苦しさと楽しさ 4
ゲームセンターへと来店したアシュレーは荷物を片手に、店頭で上映されていたであろう操作主を探した。幸いにも中継されていたゲーム機種が『カートレース』と言う事もあってか、彼は比較的探しやすい様子でシート付きの機種を探していた。
UFOキャッチャーの奥に置かれていたその機械の近くから、聞きなれた声が聞こえてくる。
「・・・っ! よっ、ほっ!! うぉおおおーーー!!!」
『やっぱりか・・・』
声の主が熱中している様子を見て、アシュレーはため息交じりに彼の背後へと近寄った。しかし相手はプレイに夢中になっており、心なしかハンドルさばきも慣れ、さながら子供の様な無邪気な笑顔を浮かべていた。
寮生活ではあまり見る事のない、彼の新鮮な笑顔。そんな彼を見たアシュレーは仕方なくゲームが終わるのを後ろで見届け、終わってから声をかけようと心に決めるのだった。
『本当、レースゲームっつーか。 こういう勝負物のゲームが大好きだよなぁ、シップスは。』
「・・・っしゃああ! 一位!!! んでもってコースレコードッ!!」
しばらく車のドリフトシーンを楽しんでいたその時、見事に勝利したシップスは大声で歓声を上げだした。先ほどまでハンドルを握っていた右手は、気が付けば拳を握り腰の横へと付いており、相当嬉しかったのが視て解った。
本当に、大好きなのであろうと思う光景だった。
「おい。」
「さーってっと、次はー」
「おーい、シップス。」
「んあ? おぉ、アシュレー! どうだ、お前もやるかっ??」
ゲームが終了したのを見届け、アシュレーは彼の後方から声をかけた。しかし1回目の声は高まる楽しさに掻き消されてしまい、二度目でようやく返事を貰えていた。振り返ったシップスを視ると、これまた無邪気な笑顔を浮かべており、相当嬉しい結果が出たのだろう。
一緒に遊ぼうと言い出す始末であった。
「お前、何こんなところで道草食ってんだよ。」
「道草じゃねえって。 新規台入るって言ってたの、今日だから試運転だよ。 試運転。」
「んなこと聞いてねえって・・・ ってかお前、今日夕飯当番だろ? 飯作らなくていいのか?」
「え?」
とはいえ先ほどまでのプレイを視たアシュレーからすれば、これ以上プレイする事はあまり好ましくは無い様だ。理由はすぐに解るほどの事であったのか、彼はシップスに時計を視る様促し、何時であるかを確認させた。
そんな相手の声を聞いた彼は時刻を確認すると、時刻は午後6時過ぎを示していた。
「ゲッ!! もうこんな時間か!?」
「お前・・・何時からココに居たんだよ・・・」
「えーっと、確か・・・ ・・・講義終わったのが昼後のだから・・・ 4時間?」
「アホ。」
ベシッ
相当楽しかったのが解るほど、彼は気付かぬうちに資金をつぎ込んでしまっていた様だ。楽しさと裏腹の軽い手刀を受け、シップスは仕方なくゲームを終える事を決めた。
「ほら、さっさと買い物行ってこい。 いつもの店は閉まるの早えんだから。」
「へーい。」
半ば追い出される勢いでシップスは店を後にし、日が暮れた街を駆け足で飛び出して行った。そんな彼の後姿を見送りつつ、アシュレーは溜息を1つし、マンションへと戻って行った。
ゲームセンターを後にし、急いで夕飯の買い出しへと向かったシップス。しかし目的地の店に到着するも、すでにシャッターは降り買い物が出来ない状態に陥っていた。
「・・・ゲェ、閉まってやがる・・・」
時刻は18時20分を示しており、店にしては中々早い閉店時間だ。だが基本的にこの地区に住む学生達は地元で買い物をする事は少なく、何でも買い揃える事の出来る別地区のデパートに赴く事が大半だ。先ほどのストリートにもお店は幾多存在するが、食品となると外食がメインとなってしまうのだ。
