子狐達の平和 3
太陽が街を照らす時間が終わり、月夜の輝く時間がやって来た。アルダート達は住処にしているビルへと戻ると、食事を済ませ寝る時間が来るまでゲームをする事となった。
これも彼等の最近の日常に新たに取り入れられた遊戯であり、辛い戦いを忘れさせるにはもってこいの事柄だ。その際に使用する道具も、街中で調達してきた物ばかりであった。
「はーい、革命!」
「ゲッ、まったっかよ!! お前いい加減インチキしてる手札としか思えないぞ!!」
その日のゲームは、トランプを使ってのカードゲームであった。日ごとによってやる種目は変わるが、使っている道具によって遊び方がさまざまなトランプは、彼等の良い暇つぶしであり余計な出費を削減する方法であった。
トランプの遊び方はペルティが全て把握している事もあってか、独自の必勝法による勝算も誇っていた。
現に今も、彼女の独壇場である。
「あーら、負け犬の遠吠え? ううん、負け虎の遠吠えね。」
「誰が『負け虎』だっ!!」
その際に弄られるのは何時でもミークであり、2人のやり取りはもはやアルダート達から見るとおなじみの光景でしかない。ペルティが何度も勝つにつれて、次第に彼の機嫌もあまりよろしく無く何時しか怒ってしまう。無論それだけの『完璧すぎる戦法』が彼女にはあるのだから、イカサマなどをしなくても平気で勝ててしまうのだ。
そして彼の怒りを募らせる要因は、もう一つある。
「いーかげんに大貧民から抜けなさいよねー アタシが『都落ち』のルール作ってても、意味が成さないじゃない。何でそんなにポンポンと強いカード出すの?」
「それしねぇと勝てない出し方するからだろーが! ペルティばっかり大富豪になってたら、こっちだって文句言いたくなるぞ。」
「だーかーらー 疑い深い負け虎の熱意にこたえて、アタシは最初以外一切シャッフルしてないでしょー これ以上何を求めてるのよ、アンタは。」
「どぅぁから『負け虎』って、言うんじゃねぇえええーーー!!」
ゲームではいつも、彼がドべになる事が多いのだ。確率で言ったとしても、彼が5割をドべで占める確率がとても多い。一番勝算が高いのはペルティには違いは無く、その後をベルミリオンとアルダートが半々の確率で勝っている。
中々楽しい場には変わりはないため、ミークの声が闇夜にかき消されていくのも、もはや街の住民達にとっても平和の証だ。一切文句は来ないのだから、いつでも賑やかな彼等の部屋であった。
「………・」
「ストレンジャーさんも、あんまりゲームは得意じゃないんですか……?」
「そう……みたいだな。アルダートより先に上がれる事が、あまりない。」
しかし、もう一人勝算が低い同居人が居る。リダスもアルダート達と共にゲームには参加はしているものの、ミークの次に勝率が低い。どちらかと言うと作戦に対しては強そうなイメージを持つ彼にしては、とても珍しい光景だ。
最初の内はアルダートも気にしていなかったが、今では少しだけ彼の様子も気にするようになっていた。時々助言をして彼のアシストをする事もあるが、それでもコツが掴めていない様だ。
「でも意外よね~ ストレンジャーって、もっとゲームに強そうなイメージあるのに。」
「そうね。ストレンジャーは、どっちかって言うと改革前の戦いの方が得意?」
「それは、言えてるかもしれないな。……武術に関しては不得手な物はあまりないが、こういう娯楽に触れる機会はほとんどなかった。それも、一つの理由だろうな。」
先に上がり様子を見守っていたペルティとベルミリオンは口々にそう言い、少し意外そうな目を彼に向けていた。その場にいた四人も同様のイメージを抱いていた様子で、段々とリダスの負ける確率の高い事を知った皆は、少しだけ気遣う様子も見せていた。
しかしアルダートと違い手を出す事はせず、ちょっと以外な彼の一面を見ていると思い、何処か楽しげだ。ゆえに、一番助力をしようとしているアルダートを止める事は無かったのだ。
