黄昏時の傍観者 1
晴れ渡る空が消え、吹き荒れる大地の風が周囲を包むとある街。全てが全て破壊尽くされたその場には、すでに瓦礫さえもが砂に埋もれる廃墟となっていた。
街を破壊するために動き出した機械兵は幾多の存在達が逃げ出す余暇さえも与えず、日が傾き出しても行動し、月が去っても動きを止める事は無かった。そして生まれた虚無の空間に残されたのは、その街に唯一残る事を選んだ存在達だけ。皆が持っていた力は全て消失し、何も残らない不安に包まれた区域だけが残った。
クラウが大切に守っていた、姫の住んでいた宮殿。ただそれだけが、残っていた。
街から逃げ出す事を選んだ一台の馬車は、何時しか足場の安定しない砂漠の中を当ても無くさまよいながら走っていた。何時しか馬車に乗る存在達は危機感に逃れた安堵とは比べ物にならないくらい、不安な気持ちに包まれるほどに。
「なぁ、おい。何でさっきから、周りは砂漠しか見えねえんだよ………」
「………」
街の外へと飛び出し、どれだけの時間が経った頃だろうか。馬車に乗っていたクロは呟き混じりにそう言い、変わらない景色に苛立ちを覚えていた。
何時しか風が強くなり砂が飛び交う空間へと向かった彼等の待っていたのは、英雄達が去って行ったという外の世界ではない。街そのものが隔離された空間の様に建材していた、存在が生きられない過酷な環境。誰もがその場に飛び出した時は驚き、英雄達が居ると言われていた空間が何処にあるのだろうかと探していた。
手綱を握っていたクラウは彼等の要望を聞いて進路を変える事はあっても、それ以上にする事も無くただただ力の続く限り走らせていた。それも何時しか休ませるように徐々に走る速度を緩め、建造物の見えない砂漠の中で停車した。
馬車が停車するのを見ると、乗っていた存在達は静かに降りだし身体を解す様に手足を回し出した。長い時間同じ体制で揺られ身体が付かれていたのか、中には欠伸をしだす者も居た。ストレッチを終え前を見て、再び広がる砂漠に彼等は溜息を突くほどだった。
「街の外には、俺達の住んでいた街に居た英雄達が居るって話じゃなかったのかよ……! 何で砂漠ばっかで、それっぽい物が何も見えないんだ!!」
「本当、さっきから砂しか見てない……… 私達、何処へ行くのかしら………」
「あのまま機械兵に殺られた方が良かった……なんて、言っても仕方ないくらいだよな。俺達は外へ出る事を、選んじまったんだからさ………」
苛立つ彼女の言葉に涼は不安げに言葉を口にし、ソニルスは外へ出てきた事を半ば後悔している様だった。馬車に乗る事を選んで難は逃れたものの、その後の事は自分達の責任でしかない。
ストレンジャーを見捨て、ラプソディを死なせ、自分達の理想のために外へと出た。それへ対する見返りが、この現状の様だった。
「……… あの人、とても複雑そうな顔をしていたな……」
「クラウ、あの人って……?」
「ストレンジャーって呼ばれていた、青年の近くで倒れていたお姫様だよ。いっけん幸せそうな顔をしている様にも見えたんだけど、俺達が出ようとした時……ほんの一瞬だけ、そんな顔をしていた気がしてね。」
「………」
そんな集団の愚痴を聞き流しながら、クラウは操縦席の背に手を置き空を見上げた。砂嵐で擦れた空はとても正常な空気とは遠い気候であり、不安な気持ちでいっぱいの彼等を追い回す様に付いてくる。彼自身も街を出る前に見た光景が気にかかっている様子で、隣に居たぼうくんは心配そうにクラウを見ていた。
怪我は大体良くなり少し動く程度ならば支障はないと思っていたが、どうやらそうも言っていられない状況になってしまった様だ。このまま馬車を走らせる事が永遠に続けば、例え良くなった彼の身体が休まる時間はやってこない。それによって再び体調を崩してしまうのではないかと、彼は心配の様だった。
