子狐達の平和 2
街の姿が変わったと共に、彼等の住まう地区の住民達は彼等に敬意を向ける事が日々増えて行った。アルダート達の事を知らない者は居ないほどにまで彼等の影響力は強く、ネコSの使用していた流星石『機械兵』の脅威からの脱却は想像以上の力を秘めていた。
ゆえに、アルダートの住んでいたこの地区ではいち早く街の瓦礫が撤去され、管理課の存在達の手から逃れた事が彼等の名が知られるようになった理由かもしれない。街を歩く毎に彼等の事を『改革者』と呼び、またある者は『英雄』であると言った。
希望を亡くしたこの街を『英雄達の消えた街』と呼んでいた時から一変し、今の街を希望に溢れさせてくれる英雄の存在。街の住民達を明るく、そして希望となって街の姿を変えようとする心意気へと変化させるには十分すぎる物だった。
とはいえ、
「ねぇねぇー コレ結構似合ってると思わない?」
英雄と呼ばれる彼等の日常は、そんなに華やかかつ希望に満ち溢れた物とは縁のない物でもあった。朝食を取り終えたアルダート達は街へと赴くと、ベルミリオンとペルティの思い付きで『ブティック』へと足を運んでいた。
資材が少ない街とはいえ、地区には『衣類』を生産する事を主としていた場もあり、洋服の数はとても多く日々レパートリーが増えていた。今となって地区を仕切っていた扉の役割も無くなり、誰であっても通行する事が出来る様になり、彼女達は洋服を見ようとその場に足を運ぶ事が日に日に増えていた。
そして今となっては、一日一回行く事が日課になっていた。
「うーん…… ミークのはもうちょっと薄着の方が似合うんじゃないかな。」
「お前等なぁ………」
「……ぁっ、コレとか良いわ! ミーク、着て着て!」
「虎の話を聞けぇええーーー!!!」
だが実際には、彼女達の目的は『見る』事であり『買う』事ではない。ミークを試着室に放置したまま2人は気に入った衣服を取っては彼の元へと持ち込み、着替えるよう指示していた。
渋々着る彼に追い打ちをかける駆け引きは、もはや日常である。
「大体、お前等男物で何楽しそうに喋ってんだよ。普通は女物を見るだろうが。」
「あら何、女装したいの?」
「なっ……!! 何で俺に着せる事前提なんだ!! 『お前等が着る様に』だよ!」
しかし着せられる側からしたら、何故女子勢が男物の服を見て楽しそうに買い物をしているのか、理解出来ない様だ。不満そうに漏らした言葉はなぜか誤解を招く結果になり、ミークにとってはいい迷惑である。
ちなみに彼には、女装の趣味は微塵もない。
「わかってるわよ、からかっただけじゃない。馬鹿ねー」
「クッ……」
そして終いにはダメ押しである。彼女達は確かに買い物は好きだが、衣類を買うにも英雄となる彼等にも対価は要求される。普段買われる事のない衣類を見て着てを繰り返し、それをしている気分になりたい。
その願いから、この行動が行われる様だ。
「……それにしても、毎回似合ってるのも居るのよねー」
「ぇっ?」
シャーッ
「……これで良いのか。ベルミリオン、ペルティ。」
しかし着せ替えの面倒に絡まれているのは、ミークだけではない。彼の隣の試着室には先ほどからカーテンが閉められた状態になっており、彼女達が言うと同時にカーテンが開かれた。
中に居たのはリダスであり、今は普段身に着けている上着にズボン姿では無く、オシャレなカジュアル着に身を包んでいた。濃い緑色を基調としたジャンパーにはファーが付いており、セットで試着した紺色のジーンズはとても良く似合っていた。
靴と手袋のみ、普段通りのリダスであった。
「やーっぱミークと比べたら月とスッポンね。さっすがストレンジャー」
「カッコいい。良く似合ってるわ、ストレンジャー」
「あぁ…… ありがとう。」