「ストレンジャーは、トランプに触れる事も無かったのか?」
「あぁ……初めてと言っても、間違いじゃないだろうな。……だからかな、今は今で。俺はこの時間が好きだ。」
「そっかっ」
アルダート達が気にしている事は、同じ立ち位置でもあるミークも同様に気にしていた。彼が負け腰を見せる事が無かった事もだが、いつの間にか周りが上がっても対峙している事の多い彼の様子を見ない事は無く、少しだけ顔色も窺っていた。
その時のリダスは少しだけ困った表情をしている事が多く、とてもあの時の彼が見せる事の無い自然体の表情であった。それを見た彼は、いつも気にかけ声をかけていた。
スッ
「……あがり。」
「ゲッ!!」
しかし、勝負の手は一切緩めてくれないのが彼でもある。和みの雰囲気が何時しか逆転の時間に変わっており、声をかけた時ほどミークが負ける事は多い。今回もまた、彼の負けである。
「はーい、だーいひーんみーんっ ミークは庶民以下の大貧民~♪」
「うっせっ! 次だ次!!」
こうしてゲームが一度終了し、再び新たなゲームが幕を開けるのだった。
周りが笑い、彼が懸命にカードを切り、そして再びゲームが始まる。
ストレンジャーはその時間を大切にしており、絶対にその場を途中で抜けようとはしなかった。皆が笑う時が彼の笑顔を作ってくれる、大切な時間であったから………
その後再度始まったゲームでお開きとなり、湯浴みを済ませた5人は寝床へと戻って行った。同じ部屋に寝ているミークはあくびを1つし、疲れている様子で早々にアルダート達に声をかけ寝てしまった。そんな彼に笑顔でアルダートは声をかけると、隣のベットに寝ているリダスを静かに見た。
そこにはベットに腰かけ外を見ているリダスの姿があり、まだしばらく寝る様子の無い彼が居た。丁度アルダートの居る位置から彼を見ると、窓枠から月が顔を出しており、彼の姿をほんのり明るく照らしていた。何処となく光っている青龍の姿がそこにはあり、仲のいい彼でも時々見とれる事がしばしばある。
今がその時であり、自分の知らない彼が何処かに居るのではないか。そう思う事があるのだ。
「ストレンジャーさん。」
「……ん。どうした、アルダート。」
そんな彼を見ていたアルダートは声をかけ、少しだけお喋りしても良いかと彼に質問した。アルダートの申し出を受け彼は静かに頷くと、アルダートは嬉しそうに笑顔を見せた後、毛布に包まりながら横になりその場でリダスを見た。
「ストレンジャーさんは、僕達と居て楽しいですか?」
「あぁ、楽しいぜ。……こういう生活を『平和』と言うなら、俺も前にその暮らしをしていた気がする。テリスターと、一緒に。」
「カツキさん達が『ラプソディ』って言っていた人の事ですね。今は姿を見せていないって聞きましたが、ストレンジャーさんは……寂しくないんですか。」
「……そうだな。」
しばし今の現状について質問すると、リダスはそう言い今は姿を見せない存在ともそう過ごしていた気がすると言った。あくまで彼の記憶は戻りかけに近い形であり、名前は思い出したとはいえ過去に何をしていたのかは明確に覚えていない。ゆえに靄のかかった記憶を手繰り寄せる事しか彼には出来ず、あいまいな返答しか出来ないでいた。アルダートからの別の問いかけに対しては、リダスは即答せずしばし考え込んでいた。
今の現状は確かに楽しいし、自分ですら気付けるほどに珍しい表情を幾つも彼等の前には出してきた。『素直になれた』とも言える間柄の彼等と居て楽しいはずなのに、何故か今居ない存在の事を気にかけている。それはなぜなのだろうかと、リダスは考え月を見た。
「……なぁ、アルダート。」
しばし月を眺めた後、リダスは後方に居たアルダートの姿を見つつ声をかけた。彼の声を聞いた彼は不思議そうにリダスを見ており、次の言葉を聞こうと耳を傾けていた。そんな彼を見た後、リダスは少しだけ不安そうな顔をしつつ言葉を続けた。
