彼が目指した光 5
「シップス!! しっかりしろっ!!」
「ッ・・・っあぁ・・・ ・・・」
怪物の餌食となりかけたシップスは、遠くから聞こえてくるアシュレーの声に反応し、意識を保っていた。炎そのものに直に触れている感覚だけが全身からやってくるものの、不思議な事に身体が即座に焼け焦げる事は無く、身に着けていた衣服が軽く焦げる臭いだけが周囲に漂っていた。
半ば死にかけたと思い数回頭を振った後、彼は顔を上げ前を視た。
「ニャッニャッニャッ まだまだウェルダンには成りませんかニャッ、青年。」
「成るわけねぇだろっ・・・! 死ぬなんて事、まだ考えてる場合じゃねえんだからな・・・」
「おや、それは少し意外な返答ですニャね。お主はこの地区で、随分とぞんざいでおざなりな扱いを受けているとお見受けしましたがニャ?」
「・・・」
「やれやれ、お主は何だかんだで希望に成れそうで成れそうにない素質の持ち主の様ですニャねー ニャーからすれば、単なるお人よしにしか見えないのニャ。」
そんな彼の近くを、ネコは飛び交うように空中散歩しながら声をかけた。彼の現状をどこまで把握しており、何処から違和感を感じているのかを話すも、ネコの真意は何処にも見えてこない。ましてや相手が素直に何かを求める質問をする事は無く、ただ単に束縛される彼の様子を見て楽しんでいる様にもうかがえた。
周りからの扱いを理解してもなお、彼は何を抱いているのか。
それを知りたいようにも思える、意見であった。
「お主は周りからの蔑視と共に、激しい虐めに合っていたのニャ。担当となったティーチャーズは、そんな現状を打破する術を最初から見出していないかのように、同じ言葉を口にしたのニャ。」
「ッ・・・」
「誰もが後々の未来に罪を押し付け、自分達の解決能力の無さを棚に上げてたニャ。小さい学校、中くらいの学校、高い位の学校、そして・・・今。大きな学校でも、扱いを名義づけられたかのように、存在は同じような扱いしか受けられなかったのニャ。」
「・・・」
「面白いモノで、どんな場所でも目立たない子は目立たないまま。虐められっ子は虐められるだけの人生に、あたかも転落したかのように場が変わっても扱いは同じ。いやはや、ニャーからすれば変化を外部から向ける事自体おかしな行動に想えますニャ。」
初めから決まってしまった運命を知らしめるように、ネコは彼に対し言葉をかけ続けた。すると、徐々にシップスの顔色から正気が薄れ始め、彼もまた思い当たる節がある様子を見せ始めた。
虐められている現状は何処でも変わらず、担当となり味方となってくれていたであろう先生達は同じ言葉で励ましてくれていた。しかし同じ励ましは繰り返し使うごとに効力は薄くなり、段々と彼も信用する事が出来なくなってしまった。
それだけ自身の将来がぞんざいになりかけた今、護るべきものは存在するのだろうか。
生きる希望が薄れかけた彼は、そんな事を考える様に俯きだした。
「お主はそれだけの変化を起こすために、今まで何をしてきたのニャ? 今までと同じような過ごし方を、してきたのではないのですかニャ?」
「クッ・・・」
「変化や改革に対する行動をすると言う事は、それだけの結果を得られると言う事ですニャ。無論それが望むモノかは二の次ですがっ・・・! ニャーはそういう風には視えないのですニャ、狐は。」
終いには『行動』を起こして来たのかと問いかけられてしまい、彼は何も答える事が出来ず、ただ辛い気持ちを閉じ込める様に歯を食いしばっていた。行動そのものに対するリスクを払ったからこそ、得られる結果が存在する世界。彼は今まで行ってきた行動の記憶は、どうやら彼の中には存在して居なかった様だ。
誰かが行った結果に対するモノへの概念は有れど、自身から動く事をしてこなかった。仮に行った時も有れど、それは如何なる条件が揃ったのか、無事に終了した記憶も無い。
自分から行い、それだけの結果を獲ようと行った事が果たしてあったのだろうか。
ネコは軽く疑問視する様に彼を視ていると、不意に相手は動きを見せ出した。
「・・・ 俺だって・・・」
「ニャ?」
「俺だって・・・出来る事なら・・・してぇよ・・・! 変化を起こしてみてえよ!! だけど、解らねえんだよ・・・!! んな授業さえも、一度も行われなかった!! 教わる事すら出来なかった!!! 何が変わるだ、何が上に上がれば周りも大人になるだっ・・・!! 何も変わりはしなかったんだよ!! この地区に居たって、一緒だった!!」
