雨と静音な存在達 1
翌日アルダート達は、いつも通りの朝を迎え揃って朝食を取っていた。しかしいつもと違う事柄がそこにはあり、決まっていた日常に色を足したかのような感覚を、アルダートを除く三人が受けていた。
「ぇっ、ストレンジャー ココを出て行くのか……?」
朝食後の一時の場を借りて、リダスは皆に再び外へ出る事を決意した事を話した。最初に驚きを見せたのはミークであり、再び何処かへ出かけられるだろうと思っていた彼にとって、意外な出来事の様だった。
「急にこんな事を言って、すまない…… でも、俺にも叶えたい願いが見つけられた。それを素直に、実行に移してみたい。」
「何時頃、戻るの?」
「正確な目途は立っていないから、どれくらいの期間がかかるかも解らない。」
「じゃあ、アレをもう一度使うって事なのね。ストレンジャー」
その場に居た皆にとって、彼からの申し出は即座に処理が付く事柄ではない。平和になった街の時間を共に過ごそうと決めた集団が、たった一人でも欠落した際に感じる違和感。それが今、彼等に襲い掛かり何時解消されるのだろうかと気にかけていた。
ミークとベルミリオンは共にリダスの戻ってくる時間を望んでいるのは目に見えており、彼自身も早く戻れるのであれば戻りたいと思っていた。だが正確に帰ってくる目途が立たない旅路に日時を決めると言うのは、中々難しい。大体の話を掴んだ様子で、ペルティは部屋の隅に置かれている瓶を見つめながらリダスに言った。
すると、問われた彼は静かに頷き使う意志を示した。
「アルダートにも話したが、今回は俺一人の力だけで叶えてみたい。クラウの願いを託された事もあるが、テリスターの願いを………俺は叶えたい。」
「そう…… 分かったわ。」
その場を去ろうとする彼の意志を聞いてか、ペルティは静かにそう言うと席を立ち、部屋の隅に置かれていた流星石を幾つか手にし戻ってきた。戻るや否や彼女はリダスの座っている椅子の近くへと移動し、持っていた流星石を一度テーブルへと置いた。
彼女が持ってきた流星石は以前リダスが使っていた【氷彩零刃】と別の小さな流星石達であり、幾つかの原液を彼の流星石の中へと注ぎだした。入るだけの原液を入れ終えると、彼女は瓶に栓をし軽く宙へと投げ中身を混ぜると、彼に手渡した。
「アタシに出来るのは、これくらい。ストレンジャーがやりたいようにやって見せて。」
「ペルティ……」
「どの道、改革だってこんなに上手く出来たんだもの。貴方の力があってこそなんだから、信じる様にやってみれば良いじゃない。結果は、その後聞くわ。」
どうやら彼女なりの配慮だった様子で、この後の事に関与しない代わりにと、彼の旅路を護ってくれる力を最大限にまで戻した様だ。あまり言いたい事を真っ直ぐに言う事のなかった彼女からしたらとても珍しい事であり、その場にいたアルダート達も軽く驚いていた。
その後何を思ったのか、皆はその場を立ち上がりリダスのそばへと移動した。そして、軽く彼の手や肩に触れだした。
「行ってこい、ストレンジャー お姫様、助けて来るんだろ?」
「貴方が本当に大切に想う人への気持ちは、絶対に届くと思うわ。女の子の考えてる事は、女の子が良く分かるのよ。」
「ストレンジャーさん。僕達、ずっとここで待っています。ストレンジャーさんの帰るお家と椅子は、ココにもあります。」
「皆……… ……ゴメンな。……ありがとう。」
皆からの激励を受け、リダスは静かに涙を流した。一人よがりな考えだと思っていた彼にとって、何よりの支えになる。
仲間であり、家族の様な存在達の。温かい言葉だった………
カツン……カツン……カツン……
