苦しさと楽しさ 3
「さーってっと、長居も無用で帰っかな~」
校内でソニルス達と別れたシップスは、1人のんびりと帰路へ向かう事を決めていた。長居するほど楽しい空間だとは彼は認識していないため、あまり長居する事は望んでいない様だ。
講義を受け、学び、それが終われば特に用の無い場所なのであった。
「えーっと、確か今日は俺が飯当番の日だったな。 夕飯何にしよう。」
帰路へと向かう道中、彼は1人雪解けした道をてくてくと歩いていた。その足はまっすぐ借家へと向かうわけでは無く、彼の行く先には別の場所へと向けられていた。
彼が向かった場所、それは区内にある大きな商店街『ストリート』
商店街の双方入口には大きなアーチが来店者を出迎え、入場したと同時に店からの威勢のいい掛け声が四方八方飛んでくる。区内に住む学生達はその場で必要な備品を購入したり、昼食や夕食を頂いたりと、さまざまな利用方法がある。彼もまたその場所には多い頻度で足を運んでおり、名前は知らないが顔馴染みの店員と軽く挨拶を交わす光景もあった。
「・・・炒飯は前に作ったし、回鍋肉って言うのも悪くねえな。 ぁ、蟹玉とかも旨そう。」
そんな彼が空想に拭けている中、目に映った物を見て夕飯の献立を考えていた。彼が立ち止まったのは商店街にある中華飯店であり、入口にはメニュー表と大きなポスターが張られていた。
現在を行っているらしく、ポスターの至る所にデフォルトした海老達が来店者を出迎えていた。とはいえ、あまり好みでは無かった様子で彼は早々にその場を去り、献立を考えていた。
その時だ。
『そういや今日って、いつも通ってるゲーセンの新規台導入日じゃなかったっけ。 ・・・』
ふと思考回路が献立から別の方向へとシフトし、彼はある予定日が本日ではないかと思い出していた。
この商店街の一角にあるゲームセンターは彼も足蹴なく通っており、区内の学生達の溜まり場としても人気の場所。他の備品とは違い自腹で有料の施設のため毎日は通えないものの、それでも娯楽施設としては繁盛しているためか、良く学生がたむろしている光景が目に入る場所だった。そんな娯楽施設の新規台導入日が、どうやら今日の様だ。
『ん、ちょい時間あるし遊んで行くか。』
所有していた携帯電話で時刻を確認した後、彼は進路を変え商店街を歩いて行った。
「えーっと・・・ ・・・ぁっ、あったあった。」
娯楽施設へと到着した彼は即座に入店し、賑やかしい機械達の音を尻目に目的の物を探し出した。入り口周辺に置かれたUFOキャッチャーには彼の好きな動物のキャラクター達のぬいぐるみが入れられており、別の場所にはアニメとコラボした時計やグッツが置かれていた。また別の場所には音楽ゲームと思われる機材も置かれており、どの場所を見ても楽しげな機械達が学生達を楽しませていた。足を運んでいない2階にはスロット台やアーケードゲームもあり、どんなニーズにも応えられそうな場所である。
そんな施設内の景品を適度に黙視しながら向かった場所に、彼のお目当ての機材が置かれていた。置かれていたのはハンドルを握るタイプのレースゲームであり、画面の上には大きく【真夜中スピーディコースト5】と書かれていた。軽く彼が画面を視つつ手荷物を籠の中へと入れると、画面が切り替わりデモプレイ映像が映し出され、操作方法が簡単ではあるが説明してくれていた。
「操作は大体前の機種と同じだな。 うっしっ、腕が鳴るぜっ!」
その後軽く両手を振り適度に動ける状態へと変え、彼は手にしたコインを機械の中に投入し、ゲームを開始した。
今日から導入されたこのレースゲームは、好きな車種をマシンとして、軽くチューニングしたものを操作するシンプルな代物だ。メンバーズカードを使用すれば好きなパーツやカラーリングに変える事も出来るため、車の運転が大好きな彼にはとても楽しいゲームの様だ。その様子はプレイ前の今の状態を見ても解るほどに、表情は明るく、尻尾は左右に揺れ、とても楽しそうであった。