ゆえに、この地区では基本的に『自炊道具』は売れないらしい。
『・・・しゃあねぇ、コンビニ行くか。 ココのコンビニ高ぇから、あんま行きたくねえんだけどな・・・』
降りてしまったシャッターを開ける術もなく、彼は仕方なく別の場所にあるコンビニへと向かう事を決意した。だがそこは目の前に立つ店ほど安価な商品は無く、自炊で節約出来る資金のほとんどを、持っていくと言っても過言ではない場所なのであった。
ピロロンポロロン~♪
「いーらっしゃいませぇ~」
予定変更し彼がやって来たのは、彼等の住むマンションから一番近いコンビニエンスストア。近所で帰り道が楽な場所はここしかなく、丁度顔見知りの存在が居ない絶好のタイミングで来店する事が出来た。
逆を言ってしまえば、ピーク時の影響で品数が薄いと言う事だ。
『くっそー・・・ また金が減る・・・』
渋々店に入ると、シップスは入口に置かれていたカゴを手にし、2人分の夕食となる食材を探し出した。手軽なスナック菓子に飲み物を手にし、彼は歩きながらカゴへと入れ、商品を見定めて行く。
幸い普段後ろからやってくる嫌な視線が刺さる事が無かったため、彼はすんなり弁当エリアへと向かって行くことが出来た。だが、個々で計算外の光景を目の当たりにする事になった。
「・・・ あれ。」
彼の目的の品があるであろう棚を視ると、何と商品が何ひとつ無かったのだ。普通のコンビニに置かれているであろうおにぎりやら弁当やらが置かれている棚は、綺麗サッパリ白い台のみを見せている。入荷する時間は深夜となっており、これでは夕飯以前の問題である。
「マジかぁ・・・ 品切れかよ。」
肝心な主食を手に入れる事が出来ず、シップスは残念そうに文句を垂れていた。半ば口癖になっているが、今は気にしない。
「ぁ~ゴメンニャ。 さっき大量に売れちゃったから、もう無いのニャ。」
「クッ・・・ 結局飯抜きかよ。」
店番をしていた小さな店員から追い打ちの言葉も貰い、再び彼は渋い顔をしていた。主食無しの夕飯は腹に溜まりにくく、なおかつ量を買わなければならないためコストがかかる。
学生には手痛い出費であった。
「何か代わりになるものはっと・・・ ・・・ぁ。」
仕方なく代用品を探していると、不意に彼の目にある物が映った。それはパック詰めで売られている『卵』であり、スーパーよりは高いものの10入りのシンプルな物。棚に陳列されていた卵を見ると、シップスはカゴに目を移しある事を思いついた。
『そうだ。 前に何かで【オムレツもどき】みたいなのやってたな、スナック菓子で作る奴。 ・・・これなら腹に溜まるか。』
彼が思いついたこと、それは焼いた卵のボリュームをかさ増しし、主食に近づける事だった。仮に冷蔵庫に何も入ってなかったとしても、思い出した方法であれば大皿2枚は軽く作れる。そう思い立った彼は卵をカゴに居れ、そのままレジへと向かって行った。
『これなら、弁当買うよりも安いぜっ!』
内心満足そうな笑みを浮かべつつ、彼は代金を支払い商品を受け取った。
「ぁ~りがとうごっざいましたぁ~」
店員からの送り文句を聞き届けながら、シップスはご機嫌でその店を後にした。
『・・・なーんか俺忘れてる気もするけど・・・ まぁいっか。 ってか。』
「いーらっしゃいませぇ~ ビールあっためまっかぁ~」
「え・・・!?」
『・・・ 変な店員。』
背後から聞こえる妙な接客台詞に違和感を覚えつつ、彼はマンションへと戻って行くのであった。