その後リダスは、身支度を済ませアルダート達に再度握手をして住処を離れた。彼の履いている靴底がビルの階段を踏むと、静かに響きアルダート達の居る部屋にまで届いていた。外へと出るとその音が無くなり、彼は一人外へと出た。
数歩先へと進んだ後、彼は元居たビルを見上げると彼等の姿が目に映った。見送ろうとビルの窓辺に立っていたアルダート達はそれを見ると、笑顔で彼に手を振り見送っていた。住処に同じように住んでいたアルダート達の姿を見ると、リダスは軽く手を振りその場を後にして行った。
外へと出た彼は一人街中を歩き、とある場所へと向かって行った。それは街の地区を仕切っていた壁に着けられた大扉の前であり、今では門番達の数は少なく誰でも外へと出入り出来る状態になっている。少しだけ開かれた扉の中へと出る際には門番に声をかける事が義務付けられており、誰が隣の地区へ行ったのかも門番たちは全て把握していた。
リダスが扉の前へと近づくと、門番の一人がそれに気づき彼に敬礼をし背筋を伸ばした。
「お出かけですか、改革者殿。」
「あぁ…… 行先を指定したいんだが、まだ出来るか……?」
「お安い御用です。」
甲冑を身に纏った存在はリダスに声をかけると、彼からの申し出を聞き再度敬礼した。改革を起こした当初から彼の事を知っている門番であり、情報が共有され街の姿が変わった事も彼等の耳に入っていた。
ゆえに、門番達はリダスの事をそう呼ぶのだった。
「行先の指定を、お願いします。」
「テリスター…… ……いや、先に会いたい存在が居る。以前『管理課』と呼ばれていた組織の一員であった、藍髪の獣人『クラウ』の元に。俺を導いてほしい。」
「場所指定無し、注文受注。了解。」
改革をする前同様の台詞を告げられ、リダスは先に会うべき存在の元へと導いて欲しいと言った。先に合うべき存在が居るのは事実だが、その前に確かめておかなければならない事が彼の中である様だ。彼の申し出を聞くと、門番はそう言い手に小さな鍵を召喚した。
門番の手に握られていたのは地区を行き来する際に使用していた鍵であり、今では目にする事が珍しい流星石の鉱石が付いた代物だった。鍵を手にした門番は静かに大扉に触れると、小さく開いていた扉から差し込んでいた光が一層強く輝き出した。
扉の状態が変わった事を確認すると、門番は振り返りリダスに道が繋がった事を告げた。
「お気をつけて、改革者殿。」
「あぁ、ありがとう………」
再び敬礼した門番にお礼を言うと、リダスは開かれた扉の先へと進もうとした。その時だった。
「もし。」
「?」
そんな彼の事を、珍しく門番が引き止めたのだ。どうかしたのだろうかと思いリダスは振り返ると、仮面をつけていた門番は素顔を見せてその場に立っていた。リダス同様小柄な姿をしたトカゲであり、二色の濃淡が分かれた緑色の肌が印象的な青年だった。
付けていた仮面を右手に持ち、門番はその場に立っていた。
「貴方の望んでいた願いが叶わないと感じた時は、迷わず誰かに頼って欲しい。後悔さえも立たずに命を亡くす事だけは、絶対に……避けて欲しい。」
「後悔………」
「無論、今の貴方が気に留める事でもない事は事実だ。それでも、心の片隅に……留めて欲しい。孤独に佇む、蒼き花と共に………変えてくれ。」
とても意味が理解出来ない様子でリダスはトカゲの言う事を耳にし、トカゲは素直に頭を下げた。彼等の発言権は元から無いに等しい様子だが、それでも伝えるべき事が彼にはあったのかもしれない。再び仮面を付けた門番は敬礼し、再度リダスを見送る体制に入った。
それを見たリダスは手を振り、扉の中へと入って行った。
『……待っててくれ、テリスター クラウ。必ず、叶えに行くからな………』
徐々に白くなっていく視界の中、リダスは一人伝える様に呟いた。




