彼が目指した光 2
「おいおいおい・・・! なんだよアレ!?」
雪の降り積もった街中に突如現れた、燃え盛る業火を纏った巨大な怪物。深夜と言う事もあり静けさに包まれていた街を、怪物は轟く鳴き声を上げ、周囲の人々を叩き起こしだす。声に反応して、徐々に街中に声が響き出していた。
「何なんだよ、あの怪物は!!」
「わ、解らないけど火事よっ!! 早く逃げなきゃっ!!」
「逃げるって何処へだよ!?」
微かに聞き取れるか聞き取れないかの遠い存在達の話し声が、シップス達にはノイズの様に聞こえだす。周囲に住む生徒達が避難する中、シップス達は立ちすくみ相手を見る事しか出来ずにいた。
「ニャーッニャッニャッニャッ! どうニャッ! これぞ地区から春の時間を亡くし、生れた豪炎のモンスターなのニャッ!!」
「・・・!? おいこらネコ!! 地区から春を奪ったってどういうことだっ!!」
敵を呼び出したネコの発言を聞き、シップスは聞き捨てならない単語に対し意見した。彼等の住む地区には確かに『春』と呼べる時間は無く、まるで『時間が止まってしまった』かのような冬の環境が続いていた。日に日に増しているであろうと思われる苛めの波もさることながら、彼は時間が流れる事を望んでいた。
だからこそ、気に食わない発言だったのだ。
「ニャに、この地区には春がくれば巣立つ輩が多いのニャ。巣立った所でどうするぅ、社会人かニャ?」
「そりゃぁ・・・ 俺等は大人になったら、そうなるだろ。いずれ。」
「大人は汚れてるのニャに、良く望む奴等ニャ。春が欲しいなら、このモンスターを倒せば良いニャ。ちゃーんと春がやってくるのニャ~」
「何っ 本当か!?」
「ニャーは嘘はつかんニャ。」
徐々に彼等の居る場へと近づき鳴き声を上げる怪物を見ながら、ネコはシップスの反論を流しながら質問を投げかけた。
彼等は確かに学生であり、いずれその枠組みから外れた『大人』と呼べる『社会人』に成って行く。だがそれは嬉しい事と共に苦しい事の始まりを意味しており、今まで通用していた事が全て覆されかねない環境へと投げ出される事も意味していた。存在によっては自らが望んだ事とは違う仕事を行わされ、場合によっては彼の様に解りきらない圧力による虐めも、ゼロではないのだ。
隣の芝生が青く見える様に、学生は大人を羨み、大人は学生の時間を羨むのかもしれない。それを彼等は知らないと、ネコはそれとなく彼等に言うのだった。
「まぁ春を望むのニャら、確かにニャーは止めんにゃ。・・・でもニャ、お主等。おミャー等は確かにニャーに言ったはずニャ。」
「ぇ・・・?」
「『子供のまま、楽して過ごしたい』とニャ。アンケートに迂闊な事は書かん方が良いニャ、実現されたオチはちゃーんと支払わないといけないからニャ。」
「なっ!!! 俺が悪いって言いたいのか!? 汚ねぇぞ!!」
自身は頼まれた事を忠実に再現したと言いだし、軽くアンケートにその事を書き込んだ相手に一言告げた。その言葉を聞いたシップスは激怒し、自分が悪いのかとネコに問いかけた。
確かに彼は、あの日の夜の最後のアンケートにその言葉を書き記した記憶はある。だが実際に虐めがあったのは昔の事であり、彼等の居る地区に来た時からではない。しかし現に時間だけが止まったままに感じられる毎日は事実の為、考え直すと彼が書いた言葉でその事実が確定したと言っても過言ではないのだ。
軽く自分の失態を気づかないフリをしつつ、シップスは毒づきながらもネコを睨んだ。
「良く回る口だニャ。それでどーんなに多くの輩が傷ついて来たのか、おミャー等には解ってない様だにぃ。」
「・・・」
「ま、責任は炙られてするのニャ。行けぃっ! 豪炎モンスター!!」
【ゴォォオオオオオーーー!!!】
そんな彼等の態度を尻目に、ネコは指揮を取る様に現れた怪物に命令を下した。すると怪物は声に反応し鳴き声を発し、再び彼等の元に熱風を帯びた音波が襲い掛かった。幸いにも火傷するほどの威力では無かったため無傷に等しいものの、彼等の足元にあった雪達は姿を消していた。
咆哮だけで軽い威力を目の当たりにされたアシュレー達は、流星石を握ったまま軽く対峙する様子を見せた。だが相手は巨大な怪物であり、下手をすれば触れるだけで自分達が怪我をする事が目に見えて仕方がない。雪が瞬時に蒸発してしまうほどの相手に近づける保証も無く、彼等はどうする事も出来ずに居た。
その時だ。
「炙られてたまるかっつーの・・・!!」
「・・・? シップス?」
彼等の行動を見ずに呟いたシップスが、彼等の前に立つ様に移動しだした。彼の行動を見たアシュレーが呟き混じりに彼の名前を呼ぶと、彼の両手には形状を変化させた彼の流星石【小乱剣銃】が姿を現した。
短銃の銃身に鋭い剣刃が付いた彼の流星石は、その場に幾多も生成する事が可能であり、近接と共に遠距離戦闘もこなせる優れものだ。だが威力そのものは低く、回数で威力を重ねるタイプの物だった。
「おらアシュレー!! さっさと倒して卒業すっぞ!! 冬なんて御免だ、面倒だ!! 俺等はちゃんと旅立つんだ!!! こんな世の中・・・! 俺は嫌なんだぁああ!!!」
「!! ・・・あぁ、分かった!!」
彼の心の叫びと思われる雄叫びを聞いたアシュレーは、彼の言葉に反応する様に流星石【中途製剣】の詮を引き抜いた。すると彼の手元に刀身が比較的長い剣が形成され、彼もまたシップス同様に接近戦を行う態勢を示した。
アシュレーが自身の隣に並んだのを視ると、シップスは歯を見せる様に元気な笑顔を見せ、戦闘態勢に移った。
「おぉ、確かお主は悪魔じゃなかったかニャ? 改革をするとは驚きなのニャ。ましてや隣は狐子3匹、割に合わんニャろ。」
「悪魔とか天使とか、別に知らねぇよ。改革を悪魔がする事じゃないって・・・誰が、決めたんだ!! 俺はやるって決めたらそうするだけだ! そうだろ、ライト! ソニルス!」
「ぇっ? ・・・ぉ、おうっ! ガキ扱いはこれ以上されてたまるか! 俺の幸せは、俺が何とかして創るんだからな!」
「ま、ソニルスはそんなんだしな。俺も否定しない、やってやる!」
ネコの発言に対しアシュレーがそう叫ぶと、後方で目覚めかけていたソニルスが寝起きの様な声で賛同した。彼を支えていたライトも同様に言葉を告げると、ソニルスを支えながら立ち上がらせ、共に自分達が使用する流星石を手にし出した。
既に彼等の心は1つになった様子で、4人全員が怪物を倒す意志を見せた。
「ん~ 響きが好きなのニャ。じゃ、このモンスターはちゃーんと倒すのニャよ。そしたら、ちゃーんと破棄してやるのニャ。」
「「上等だぁあ!! この化け猫っ!!」」
ネコの一言を聞き、その場に居た4人は声を揃えて叫んだ。それを聞いたネコは軽く笑みを浮かべ、とても嬉しそうにモンスターに襲い掛かるように指示を出した。すると、再び声を上げた怪物は前進を開始し、彼等に対し襲い掛かって行った。