相手からの問いかけに返答しながら、シップスは心の中で抱いた言葉を吐き出した。
どれだけの結果を獲ようと行動しても、根本的な手段が見つからず、どうやったら得られるモノを獲られる道を辿る事が出来るのか。それはどんな教科書にも先生にも教わる事は出来ず、ただ自分のやり方を見出し、それを結果まで紡いで行く事でしか得られないモノがある。彼にはそれが理解する事が出来ず、ただ今までの人生を同じ時間を繰り返す様に、行動を行ってきた。
そんな苦しみを抱いていた事を理解して欲しかったのか、彼はただただ叫んでいた。
「変化や改革を起こすったって・・・! 俺には、策略も戦略もありはしないっ・・・ ただアシュレー達を巻き込んで、我武者羅に行動を起こす事しか・・・出来なかった・・・」
「シップス・・・」
「現に俺がヘマをして、束縛されて焼け焦げの刑だ・・・ ・・・ハハッ、笑っちまうしかねえよ・・・マジで。」
徐々に声量が落ち着き冷静さを取り戻して行く中、シップスは苦笑しながら自身を蔑んだ。支えてくれる仲間を巻き込んでまで行いたかった行動が、たった一回の自分のミスで終わりを迎えようとしている今。自分は一体何がしたかったのだろうかと、彼は後悔の気持ちを抱いていた。
「ん~ それは焼身の刑に処される覚悟が出来た、と言う事ですかニャ?」
「あながち間違いじゃねえな。・・・お前に同意を求めた所で、そう言うのは貰えそうにねえし。・・・いっそ今までの人生を馬鹿にしながら、死んでいくのも悪くねえなって、今思っちまったくらいだ。」
「おぉー 中々潔い選択ですニャ。雄としてのイキザマは、心得ている様で。」
「その分、女には軽く逃げられるけどな。現に妄想くらいしか良い記憶ねえし。」
「おやおや、寂しい人生ですニャね。」
とはいえネコは彼の考えに同意を示す事は無く、ただ単に現状を楽しむ言葉を彼に告げる事しかしなかった。
しかし彼の選択には潔いと思われる『素直さ』が含まれていると、ネコは拙い賛辞を送りながらも怪物に焼身の刑を執行させようと考えていた。現に掴まっている彼は微動だにせず、そのまま焼かれたとしても決して反抗はしてこないだろうと思われた。
そんな彼の様子を見たネコは普段の笑みを浮かべるのを止め、その場に漂いながら彼を見つめていた。その時だ。
「・・・」
「ならば、そのまま焼いてあげた方が半ばいい結果になりそうですニャね。どうするかねぇ~、怪物さん。」
【グォオオッ】
「・・・おやおや、半ば同意しかねる様な返事ですニャ。それならば、ニャーも安心して命令が」
「さっせるかっ・・・!! 馬鹿猫、怪物!! こっち向けやぁあああっ!!」
「ニャ?」
「・・・? アシュレー・・・?」
彼等の居る場へと届く様に、一声が彼等の耳を貫いた。声を耳にした3人は声の主を視る様に顔を向けると、そこには怪物からの攻撃を避け終え、ビルの上に立つアシュレーの姿があった。
「おいコラ馬鹿狐!! 散々巻き込んでおきながら、自分だけ死のうなんて楽な選択肢選んでんじゃねえよっ!! この腰抜け野郎!!」
「・・・」
「俺はお前のやりたい事を優先しているとはいえ、俺の考えが無くて応戦してるわけじゃねえんだよっ!! 俺達は人形かってんだ!! 返事しろ童貞!!」
「なっ・・・! 童貞童貞言うんじゃねえよっ・・・! 好きで童貞街道歩んでるわけじゃねえんだっつーのっ!! 俺だって彼女くらい欲しいからな!?」
「ハッ! 自力で話すどころか、積極的に攻め姿勢見せねえ奴がねえモノねだりかっ・・・? 中二野郎!! 降りて来い!! その根性叩きなおしてやらぁあっ!!」
「彼女持ちにとやかく言われる筋合いもねえっつーの!! 降りれるもんなら降りてっから!!」
正気を失いかけていたシップスに罵声を浴びせながら、アシュレーはその場で叫び続けた。すると次第にいつもの彼が戻ったかのような返事を返し始め、アシュレーは続けて罵倒し、大人しく拘束されるなと意見した。
しかし相手は拘束された状態から抜け出す事が出来ない事を告げると、彼の言葉を聞いたアシュレーは右手に力を込め、握っていた武器の取っ手が折れんばかりの握力で握り、その場を跳びだした。
「ん”な”ら”・・・!!!
