星へと変わった感情 1
ネコSとの戦いを終え、再び上層部へと向かいだしたアルダート達。ホールに置かれていた装置を起動させると、再び彼等は通路の様な空間へと送られ、前へと向かって走り出した。下層部とは違い彼等は確実に進んでいる事を知らせるかのように、通路に開けられていた窓からは大量の光が降り注いでいた。
徐々に天国へと向かうかのように、彼等は足を止めず互いに移動している事を意識して。ひたすら前へ、上へ上へとと向かって行くのであった。
その先で待つ、悪なのか正義なのかもわからない。姫の元へ………
シュンッ
「……っとっ。ぁっ、またホールですよ。」
いくつかの通路を移動し、再び転送装置を起動させたアルダート達。不意に飛ばされた先の造りが変わり、彼等は再び広間の様な空間へと送られた。
先ほどまで彼等が通って来た通路の造りをはるかに超え、高貴かつ上品な作りの空間。隅に立つ柱はどれも白く光り輝いており、日の光を浴びて内側から輝いているかのような灯火を放っていた。淡い桜色のその空間には、彼等の居る部屋の高い天井にまで届くかのような、大きな窓が開いていた。
「さっきまでと違った造りだな……… 装置も……ないな。」
「ってことは、ココが目的地の最上階ホールか。……あっ!!」
そんなホールの内装を確認し辺りを見渡していると、カツキは何かを見つけた様に声を上げた。彼の指示した方向を見ようとアルダート達も顔を動かすと、そこには窓辺に立つ一人の人影の姿があった。窓には昇り切った太陽が無慈悲なまでに大量の光を放っており、逆光以上の輝きを放っていた。誰か居るけれど、誰だかわからない光景であった。
しばしその姿を見つめていると、ホールに薄くも響き渡る声が聞こえてきた。
「………ムーン。」
「ぇっ?」
「カウザ、ノイル、コリズ、ソリウス、エル……… ……貴方達が、ココに来たんだね。」
「俺達に対して、その呼び方をするのって……… まさかっ!」
不意に聞こえてきた声に反応して、カツキ達は驚きつつ声の主に察しが付いたようだ。そしてもう一度影の姿を見ようと目を凝らした瞬間、背後の太陽は少しずつ上昇しだし彼等へと放っていた日光を徐々に減らして行った。すると影の姿も目視しやすくなり、立っていた相手の事を見て驚愕した。
そこに立っていたのは、桃色と鶯色を基調としたドレスを纏った狼だった。顔や手は灰色であり、服装からして彼等の探し求めていた『プリンセス』に違いない相手であった。だがその相手の事を、カツキ達は知っていたのだ。
同じ街で、同じ世界で暮らしていた。一人の相手の事を。
「なんで………ココに、ラプが居るんだよ………」
「………」
その場に立っていた狼は静かに歩みだし、窓辺付近に造られていた台の上を静かに降りた。相手を見たシップスは驚きつつも、何故この場に居るのが自分の知り合いなのかが理解出来ずにいた。
自分達の倒すべき相手は、もっとも邪悪であり街を不幸な姿に変えた根源のはず。それがどうして知り合いであり、自分達の友達であったのか。何もわからずに、ただ驚く事しか出来なかった。
「プリンセスって、お前の事なのか……… ラプソディ。」
そんな彼の代わりにと、カツキは驚く自分を正気に戻しつつ頑張って声を出した。すると相手は静かに頷き、何も言わずにその場に立ち、窓から吹き込んできた風にドレスを靡かせていた。
管理課の長にして、彼等の護るべき相手であるプリンセスの正体。それはどの書物にも書かれていなかった『灰色の狼』の事であり『ラプソディ』の事だった。何も言わずにただ驚く彼等は、徐々に何かを理解した様子で開けていた口を静かに閉ざした。
「皆さんの……知り合いなん……ですか? あの人は。」
「………」
そんな彼等を見ていたアルダートは、静かにカツキ達に問いかけた。しかし先ほどまで返ってきていた返答は一切なく、静寂な空間が広がっていた。代わりに、別の賑わいが徐々に起こり出した。
「おいっ……説明しろよ……!! お前、何やってんだよ!! 何で俺達を苦しめる様な場所に変えたんだよ!!」
「………」
「俺達とは友達だったはずだろ……? そんな俺達に対して、お前はこんな事を望んで行ったって言うのかよ!」
「ラプ、俺達が何したって言うんだ!!」
最初に口を開けたのはソニルスであり、誰もが一番聞きたいであろう質問を叫んだ。しかし何も言わない相手に対し、彼に続いてクロとハンメルが心からの叫びを言った。急に怒りだす皆にたじろいだアルダートは、不意に近くに居たストレンジャーの服を掴み彼の顔を見た。
すると、彼の様子も違う事にアルダートは気付いた。
「ストレンジャーさん………?」
彼の声が耳に届いているのかいないのか、ストレンジャーは静かに歩きだし彼の手から離れる様に数歩前へと出た。後方で叫ぶ彼等を尻目に、一言呟いた。
「………テリスター………」
「ぇっ………?」
彼の言った言葉を聞いて、アルダート達は再度驚いた。するとその声を聞いたラプソディは静かに俯いていた顔を上げ、ストレンジャーの姿を見て同様に呟いた。
「リダス………さん。」
互いに一言つぶやき会うと、再び風が彼等の元へと凪いだ。二人の再開を祝福するのか、それとも残酷な結末を知ることになった彼等を苦しめるためか。風は静かに、二人を包み込んでいた。