「俺は、素直にアルダート達と居るのは楽しいと思う。……でも、なぜかテリスターの事を考えたり、クラウの事を考えると……少しだけ不安な気持ちになるんだ。俺はアルダートの願いを叶えるために行動していたのに、君の笑顔がここにはあるのに……… 何で俺は、そんな気分になるんだろうな……と、思ってな。」
「ストレンジャーさん………」
自分でも良く分からない事ではあるが、アルダートには伝えておきたい。彼はそう思い悩んでいる事を素直に告げ、今の現状も楽しいがまだ解決出来ていない事があるのではないのだろうかと、不安に思っている事を話した。リダスの心の悩みを聞いてアルダートは静かにベットから起き上がると、布団をベットに置きリダスの居るベットへと移動した。
そして、静かに手を掴んだ。
「きっとそれは、次にストレンジャーさんが叶えたい願いが見つかったんだと思います。僕の願いを叶えようとしてくれたストレンジャーさんが居たように、今の悩みは………きっと、ストレンジャーさん自身の願いなんだと思います。」
「俺自身の……願い……?」
「この街には、僕と同じ様に『叶えたい願い』を持った方々がたくさん住んでいます。そんな方々の願いを、ストレンジャーさんはたくさん叶えてきました。 皆さんの願いを叶えて行った後に見つかるのは、きっと自分自身の抱いていた願いなんだと思います。」
相手が考えている事全てを解っているとは思えない、だがそれでも気付いた事を言おう。アルダートはリダスの手を握り目を見つめた後、彼自身がまだ分かっていないであろう疑問に答えを付け加えた。
今までリダスがしてきた事は街の存在達皆の願いであり、叶えられた姿が今の平和を指示していた。しかし彼の気持ちが晴れないと言う事は叶えられていない願いがあると言う事であり、一番その願いを叶えたいであろう相手が居る事もアルダートは解っていた。だからこそ大切な相手の事を考えている際に心に靄ができ、不安な気持ちになるのだと言った。
「ストレンジャーさんは、ラプソディさんの事を。そして、僕と同じようにクラウさんの事を考えている。お二人の願いを叶えていないって、きっと思ってるんじゃないでしょうか。」
「………」
「焦らなくても、きっと大丈夫だと思いますよ。僕はずっと、ストレンジャーさんの事を信じています。僕が一緒に居て欲しいって頼んだお願いは、もう十分叶っていますよ。……だから、今度は。ストレンジャーさんのお願いを、僕は叶えたいです。」
「アルダート………」
街に現れ探し求めていたラプソディの事、そしてそのラプソディの事を支えていたクラウ。その二人は彼にとっても大切な存在であり、自分達と共に今もなお一緒に居て欲しかった相手なのだと言う事はアルダートも解っていた。
彼自身もクラウに会いたいと言う気持ちは強い事もあったからこそ、彼への協力を申し出たようだ。一生懸命に手を握り、懸命なまなざしを彼に向けていた。
「ありがとう、アルダート。……でも、大丈夫。君には迷惑をかけて来たし、俺に気遣ってくれていた事も十分解っているから。今度は、俺一人でやらせてもらいたい。」
「……分かりました。明日、出かけますか・・…・?」
「あぁ。皆にも、ちゃんと説明する。ありがとう、アルダート。世話に……なったな。」
「はい。」
そんな彼の申し出を聞くも、リダスはそう言い彼の協力を断った。今まで彼の事を考えてやってきたつもりの事柄は、リダスの中では最善にならない言い方もたくさんあった。
ゆえにまた、アルダートを巻き込み悲しませてしまうかもしれない。
そう思ったリダスの気持ちが、言葉になり彼に伝えたのだった。少しだけ寂しそうにするアルダートに謝りお礼を言うと、リダスは静かに彼の頭を撫でた。
そして二人は互いのベットへと移動し、床に就くのであった。