堕ちろぉゃぁああああーーーー!!!」
「ゲッ!?」
「にゃにゃあっ!?」
刀を構えたまま跳躍したアシュレーはそのまま跳びかかり、シップスを拘束する怪物の尾を目掛けて切りかかった。丁度攻撃地点の近くに居たネコは殺意に塗れた悪魔の迫力に圧倒され、その場を逃げ出した。
その時だ。
「うらぁぁあああっ!!」
ガシュンッ!!
「ッ・・・! 馬鹿ッアシュレー!! んな事したら、お前も焼け焦げに・・・!!」
「お前が焦されてるってぇのに・・・相棒の俺を、無視してんじゃねえよ・・・ 馬鹿野郎・・・!」
ガシッ!
「!!」
「こんくらいの火傷・・・! 気合で何とでもして・・・やらぁああっ!!」
癇癪と勢いを付けた一撃は見事に狙い定めた一撃と化し、炎を纏った皮膚を切らんばかりの攻撃へと変化した。無論それに対する反撃も掌同様に発生しだし、それを見かねたシップスは慌てて逃げる様指示するも、彼はその言葉に耳を貸す事無く武器から手を離し、囚われていたシップスの身体に両手を伸ばした。そしてそのまま彼の両脇から手を伸ばし背中をガッチリと掴むと、彼はそのまま自身の後方に跳びこむ様に倒れだし、ジャーマンスープレックスをかます勢いで彼を尾から引き抜きだしたのだった。
勢いよく引き抜かれた彼はそのまま締め付ける尾の中から解放され、そのまま地面に向かって落下を開始した。
「アシュレー・・・! お、おいっ! 落ちてるっ・・・!」
「・・・」
『コイツ・・・! ダメージが大きいのに、無茶しやがった・・・!! どうすんだよ、ガチで落ちるからなコレ!!』
無事に助け出されたのも束の間、シップスは落下する自分達を視てアシュレーに作戦はあるのかと問いかけだした。しかし相手は先ほどから浴びていた炎の熱によるダメージが蓄積してしまった様子で、シップスの身体を掴んだまま気を失っていたのだった。
状態が良くない事を察した彼はそれ以上叫ぶ事は止め、慌ててどうするかと考えながら地面に向かって行った。
「おやおやぁ。落下しましたニャ。男2人抱き合って。」
「・・・チッ! これだけは使いたくなかったんだがっ・・・! しゃあねえっ!!」
「ニャ?」
軽くネコが意味深な言葉を口にする中、シップスは覚悟を決めた様子で右手で上着のポケットに手を突っ込み、中から一つの流星石を取り出した。落下しながらも左手でアシュレーをしっかりと掴むと、彼は栓を口にしたまま引き抜き、瓶の中身を地面に向かってぶちまけ、地面に向かって散布した。
すると液体を受けた地面に湿り気がおびた直後、彼等は落下し地面に激突し大けがをする。かと思われた、その時だ。
ぐぉおおーーーんっ・・・
「おぉ~ コレはコレは、『曲力』を使ってきますとはニャ。」
「ヘッ、ざまあねえなぁ! こんくらい出来んだよっ!」
「ニャニャッ 気合が有ると無いとでは、お主は随分と輝き方が違いますニャね。 面白いのニャ。」
彼等が激突した地面が形成する足場の安定性を失い、底なし沼のように大きく曲がり、彼等の身体に来るであろう衝撃を全て飲み込んでしまったのだった。無論その衝撃によって地面が大きく凹んだものの、徐々に液体が乾き出し、元の形状へと戻るように地面は平行になろうと、自ら動き出していた。
「とはいえ、相棒は少々ダメージを負いすぎた感は有りますニャね。」
「まーな。 ・・・俺が自信喪失した姿は、コイツも気に入らなかったんだろ。ネコ、その怪物はまだ消えないのか。」
「ん~ まだまだ消える様子は無いですニャ。もっとも~、生まれた存在は早々に消される事は望んでいませんのニャ。」
「・・・ッたく、そう言うところだけは小説地味みてるよな。まぁいいけどな、その方がおもしれえし。」
「ニャニャッ」
元の地面へと戻った地面にアシュレーを寝かせると、彼は一歩前へと踏みだし、再び怪物を倒そうと意気込みを述べた。彼の言葉に反応する様にネコは軽く返事を返すと、再び怪物のそばから離れ、近くのビルへと降り立ち彼の戦いを観戦する様子を見せだした。元より戦う意志を見せないネコを狙うのを止め、彼は上着のポケットから流星石を取り出し、臨戦態勢を取りこう告げた。
「・・・次は負けねえからな、ネコ・・・! 絶対そいつの、首を捕る!!」
「にゃーんっ」
誰かに頼る事ばかりせず、自らが改革に乗り出したい。そんな彼の、潔い一声が周囲に響くのだった。




