全てを変えたあの場所で 5
【ニャッニャッニャッ、ようやく機会が訪れたのニャ。効果射程距離制限は面倒なのニャー】
【ネコ……… 何のつもりだ、コレは。】
突如止まってしまった空間の中、自分と同じく動ける様子でネコは喋り出した。どうやらこれもネコの仕掛けによる者らしく、どういう事なのかとストレンジャーは問いかけた。
軽く流星石を上着の中で握るも、それ以上はせず静かに手を出し少しだけ警戒していた。
【ニャーは龍と喋りたかっただけなのニャよ。それをする場が無いから、こういう強硬手段に出たのニャ。大丈夫ニャ、後で元に戻すし何も害は無いのニャ。】
【………信じて、良いんだな。】
【信用している相手に、ニャーは嘘は言わんのニャ。】
そんな彼にネコはひょうひょうと喋りだし、意味があって時間を止めた事を言った。止めた発生元は先ほどからずっとネコのそばに居る機械兵であり、瞳の閉じ具合によってその効果が発動する瞬間がある様だ。今まさにそれで時間が止まっており、再度同じことをすれば時間が再び流れ出す様だ。
簡単に言ってしまえば、その空間を別で形成していると言う事になる。
【で、ニャーが言った相手は見つかったかニャ? プリンセスへの考えは、変わったかニャ??】
時間操作の原理を把握していると、ネコは彼に質問を投げかけた。内容はそれこそこの行動を行った理由にふさわしい物であり、ネコが今この場で聞いておくべき内容である。
意外ではない様子で質問を聞いた後、彼は静かに答えた。
【相手は、見つかっていない……… ……考えに対しては、クラウの話を聞いて……思った事はある。】
【ほうほう。で、何かニャ~ それは。】
【……… お前等のプリンセスは、俺が当初思っていた時の悪の根源ではない……と言う事だ。この現状に到達した理由はクラウの管理していた書庫で知り、彼等がプリンセスを大切にしている事は二人のやり取りで把握している。……今はクラウはこの場に居ないから、この話を聞かせてやることは出来ないが……… それでも俺は、クラウが信じた相手を。俺は信じるつもりだ。】
今までの行動によって得てきた数々の出来事によって、彼はずっとプリンセスの事を考えさせられてきた。街の存在達は『悪』と言うも、管理課の存在達は『悪ではない』と主張する意見のすれ違い。その裏に隠されてきた事実を、ストレンジャーはネコ達から聞いていた。
街の姿を変えた理由、それは姫の事を考えて。存在達を束縛した理由、それは姫への接触を最小限に減らすため。そして何よりも、相手の事を一途に考えた結果が、この街の姿だった。ゆえに、意見がすれ違う理由も彼は解っていた。
そして決めた結論が、今彼の口から放たれた一言に込められていた。
管理課の存在達を信じる
ただ、それだけでの考えだった。
【んん~ 中々良いお考えだニャ。聞いてよかったのニャ。】
【?】
【いや、こっちの話ニャ。ではこの後時間が流れ出すにしたがって、君はどの手を出すかちょっとばっかし考えてもらうのニャ。】
彼の考えを聞き終えると、ネコは満足そうに笑みを浮かべた後、意味深な言葉を口にした。改めて聞かれた理由も定かではなかったため彼は疑問に思うも、特に意見は言わず相手の言う事に耳を傾けた。
【ぇっ…… どういう意味だ?】
【簡単ニャ。ニャーの考えでは、握り拳は『打破し行う改革』 Vサインは『兆しを見せつける改革』 そして、広げた掌は『相手を救う改革』ニャ。龍は、どれを選ぶかニャ。】
話された内容は、これから行うじゃんけんについての内容で、ネコからちょっとした補足に対する物だった。何故このような事を話したのか、管理課の中ではちょっとした常識の様なものでもあった。ゆえに、彼にも伝えておきたかったのかもしれない。
街で行われた改革は、どれも行動を起こした者達の望む姿になっていた。だがその行動そのものの起こし方は存在達によって違い、誰かを蹴落とす行動もあれば仲違いする物もあった。手を差し伸べる改革を行うと言うのは、なかなか難しい物だ。
【どれも改革だと思っているかもしれないがニャ、選択なんていつもこんなもんニャ。君が望む改革はどれか、ニャーに教えて欲しいのニャ。もしニャーと龍の考えがあって居れば、一回で勝負はつくのニャよ。」
