悟りの乙女 4
リダスからの交渉があり、彼が姫の元へと向かった後。独り残されたぼうくんは住処を移動し、新たな場所を探そうと行動を起こしていた。
「………」
街のとある一区にある古びたホテルの一室で、彼は一人ベットに眠る存在の姿を見つめていた。この街を変える事を決めた存在達とは共に行かず、目を開けずに眠り続けている存在のそばに居ると彼は決めていた。部屋に置かれている椅子に座り、眠っているクラウをぼうくんは見つめていた。
壊れかけた天蓋付きベットに眠るクラウは仰向けで寝かされており、両手を軽く胸の上で組まれていた。再び目を覚ます事は無いと思われていても、彼は絶対に離れない事を誓ったのだ。
「……クラウ。」
そんな彼の事を見つめながら、ぼうくんは誰も他の存在を入れない様にしながら見守っていたのだった。
クラウを裏切り者に仕立てたアスピセスとの戦いの後。ぼうくんは一人でクラウを背負い、何処か安心して静かに眠れる場所を点々と探し彷徨っていた。だが体格上クラウが大きい事もあり、常に足を引きずっているに等しいぼうくんではあったが、誰の手も借りずに一人で成し遂げようとしていた。
託された流星石を別の相手に託す前に、彼を寝かせてあげられる場所を探していたのだ。
「ハァ…… ハァ…… ハァ……」
しかし街は一区毎で会っても広い事には変わりは無く、目的地も無く彼を背負い彷徨い続けるのは重労働であった。それでも彼は諦めずに一人で歩き続け、彼を寝かせて上げられる場所を探し、最初に見つけたのが放置されてまだ間もないガラス店だった。
ガラスの飛び散った床を移動する際にぼうくんが行った行動、それは掃除だった。先ほどからずっと足を引きずっていたため彼の靴はすり減っており、薄れた革にガラスが刺されば怪我をしかねない。ずっと自分の事を探し続けていた彼の優しさを返したくて、ぼうくんはその行動を選び行ってきた。
一通り移動する部分の掃除が終わると、次に手を出したのが彼の身体を休ませてあげられる場所を用意する事。幸い店には来客用として用意されていたソファがあったため、彼は丁寧に掃除を行い綺麗にした後、彼をその場に寝かせてあげていたのだ。
だが、ぼうくんもその場がクラウに相応しいとは思っていなかった。彼の身体を休ませると言ってもソファでは限界があり、彼を横にして休ませてあげられる場所がぼうくんにとっても理想の場所だった。ずっとずっと一緒居たくても、待っていたくても場所が悪ければ意味が無い。彼もそう考えており、リダスとの話の後再度行動する事を決めた。
それから彼が見つけたのが、今居る古びたホテルだった。
「……… 『スリーピング……ビューティ……』」
ホテルの看板と思われる、壊れかけのネオンボードには英文字でそう書かれていた。ぼうくんは静かに読みながらクラウを背負ったまま一息付き、彼の手を離さずしっかりとつかむ事を止めなかった。傷ついた彼の身体の手当てもそうだが、二度も引きずっている彼の足を速く楽にさせてあげたい。そんな思いと巡り合ったホテルの看板を見て、しばし考えた後に彼は呟いた。
「……眠れる森の美女……か。女じゃないけど、クラウは優しくてカッコいい獣人だよな……… ……ココにしよう。」
彼を休ませてあげられる場所を決めると、彼は再び移動を開始し一番良いと思われる部屋を選んだ。動かなくなっているエレベーターには頼らず、最上階の部屋を目指して彼は階段を懸命に昇って行った。
その後たどり着いたのが、このホテル自慢だったと思われる『スイートルーム』であった部屋であり、広い窓辺からの光を多量に入る工夫が施された温かい部屋だった。一室に置かれた大きなベットの上に彼を寝かせてあげると、彼はすぐに次の行動を移るべく一度部屋を離れた。
彼が次に行った行動は彼の身体の手当てであり、廃棄された他の場所から拝借してきた包帯や薬を使って一つ一つ丁寧に手当てをし出した。身体に身に着けていた衣服を脱がし汚れた部分を丁寧にタオルで拭いた後、ある程度の傷をかーぜや包帯で塞いでいく。出血はすでに止まり血の色に染まった体毛もあったものの、その部分はぼうくんが用意したぬるま湯で丁寧に洗い落としていた。酸化してしまった血痕に対しては見えない様に包帯で巻き、今に至る状態となっていた。
手当てを済ませ彼を休ませてあげられる場所が見つかると、ぼうくんはその場に住む事を決意し普通に生活出来る様さまざまな道具を用意しだした。街が管理課の手から離れ平和になったと聞いた後も、彼はずっと約束が果たせるまで居るつもりだったのだ。
『お前が死んだなんて、俺は思いたくない…… ……だから、もしお前の魂がこの街にあるのなら。戻るまでずっと、ずっと……… 俺は居るからな……』