二人から見るとミークとは比べ物にならないらしく、着るのが丁寧な分着る回数は彼は少ない。その上このような言われ方をされるのだから、早く着て満足させようとしている彼の行動は実にはなっていない。
「だーったらストレンジャーに着せれば良いじゃねえか。俺を巻き込むなよ。」
「はーい次々っ ストレンジャーはもう良いわよ、着替えて。」
「分かった。」
その後軽くカメラで数回シャッターを切られると、ペルティは満足した様子でリダスに元の服になって良いと言った。来店したと同時に気に入った組み合わせが出来ると彼女は写真を撮り、その日その日の記念にするのだ。
店側にその写真を後日渡す手はずにもなっており、店側がいくら彼女達が騒ごうとも注意をしない理由はそこに含まれていた。現に完成した組み合わせの写真をモデルに服を組み合わせると、なぜか売れるジンクスも出来ている。
「俺はまだなのか……」
「だーって、まだ満足した組み合わせが出来ないんだもーん。はい、次コレ!」
「ッー……! 早く満足しろよなぁあ!?」
それからもミークは満足しない彼女達に振り回され、着せ替え人形の如く服を何着も試着室に放り込まれるのであった。一足先に解放されたリダスは元の衣服になると、手渡されていた商品の服を棚へと戻していた。
「ストレンジャーさんは、どんな服を着てもカッコいいですね。僕もそんな人になってみたいです。」
そんな彼の元へやってきたのはアルダートで、ストレンジャーの持っていた衣服を見つつ感想を言った。ペルティ達の被害に唯一合わない彼からしたら、渡された衣服を完璧に着こなしてしまうストレンジャーが憧れの存在に見えて仕方ない様だ。
片づけた衣服を優しく手に取り鏡の前で合わせるも、似合わない事がほとんどでちょっと残念の様だ。
「アルダートは着ないのか……? 好きな服を着て、たまには散歩に出かけるのも良いんじゃないか。」
「そうですね。でも僕が行く所って言ったら、クラウさんと会ったあの宮殿の中の庭園くらいなので。この服で良いんです。」
「……そっか。」
鏡の前で服を合わせるアルダートを見て、リダスは気に入った服を買ってみたらどうかと勧めてみた。しかし彼には服を着て出かける様な場所は無く、今は今で幸せな彼に必要な物は何もないのかもしれない。
だが『会いたい』相手は居る様子で、まだ少し現状に満足出来ていない様だ。
そんなアルダートにリダスは優しく笑顔を見せると、アルダートは嬉しそうに笑い衣服を棚に戻して行った。
「アルダート、ストレンジャー そろそろ帰るわよー」
「ぁっ、はーいっ」
試着室から離れていた二人に声がかかったのは、それから間もなくだった。ペルティからの声が彼等に届くと、アルダートは軽く手を振りつつ3人の元へと向かって行った。先ほどのストレンジャーとのやり取りを感じさせない笑顔の彼がそこにはおり、リダスはそれを見るたびにクラウに会いたい事を話せない彼の気持ちを感じるのだった。
『クラウに会えない、アルダートの気持ち…… 今でも笑顔のはずなのに、まだこの現状は好きになれないのかもしれないな………』
この場に居て欲しいが、居ないクラウの事をリダスは考えた。
互いの道は外れ最後に出会うはずだった約束は、今もなお外れたまま消息も掴めていない。風の噂で管理課の存在達である『ネコS、メイリー、アスピセス』の行先も、彼等が今住まう地区へ戻ってからは姿を消したそうだ。中心の存在である『ラプソディ』も例外では無く、リダスの前から消えてしまったのだ。
まるで前まで消えてしまっていた『英雄』が消えてしまった、過去の街の様に。
『テリスター……… ……貴女は今、何処に居るんだ。』
唯一知るであろう『幻想車』を手渡してくれたぼうくんとも、あれからリダスは会っていない。その事が気がかりであり、彼の探す相手に近づける切欠になる。
リダスはそう考え、一人で抱え込んでいたのだった。