【……… ……分かった。】
カチャンッ………
『……時間が、動いた………』
不意に持ち出された話が終了すると、彼の耳に再び錠を開ける音が周囲に響いた。すると色味の失せていた空間に色彩が蘇り、時間が再び動き出した事を知らせた。
「じゃ、行くのニャよ~」
しばらくして何事もなかったかのようにネコは良いだし、握り拳から左程変わりない手をクルクルと動かしていた。それを見たストレンジャーは静かに右足を引き、戦う意志を見せる体制を取り、右手を握った。
その後軽く準備が出来た事を知らせる様に、彼は静かに頷いた。
「頑張って、ストレンジャーさんっ! 僕、貴方の手が大好きですっ!!」
「……… 手、か。」
緊迫した空気が広がる中、彼の耳に一人の少年の声が聞こえてきた。声の主はアルダートであり、機械兵の指から少し顔を出す様に手をかけ彼に聞こえる様にと大声で言った。
その後に彼の意見に賛同するかのようにカツキ達の声が聞こえ、ストレンジャーは静かに呟きつつ目を瞑った。そして、合図とともに右手を出した。
「………それが、龍の考えなのニャね。」
二人の選択肢が決まり手を出すと、しばしの無音の空間にネコの声が響いた。彼等が出した手によって決着がつき、ネコの言う通り一回で決着がついてしまった。
ネコがグーの標識を、ストレンジャーが指を開いた掌を互いに見せていた。
「あぁ。……俺は常に、相手の事を助けたい。手を差し伸べてみたい……… ……見せつける事をしても、何も変わらないと思うからな。」
「それでこそ龍なのニャ。まっしりーん、ニャーの負けニャ。奴隷を解放せよっ!」
選んだ選択肢に対し彼は答え、選ばなかった2つを差し置いて選んだ手を優先する事を意志表明していた。誰かを捻じ伏せるのではなく、誰かに希望を見せつけるのでもなく。実力が物を良い、最善の手が出るかもわからないたった一つの道標。ストレンジャーはそれを選択した事を告げると、ネコは負けた事を言い機械兵に捕えた存在達を解放する様言った。
すると、機械兵は静かに拘束を解き彼等を包囲した大きな腕を静かに動かした。それによって自由になった彼等は、再度襲ってこない事を確認しつつストレンジャーの元へと駆け寄った。
「やったな! ストレンジャー!」
「さっすがー! まさか一発で終わるなんて!」
「おめでとうございます、ストレンジャーさんっ」
最初にたどり着いたミークの声に続いて、彼等はストレンジャーを取り囲み勝った事を喜んでいた。軽く微笑み嬉しそうに笑顔を見せると、本当に時間が止まって居た事を彼等の発言を聞いて改めて知るのだった。
その後遠くに居たネコの事が気に成り、ストレンジャーは遠くで見ていた相手に声をかけた。
「……ネコ。」
「龍の勝ちニャ。この先に、待っているニャよ。我等のプリンセスが。」
「……… ……行こう、皆。」
「「おうっ!!」」
しかしネコは何事もなかったかのようにそう言い、彼等を見送る様にその場を離れ窓辺へと向かって行った。日の光が窓の高さを越えていたため、日の光は浴びずネコは静かにそこに立っていた。早く行くがいい、そう背中で訴えてるかのようだった。
「……… ……ありがとう、ネコ。」
それを察したストレンジャーは皆に先に行く様促すと、移動装置の元へと向かわせた。装置を起動したアルダートに続いて皆が移動すると、ストレンジャーは静かに振り返りネコを見つつそう言うのだった。その後返事が来ない事を確認すると、遅れて彼も装置へと足を踏み入れその場を後にして行った。
『……後は、龍に委ねるかニャ。ニャーの考える流れであれば、龍はきっと助けられるニャ。あの子をニャ。』
《グルルルル………》
「よしよし、お腹が減ったかニャ。一度戻ると良いニャ、しばらく仕事は無いからニャ。」
そんな別れ際の言葉を聞き終えると、ネコは静かに呟きながら機械兵の元へと向かって行った。軽く唸りながら空腹である事を訴える機械兵を見て、ネコは静かに瓶の姿に戻し懐に閉まった。そして再度窓辺へと向かい、結末が変わる事を願うのであった。
この先に待っている、相手を変えられる事を。