「ぉいまさか………お前の探していた相手って言うのは………!」
「……… ……あの人だ。あの人が、俺の探し求めていた相手……… 大切な人『テリスター』だ。」
「!!」
不意に聞こえてきた言葉のやり取りを耳にし、ミークは驚きながらもストレンジャーに質問した。すると彼は静かに頷き、自分が探していた相手である事を皆に知らせた。
自分は行動してきたアルダート達の、倒すべき相手を探していた。しかしそれは仲間割れの簡単な決定印を押す出来事であったにすぎず、ストレンジャーは何も言わずに姫を見た。すると姫も同じく彼を見て、両手を胸の前で組み、何かして欲しいけれど何も言えない様子を表していた。
「……ふざけんなよ……… ……ンな事、あってたまるかって……!!」
「ラプ! お前、ストレンジャーに探させておきながら何も言う事ねぇのかよ!! お前は俺達を苦しめるばかりか、この街の事を何も知らないコイツまで棒に振って苦労させてきたんだぞ! 解ってんのか!」
「み、皆さん落ち着いて」
「謝罪しろ謝罪!! 俺達の事を苦しめた街へと変えた償いをしろ! 死んで詫びろ!!」
混乱し過ぎて正気なのか本気なのかもわからずに、カツキ達は言葉を口にしながら激怒した。それを見て慌てたアルダートは落ち着かせようとするも、彼の声さえもが空を切りかき消されてしまった。
再び罵倒の嵐となる意見を聞き、姫は静かに頭を垂れ黙り込んでしまった。
「……… ……私は………」
「聞きたくねぇよ、言い訳なんて!! 今更見苦しいと思わねぇのかよ!!」
「………」
その後何かを言わなければと思ったのか、姫は口を開け言葉を口にしようとした。しかしその言葉さえも受け入れない様子でクロが猛反論し、何を言っても受け入れてもらえないのだろうという空間が広がるばかりであった。彼女の声に賛同しやってくるカツキ達の声が、その考えをさらに加速させた。
「縁を切る事になるって、解っててやったんだよなぁあお前は!!」
「縁………切る………」
ガシャリ………
そして、止めの一言となったのか。ソニルスの言った一言を聞いて、姫は呟きながら涙を流した。
すると、周囲に金属同士が擦れたかのような鈍い音が鳴った。何かが何かを縛り付けるかのような、そんな音が。
「縁……嫌だ……… ………私は………私は……一人……じゃ……… ………一人………一人………一人!!」
音と共に姫が聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた、その瞬間。
「いやぁああああああーーー!!!」
ジャキンジャキンジャキンッ!!
「!? 何!!」
泣き叫ぶかのように発狂した姫の声に往古してか、壁から床から縦横無尽に鎖が生え出した。そして鎖はホールを囲うように勢いよく伸びだし、彼等の出口となろう場所全てを塞ぐ様に駆け巡り、先端を壁へと突き刺した。次の瞬間、
ジャラジャラジャラジャラ……!!
「ぁっ! マズッ!!」
「うわぁあああー!!」
周囲に立っていた一部を除くカツキ達の地面から鎖が伸びだし、鳥かごへと姿を変え彼等を宙へと向けて拘束し出した。不意な事に驚き行動が遅れた彼等は籠の中へと閉じ込められ、手がギリギリ出るか出ないかの鎖に吊るされてしまった。
「カツキさん! シップスさん!!」
「何がなんだって言うんだよ……!! 敵どころか、発狂しただけで拘束なんて、わけわからねぇぞ!! どうなってんだよ!?」
「私に言われたって解るわけないじゃない!! アンタこそ何とかしなさ!! キャアァッ!!」
吊り上げられてしまったカツキ達に声をかけるアルダートであったが、自分の跳躍力では彼等の元には届けず見る事しか出来ずにいた。急な展開に混乱するミークがペルティに問いかけるも、彼女も何が何だか分かっておらず、縦横無尽にやってくる鎖を避けるのが精いっぱいであった。
それを見たクロは脱出しようと、手にした流星石を右足の靴先端に塗りつけた。
「こんくらいの鎖なら……!! 切ってやらぁあ!」
ガシュンンッ!!
「……!! 刃が、刃毀れした……!?」
その後生成した刃を鎖に向かって思い切り蹴り上げると、金属同士が擦れあう音が響いた。音と共に出来たであろう傷を確認する彼女であったが、目に映ったのは刃毀れした自身の流星石の哀れな姿であった。今まで完璧な切れ味と弾丸を見せていた彼女の流星石が、ただの物質だと思っていた鎖に負けたのだ。
「コレ、ただの鎖じゃない!! 流星石が、触れただけで溶けるよ!!」
「何だって!?」
何が起こったのか解らない彼女の耳に涼からの声が届き、彼女自身も試した流星石の杖が駄目になってしまった事を叫んだ。氷で鎖そのものを分解しようと試みた様子で、完全に溶けきってしまった原液が彼女の手を流れ落ちて行った。
周りで同様に脱出を試みようとしていた皆はその報告を受け、慌てて流星石を上着の中へと押し込んだ。
「そういえば、聞いたことが…… 管理課の流星石に『追撃』と『防衛』の対なる力があったと同時に、その上の遥かな感情で出来上がった『束縛』の流星石があるって!!」
「まさか……!! 【鉄槌鞭】!?」
不意に言葉を口にしたハンメルの考えを聞き、アルダートは名前だけ知っていた流星石の存在を叫んだ。それこそが、相手の自由さえも奪い何もかもを失わせる禁断の流星石である事を。




