安定と変化の違い 2
次の日。
再びやって来た朝日と共に朝食を済ませ、彼は講義の時間に合わせて1人、学校へと赴いていた。同居人であるアシュレーはその日の講義が無いため、彼が代理で2つの封筒をポストへと投函した。
「・・・うし、投函っと。 これで講義分のポイント、ゲットだな。」
校内に置かれた古めかしいポストの中に封筒を入れ、彼は軽くほくそ笑んでいた。元々彼の通う学校には変わった講義が多く、出席によるポイント獲得とは違った物も数多く存在する。今回の封筒に関しても同様であり、基本的に出席をしない講義として有名なのだ。
ちなみにその講義に対する評価はと言うと、良くもあれば悪くもあると、五分五分であった。
『・・・そう言えば、今日はやけに雲が多いな。また雪降るのか・・・』
校内から外を眺めながら、彼は廊下を歩き講義の行われる部屋へと向かって行った。
「っと。さーて、筆記用具筆記用具。」
目的の部屋へと到着すると、彼は手近な席へと着席し、背負っていたリュックサックからノート一式を取り出した。今回の講義は『心理学』であり、まだ生徒の姿は無い。
ガサガサガサ・・・
「ん、あったあった。後はふでば・・・ ・・・あれ。」
そんな彼が筆箱を取り出そうとしたその時、荷物の奥に見慣れない物がある事に気が付いた。中に入っていた物、それはつい先ほど投函したはずの物とよく似た、手紙だった。
『あれ、こんなの入ってたっけ。』
不審に思いつつも彼は手紙に手をかけ、荷物の中から取り出した。差出人は特に書かれておらず、裏には焼印と思われるスタンプの跡が残っていた。
手紙を手にした彼は静かに封を切り、入っていた便箋の内容を目にした。そこには新聞の文字を切り抜きをしたと思われる紙と、文章が書かれていた。
【明日 決着 付ケル 支度 シテオケ】
『・・・何の決着だよ。ってか、支度って何??』
しかし送られた相手であるシップスには意味が理解出来ず、首を傾げながら中身を手紙へ戻し、数回折り曲げた後近くのゴミ箱の中へと落とした。差出人も文章の意味すら掴めない手紙と言うのは、中々ミステリアスな品物だ。ましてや新聞の切り抜きで構成された物ともなれば、もはや『脅迫状』のレベル。
平穏などない。
『決着、決着・・・ ・・・何かゲームの大会とかあったっけ。』
再び荷物の置いた席へと着席した後、彼は手紙の意味を考えながら、講義の開始を待っていた。その時だ。
バンッ!!
「ん?」
「い、居たっ・・・! シップス!!」
彼の居た講義部屋の扉が勢いよく開き、反動による壁との激突音が周囲に響いた。音を耳にした彼が扉の先を視ると、そこには息を切らしながら自身の元へと近づくライトの姿があった。
慌てながら欠相を抱えている所を視ると、こちらも平穏ではない。
「ライト? お前今日は別の講義じゃ」
「ソニルス知らないか!? 今朝から居ないんだっ!!」
「ない・・・ はぁ!?」
その場に来るはずのないライトに質問をしたのも束の間。彼は単刀直入に要件を伝え、探している相手が何処に居るか知らないかと問いただしたのだ。その声を聞いたシップスは仰天しながらもライトの手を掴み、荷物を置いたまま廊下へと向かって行った。
「おい、どういう事だよ。 ソニルスが居ないって。」
「昨夜夕飯を食べた後、俺達はいつも通り寮で寝てたんだ。いつも俺が電気を消す当番だから、アイツが布団に入ったのを確認してから消すんだけど・・・ 今朝起きたら、居なかったんだ! 連絡もない!」
「居ないって、そう言う事かよ。外食じゃねえの?」
「もうお昼だぞ!?」
「ま、まぁそうだけどさ・・・」
廊下へと跳び出したシップスはライトに事情を聴くも、あまり一大事とは思えない様子で適当な仮説を彼に与えてみた。しかしその仮説は簡単に突っぱねられてしまい、現に朝から居ないともなれば落ち着かない、現在の時刻はお昼過ぎ。
確かに留守ともなれば、少々心配になるかもしれない時間帯だ。