眠っているクラウを見ながらぼうくんは何度も何度も心の中で問いかけるように呟き、そのたびにクラウの手を握っていた。日中見守る事を止めずに生活し、食事をする際に席を外す以外はその部屋に居る。
それが、今の彼の生活スタイルとなっていた。
そんな彼の定まった生活に、再び異例の出来事が彼の元へとやって来た。
コンコンッ
「………」
彼の居た部屋の扉をノックする音が聞こえ、ぼうくんは耳にするも特に返事はしないでいた。何度かこの街から出ようと言う誘いの声をかけるためにドアをノックされた事もあったため、彼は干渉しないようにしていたのだ。
どのみち相手は本気でここには来ていないのだから、対応する必要はない。彼は考え行き着いた結論からの行動だった。しかし、
コンコンッ
「……?」
二,三回で止むはずと思われたノックは、しばらく続いて定期的に返ってきた。さすがにこれには驚いた様子で、ぼうくんは仕方なくその場を離れクラウの手に触れた。
『ゴメン。また少しだけ、離れるよ。』
そして相手に語りかけるように心の中で言うと、扉の元へと向かって行った。扉の元へと向かったぼうくんの伸長をはるかに超える扉は、彼がギリギリ届く程の高さにドアノブが存在していた。そのため彼の様に小柄な体系の存在には大き過ぎる事もあってか、ぼうくんは好き好んでこの扉を開ける事を望まない。
これもまた、ノックへ対する返事をしなかった理由だった。
「……誰だ。扉を開けるつもりはないから、用があるならそこで言ってくれ。俺は誰とも干渉したくない。」
扉に触れたと同時に彼はそう言い、つまらない相手とは干渉したくないと言った。ここでも大抵の存在を揺すり落とす方法として彼は言っており、本気でなければそこで諦めてくれるだろうと思っていた。
しかし、その日の訪問者は違かった。
「……俺だぼうくん、リダスだ。クラウに会いたいって存在を連れてきたんだ。 開けてくれないか……?」
「リダス……?」
聞き覚えのある名前を言われ、ぼうくんは驚きながらも返事を返した。どうしてこの場所を知っているのかも問いかけると素直に「巡り合った」と彼は言い、ぼうくんは再度彼の行動には驚かされた。
ネコとクラウが信頼した相手が、どうしてここまでの行動が出来るのか。自分とは違いなおかつ他の改革者とも違う行動を、どうしてそこまでやろうとする気になれるのか。しばらくの沈黙と共に驚きの行動を取る彼の事を考えた後、再度彼は口を開き問いかけた。
「誰が会いたいって言ってるんだ。クラウの事を馬鹿にする奴なら、お前の頼みでも」
「私です、ソイト。」
「ぇっ…… そ…の…声………」
問いかけの最中で不意に声が聞こえ、彼は耳を疑った。何度か聞いたことのある声だと彼は思い、その声の主に一人だけ思い当たる存在が居た。
それは、自分が会うまでの間ずっとクラウの事を見ていてくれたと言う、一人の姫の存在だった。ましてや彼の事をそう呼ぶ存在は、その存在だけだった事も彼は知っていた。
「……ラプソディ、さん………?」
「はい。私だよ、ソイト。」
そして確認とばかりに一声かけると、再び気になっている声の主からそう返答が返ってきた。
「………」
ガチャッ
誰が彼に会いたいのかを知り、ぼうくんはしばらく考えたのち部屋の鍵部分に手を当てノブを捻った。すると、部屋を固く閉ざしていた扉の鍵は開かれ相手が入ってこれる状態になった。音を確認すると、数秒経った後扉が押し開けられた。
そして、見た事のある存在が二人その場に立っていた。一人は蒼い龍の青年であり、もう一人はドレスを纏った灰色の狼。どちらも彼の知っている相手であり、その場に現れた事を彼は今もなお驚いていた。
「……ラプソディさん……… ……どうして、ここに。」
「クラウさんに、会いたかったから…… ……どんな事をしても、クラウさんはクラウさんだって思ってたんだよ。……彼に、それを教えてもらったんだ。」
来るとは思わなかった相手を見て、彼は再度姫に問いかけた。問いかけられラプソディはそう答えると、手にしていた一つのバンダナを彼に差し出した。
それは、つい先ほどまで居たガラス店でリダスに託した、クラウがずっと腕に着けていた赤いバンダナだった。再度手元に戻って来たバンダナを見て、彼に託した物で現れたのだと悟った。
「リダス。お前……」
「一番、誰が持っているのかが分かる代物だったからな…… ……返しに来たぜ。」
「……うん。」
差し出されたバンダナを見て、ぼうくんはリダスに問いかけた。問いかけに対しリダスはそう答えると、ラプソディの持っていたバンダナをぼうくんは受け取り彼等を部屋へと通した。
その後再度部屋の扉を閉じると、二人の向かったベットの元へと彼も向かって行った。