「・・・へぇー、車体は大体一緒か。 ・・・おっ、こんなの導入されたのかっ! んじゃこれにしよっと。」
車種を選ぶ画面へと切り替わった彼は品定めをしつつ、ある特定の車を見て意外そうな反応を見せていた。彼が選んだのは紺色の『ヴィジッツ』という車であり、性能は比較的シンプルではあるが速さもあり、ハンドルさばきが要求されるマシンだ。
プレイ時間がそこそこ長い彼にとって、癖があれど楽しめそうな物だと判断した様だ。
「エリアは・・・ まぁ、中級者レベルかな。 初回だし。」
その後適当なエリアを選択した後、彼はハンドルを握り直し、気合を入れ今か今かとスタート合図を待っていた。
一方、その頃・・・
「やっべっ、大分帰るの遅くなっちったな。 シップスの奴、飯作って待ってるだろうなー・・・」
シップスとは別行動を取っていたアシュレーは、彼よりも1つ多めの講義を終え、帰路へと向かう所だった。時刻はすでに夕方を示しており、まだまだ寒い今の時期ではあっという間に暗闇の時間へと変わるであろう時間だった。
今朝の朝食当番を彼が請け負ったため、夕食当番となったシップスに怒鳴られないかと軽く困っている様だ。とは言っても激怒するわけでは無く、単純に冷めた飯を提供されるだけと言っても、間違いではない。手の込んだモノであれば、なおさらだ。
『・・・ぁ、そうだ。 そういや今日って新刊の発売日だったな。 本屋だけ寄って行こっと。』
しかしシップスと同じく直帰する事をする様子は無く、彼もまた商店街である『ストリート』へと向かって駆けて行った。
最近彼が好んで読んでいる本の新刊が本日発売日だったらしく、彼は一角にある少し小さめの本屋へと入って行った。そこは古本屋も兼ねた書店であり、新書とは別の棚に幾多の古本が格安で売られていた。
時折謎めいた本も見つかる事から、ちょっとしたスポットとしても人気の場所である。
『ぇーっと、新刊新刊・・・ ・・・ぁっ、あったあった。』
本屋へと入るや否や、アシュレーは早々にお目当ての品があるであろう新刊スペースへと向かって行った。店内の一角にある漫画と雑誌のスペース前に用意されたその場所には、その日やその週が発売日となる新品の本達が積み上げられている。グッツ付きの雑誌を初めとした幾多の作品が置かれており、モノによっては宣伝文句のつけられたポップ板まで用意されている物もある。彼の求めていた新刊も、書店お墨付の宣伝付き作品だった。
彼が手に取った作品にはカラーイラストで描かれた金髪の青年の絵が描かれており、凛々しい顔立ちと共にどこか優しさを感じるタッチの絵だった。
「四神夏菊先生・新作『鏡映した現実の風、初花咲いた戦果の叙景』・・・ へぇ、今回は別話の新しい作品なんだ。 うしっ、買っていこっと。」
お目当ての代物を見つけた様子で、彼は意気揚々と財布を取り出しレジへと向かって行った。
その後購入した品を袋に入れてもらい、店を後にした。
「さーってっと、買う物買ったし飯食いに家帰ろっと。 ・・・ん?」
夕刻が着々と終わりを告げだすその時、彼はある光景を目にした。彼の視線の先にはシップスが通っている娯楽施設のデモ映像が映し出されており、そこには店内でプレイ中のユーザーの映像が映し出されていた。メンバーズカードに登録している人限定のサービスであり、デモ映像として公開登録したプレイヤーのプレイ動画が映し出されるのだ。
そこに映し出されていた映像の下に書かれていた名前に、彼は違和感を覚えたのだ。
『・・・おいおい、あれってまさか・・・』
映像の下に書かれていた名前を視たアシュレーは、嫌な予感を感じながらも店の中へと入っていった。