「……大丈夫だよ、ぼうくん。まだ目的地は見えないけれど、何処かにきっと休める場所がある。何故だかは解らないけれど、あの人を置いてきた事が……ちょっとだけ後悔しているだけ。自分の知らない人のはずなのに、どうしてそこまで思うのかは……… 俺にもわからない。」
「クラウ…… ……あの人は」
不安そうな隣人に安心を与えようとクラウは言葉を口にし、彼はぼうくんに笑顔を見せていた。その笑顔が無理をしているものだと言う事はぼうくんにも解り名前を呼んだ後、ぼうくんは何か言葉を口にしようとした。その瞬間だ。
「愚かな奴等だ。現状に残る事を選んだ奴を置いてまで、得ようとした理想がこんな結末なんだからな。」
「ぇっ……?」
砂漠の大地に包まれた空間に、聞きなれない声が聞こえてきた。声を耳にした存在達は一斉に声のした方角を見ると、そこには一つの影が浮かんでいた。まるで幻影の様に定かではないその姿は徐々に色が付き始め、クラウと同じくらいの背丈を持つ狼獣人である事が分かった。
フードの付いた黒服にくすんだ色のジーンズを履いており、目は赤く彼等を静かに見つめていた。
「何だよお前。理想の結末なんて、俺達はまだ目的地が見つかってねぇだけだぞ。」
「『見つかっていない』だけならいいが、どうもそうは見えなかったもんだからな。宛てもなく馬車を走らせた挙句、方向を何度も指示したお前がそんなに苛立つ現状。……本当に見つけられんのか?」
彼の言葉に早く反応したのはクロであり、先ほどから落ち着かなかった心境に煽りをかけた様子で奮起しながら彼に言い放った。そんな彼女をどうでも良い物を見るかのような眼差しで獣人は言い、彼女の言う理想のある目的地とは何処なのか問いかけた。
はっきりとした目的があれば道に迷うことなく進む事ができ、何度も何度も別の方角に走ってみようと言う無謀な提案はしない。彼は遠回しにそう言いたかった様子で、道中の彼等の様子を全て見ていたような口ぶりだった。
「生意気言うんじゃねぇよ……! 走ってる事を見ておきながら、目の前に降り立って言う事がそれかっ!! 道を教えるとか、何かしに来たんじゃねぇのかよ!」
「何期待してんだテメェは。生意気いう奴に上から目線とか、偉そうにすんな能無しが。」
「なっ……!! うっさいんだよっ!!」
問いかけに対し明らかな答えがない事をくみ取ると、獣人は冷酷そうな眼差しで言い放ち期待なんかすんなと言った。無論それを聞いた彼女は頭に血が上り、持っていた流星石の原液を靴に付着させ前方を蹴る様に足を動かした。
しかし、
「……ぇっ、弾が出ねえ……!」
彼女の所有する流星石の力が発動しない事を知り、その後も何度も足を蹴りだし力を発動させようと試みた。だが靴に湿り気があるにも拘らず効力がない事を見て、再び獣人は鼻で笑い彼女を馬鹿にするように見た。
「ハッ、馬鹿かテメェは。だから能無しっつってんだ。街でしか存在しないその力が、街の外で通用すると思ってんのかぁ? 一歩外に出りゃ、んなもんただの水だ。」
「クッ……」
最初からその行動を取る事が予想されていた様子で獣人はそう言い、彼等の持つ力がすでに荷物になって居る事を言い放った。それを聞いた皆は慌てて流星石の栓を取り前方に撒いてみるも、砂の地面に水滴が付く程度の力しか残っていなかった。
属性のある流星石の水は、まるで染物の水の様に砂に色を付ける事しか出来ずにいた。
「君は、誰なんだ……? この馬車も流星石だが、この力も……弱まっているのかな。」
「正確に言えば、そうだろうな。もうその力は元の形には戻らねぇってレベルであって、事実上その辺の存在達が持つ流星石の様に力が亡くなったわけじゃない。少なくとも、これから永久に彷徨い命が絶たれるまではその形で居てくれるだろうよ。」
「命が……絶たれる……? な、何言ってんだ……? 俺達はまだ」
「『まだ』生きてるだけ。この砂漠に、お前等の求める幻想なんかねぇよ。住処は愚か、食料なんぞこの場にはなーんもねぇよ。オアシスなんて期待してるんだったら、最初から止めておけって言ってやるよ。ココには無い。」
「そんな………」