「とにかく落ち着けよ。まずはえーっと・・・捜索願い? でも出しとくか?」
「学校側が探し出したとしても、この地区広いんだぞ。早く見つけてやらないと、アイツ寒がりだし・・・」
「外に居るって決まってねぇだろうに・・・まぁ、しゃあない。行きそうな場所、教えな。俺も探すよ。」
「ぇっ、でも講義・・・」
「んなもんサボりだよ、サボり。数少ない友人が困ってるんだったら、俺だってやれる事くらいさせろよ。周りの害虫からの捜索願だったら、平然と突っぱねるけどな。馬鹿馬鹿しいし。」
「・・・」
とはいえ頬っておく事も出来ない様子で、彼は一言そう告げ荷物を取りに戻ろうとした。そんな彼を見たライトは困りながら彼に言うも、相手の意志が固い事を知りそれ以上の事は言わなかった。
【数少ない友人が困っているなら、やれる事をやりたい】
考える事が苦手な彼らしい、実に正直な考え方であった。その後荷物を持って戻って来た彼に続き、ライトは歩きながらこう言った。
「ありがとう、シップス。」
「ん、ぉう。」
その言葉に対し、シップスは少し照れながら外へと出て行った。
外へと跳び出した彼等は、二手に別れながら地区内の捜索を始めた。商店街方面へと向かったシップスと、住宅街方面へと向かったライト。彼等から連絡を受けたアシュレーも別で行動してくれることが決まり、計3人でのソニルス捜索活動が開始された。
時刻は昼過ぎの、少々肌寒い曇天の中での捜索だった。
「ソニルスー 何処だーっ」
「おーいっ、ソニルスー!」
「ソニルスぅーっ!!」
それぞれが近くの場をくまなく探し、たった1人の青年の事を探し続けた。顔見知りの相手には情報を求めて聞き込み調査をするも、中々良い手がかりを彼等は掴めずにいた。
時間だけが刻一刻と過ぎて行き、気が付けば夕方を越え、夜になろうとしていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ マジで居ねぇな、ソニルスの奴・・・」
「何処行っちゃったんだろ・・・ 連絡、マジでないし・・・」
「だな・・・」
息切れしつつも彼等は呼吸を整え、一度合流した三人は暑そうに服を掴み、脱げる範囲で上着を脱いでいた。空を見上げるとチラつき出した雪が曇天から舞い降りだし、既に夜を迎えていた。
周囲の明かりが無ければ、彼等の表情すら確認できない程に暗い時間だ。
そんな時、
ガサッ、ガサッ・・・
「あら、貴方達。こんな寒空の下、なんて寒そうな格好してるの。」
「?」
そんな彼等の元に、1つの人影が近くへと歩み寄って来た。誰かと思い彼等が目線を送ると、そこには緑色の傘を差した亀の女性が立っていた。手にはビニール袋が持たれており、買い物帰りと見受けられる光景だ。
「男3人が揃って薄着なんて、ちょっと危ないわよ。貴方達。」
「そ、そんなんじゃねぇしっ! 人捜ししてたら、暑くなったから脱いだだけだっ!」
「人捜し?」
軽く動揺しながら上着を着ようとするライトの発言を聞いて、彼女は首を傾げながらその様子を見ていた。
彼等の息が白くなるほどに寒い場所であれば、確かに薄着で居るのは中々の場違いとも言えよう。普通に考えれば、暑くてもある程度の抑えをするべきだと思ったのだろう。目線はあまり、よろしくない物が向けられている。
「コイツの連れの、男の狐。知らないか。」
「ふーん、そう。貴方達『アレ』を探してたのね。」
「えっ?」
そんな彼女を視ながら、アシュレーは自分達が何をしていたのかを軽く説明した。連れの友人が行方不明になり、地区内をくまなく探していた事。走り回っていたがゆえに身体が暑くなり、不審に思われる行動を数人が捕って居た事を話した。
すると、それを聞いた彼女は不意にこう言いだしたのた。
「何て言ったかしらね・・・ ・・・そうそう。ソニルスだったかしら?」
「ソニルス・・・!!」
彼女の言った名前を聞いて、3人は驚愕を露わにしていた。




