな。
この場には俺しか居ないのに。
…って、そうか。
なんか既視感があると思ったけど…これ、一方的な通信とかビデオレターみたいなもんか?
俺に話してるみたいだけど、俺一人が見てるんじゃ無い…そんな感じがする。
『…これから四時間後、貴方達人類に試練が訪れます。』
!
四時間後…正にDDTのカウントダウンが示す「X‐デイ」の事だ。
…マジか、悪い予想が当たっちまったよ。
『…貴方達人類が成長する為に、「古き支配者達」の存在が邪魔でした。…なので今まで、私が「古き支配者達」の存在を封印し、隠蔽することによって、貴方達は現在の文明レベルまで到達する事が可能となりました。』
『…機は熟しました。貴方達人類は、十分に成熟しました。…私の保護を離れ、自らの手で「古き支配者達」を下す時が来たのです。』
…言ってる事は無茶苦茶だけど、何故か「そうか」と納得してしまうのは…自らを「上位存在」だと名乗るこの天使が、本物だからなのだろう。
「古き支配者達」…コイツの言葉を信じるなら…人類を支配し、種としての成長を妨げていた存在…ってコトか?…そいつらを今まで、この「上位存在」ってのが抑えてくれていた…と。
…そして、その保護が…これから四時間後に外れる。
…俺はDDTの件で警戒していたからアレだけど…他の奴等からしたら、些か急な話だ。
『私の介入が終了した後、「古き支配者達」の封印が解かれます。…貴方達の技術で言う、「拡張現実」によって隠蔽してきた真実が、そちらの世界に溢れ出すでしょう。』
…拡張現実…AR技術みたいなモノか…。
…ん?
『…人類よ、安心なさい。私は貴方達の為に、「古き支配者達」に対抗する為の手段を残します。』
そう言った「上位存在」の両手の中に、キラキラとした光の粒子が集まり…何かを形作り始めた。
…!
…!?
…。
…マジか…アレって…。
『Different Dimension Training』
『…人類を次の次元へと導く、支配者達への対抗手段です。』
『…先行して一部の人類に協力してもらい、なんとか調整が終わりました。…この「DDT‐Version.3」を、私から貴方達人類に送ります。』
天使の手の中には…既に良く見慣れたステータスウインドウの数々。
……"異次元"じゃなく、"次の次元"へ進むための、訓練。
アハハ…マジか…マジかよ…。
「DDT」…お前が作ったのかよ、「上位存在」!!