屈辱そうにその場に膝を付いたクロを見た後、クラウは馬車から降りて彼に質問を投げかけた。質問に対し彼は静かにそう答え、強大な力が込められた幻想車はもう元の石には戻らないと言った。その上彼はこの後の結末を軽く解っている様子で彼等に言い放ち、この場に出る事を選んだ皆が生きられる事は無いと言い放った。その言葉を聞いた凉は不安な気持ちでいっぱいになってしまった様子で、その場に崩れ泣き出してしまった。
泣き出した彼女を見たクロは慌てて近くへ寄り添い慰めようとするも、相手の獣人に自分が何か対抗策があるわけでもなく、ただ相手を睨む事しか出来なかった。それだけ、彼等は無力になってしまったのだ。
「本当、哀れなもんだな。幻想でお前等を護ってくれていた張本人が死ぬように指示した奴らが、これから平和に生きようだなんて。世の中そんな甘いわけねぇだろうが。特にそこの能無しは、これからずーっと同じ結末を辿るだろうしな。何かしない限り。」
「何かって…… 何かあるのか……!? 教えろ!!」
「だから聞くんじゃねぇっつってんだろ。頭に乗ってんじゃねぇよ、ぶぁあーかっ。何のための頭だぁ? 飾か?」
そんな彼等を見て獣人はつまらなそうに言葉を口にし、肩を回し退屈そうに首を回していた。先ほどから現れた理由も言わず残酷な事実しか言わない彼が何しにやって来たのだろうかと、皆は同様に考え相手を見ていた。しかし普通の発言では先ほどのクロの様に言われるのがオチであり、ましてや力づくで教えて貰うにも流星石は効力を失っている。だからこそ何も出来ず、ただただ言われるだけで行動に移せなかったのだ。
そんな現状の中言った彼の言葉を聞いて、クロは再び顔を上げ質問をした。それでもお決まりの返事を彼は言い、挙句の果てに完全に馬鹿にするように挑発交じりな言葉しか言わなかった。クラウが怪我をして対抗出来ない事もだが、彼の問いかけには素直に答える所を見ると、獣人は彼女が一番嫌いなようだ。
「ッ……! そんな言い方ねぇだろっ!! 姉御が教えろって言ってんだから、教えてくれたって良いじゃねぇかっ!! この無愛想!!」
「暴言に暴言で返す所を見ると、お前もそいつの伝染でも喰らったか。つーまんねぇ存在に成り下がってんじゃねーよ。……まぁでも、お前はそれでも低い方か。……さーて、こんなくだんねぇ所に居るの嫌いだし要件済ませるか。」
スチャッ………
「……!! こ、殺しに来たって言うのかっ……!?」
好きな相手を馬鹿にされたためか、ソニルスは怒りだしそれくらい教えてくれても良いじゃないかと口論した。だがそんな事に対し返事を返すどころか、最後に付け加えられた言葉を聞いて獣人はそう言い彼の意見を突っぱねた。何かの原因となる因子が彼女であり、それに付き添う時間が増え伝染した影響が彼の中では『能無し』と言われるものになっているようだ。正確に何とは言わない所を見ると、それ以上に良い言葉は無いほど、さまざまな意味合いが含まれているのかもしれない。
一通りの会話を済ませると、獣人はそう言い手元に一刀のカタナを召喚した。その後静かに左手で掴み脇を添え、親指をつばに着けいつでも抜ける状態の体制を取っていた。それを見たソニルスは慌てて言った発言を聞いて、獣人は機嫌が悪そうに眉を動かした。
「下種野郎の血を、俺に見ろって言ってんのか? これだから能無しは嫌いなんだ。お前等はそんな大層な存在でもねぇのに、上に対する口ぶりも成ってねぇんだからな。……あぁ、ココで上って言って『上司・責任者』って思った奴は『馬鹿』だって言ってやるよ。」
「ッ……」
「図星が数名っと。んじゃ、要件言ってやる。」
その後再び数人を罵倒し図星が何名か居る事を確認すると、獣人は足を揃えただ刀を構えた状態で彼等に言った。
「この現実を、お前等は変えてみようと思うかどうか。教えろ。」
「ぇっ……?」
狼獣人が言ったコトバは、ただ一つ。今目の前に広がる現実を変えてみたいかどうか、ただそれだけだった………




