018 エルフ
エトールさんは驚くべき身のこなしでハイオークを殴りつける。
一発一発がハイオークの身体を確実に破壊し、辺りには紫色の血が舞った。
「あれは、エルフ……? そうか、エトールが……」
エトールさんを見たウッドセン村長が呟く。
耳長族達にもざわめきが広がっている。
「クソッ! 豚共の話では、この村にエルフはいなかったはず……。騎士に魔法使い、さらに弓使いまで合流されてはこの戦力では……」
ヴェステリテめ、まだ生きていたのか。
かなりいいのが入ったはずだが、しぶとい奴だ。
「オーク共! 全軍突撃せよ!」
「「「フゴオオオオオオオ」」」
号令をかけると、ヴェステリテは後方へと消えていった。
俺へ向かって、オークの大群が突進してくる。
ここでヤツを逃してしまってはマズイ。
「タツヤっ! 深追いは止めなさい! オークを処理するのよっ! このままだと耳長族の村がっ!」
「わかりましたっ!」
ヴェステリテを追おうとした俺を、先輩が止める。
ヤツを逃すのは勿体無いが、耳長族のことを考えれば当然の判断だろう。
迫りくるオーク達を殲滅する。
ヴェステリテ用に強化したステータスのおかげで、あっという間に大群はその数を減らしていった。
「爆ぜろ。【火炎爆裂】!」
「オオオオ……オオ……」
先輩の火炎爆裂がハイオークにヒットするが、効いていないようだ。
エトールさんは終始ハイオークを圧倒していたはずだが、その顔には脂汗が浮かんでいる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、こ、こいつめ……」
「エ、エトールさんっ! アンタ尋常じゃない汗よっ!? 大丈夫っ!?」
「だ、大丈夫です! この……くらい」
どうみても大丈夫じゃない。
振り下ろされるハイオークの拳を受け止めるエトールさんだが、今にも潰れてしまいそうだ。
銀色のオーラも弱々しく、その光は今にも消えてしまいそうだった。
「兄さんっ! その力を使ってはダメ! 兄さんの身体が! タツヤさん、兄さんを助けて!」
村から走ってきたのだろう。エストさんが駆けつける。
言われなくても、あれは助けないとヤバイ。
ハイオーク目掛けてスキルを発動させる。
「|超・シールド・バッシュ《ぶちかまし》!」
「オオオッ!?」
ドゴンと衝撃が走り、ハイオークが倒れ込む。
俺はオークの首へと飛び移り、その顔へ棍棒を浴びせた。
「超・一閃! 超・一閃! 超・一閃! 」
怒涛のフルスイングを三連発だ。
ハイオークの頭は原型をなくし、ぐちゃぐちゃの肉塊へと変貌していた。
その様子を見たオーク達は、我先にと敗走を始めている。
残ったオークも先輩と殲滅した。
なんとか耳長族の村を守れたようだ。
エトールさんはぐったりとして、エストさんの膝枕で横になっている。
「エトールさんがエルフだったとわねっ! 話っていうのは、このことかしら?」
「そ、そうです……。わ、私が当代の、エルフです」
「お兄ちゃん! しゃべらないで! 私が説明するから!」
エルフエルフって、禁句じゃなかったんだろうか。
こうなったら聞いてしまおう。
「先輩、エルフってのは何なんですか?」
「エルフはエルフよ。永遠に近い時を生き、その体は強靭で、高い魔力と叡智を備えた森の賢者。ただ、その多くは魔王によって滅ぼされてしまったの」
「滅ぼされた?」
「ここからは、私が説明しましょう」
名乗りを上げたのはウッドセン村長だった。
「我々耳長族は、正確に言えばエルフが異種族と交配して生まれた存在。つまりはハーフエルフなのです。エルフ達からは忌み嫌われ、差別の対象でした。しかし、そんな我々を魔王は見逃してくれなかった。エルフを滅ぼした後は、我々が狙われました。種族を存続するには、強力な戦士が必要だったのです」
耳長族はハーフエルフなのか。
エルフを滅ぼしたのち、魔王に狙われていたと。
「我々耳長族は全員で一人に魔力を注ぎ、擬似的なエルフを生み出すことにしました。一人一人の力は弱くとも、力を束ねた一騎当千の強者を魔王軍への盾とすることで生きながらえてきたのです」
ウッドセン村長がチラリとエトールさんへ視線を送る。
「エルフに選ばれたものは、死ぬまで闘うことを義務付けられます。それ故、エルフが死ぬと、耳長族の一人へ偶発的に魔力が移るようになっておりました。しかし、まさかそれがエトールだったとは……」
「お兄ちゃんは、昔に私を魔物から庇って……そのせいで……」
エトールさんは無言でシャツをまくり、お腹を見せる。
見るのも痛ましい古傷がそこにあった。
腹部が抉れ、半分が失くなっている。
「レミー様との契約は、封印の指輪モデル:弓術士を使用する耳長族の戦士、エルフを一人魔王討伐に参加させること。しかし、この傷では……。エトールから魔力を移す他ありません……」
「お願いします! 私がなんでもしますからっ! お兄ちゃんを殺さないでっ!」
エストさんがエトールさんを庇うように、エトールさんの頭を抱えこんだ。
「いいんだ、エスト。そもそもこの傷で生き残れたことが、奇跡だったんだ」
エトールさんを殺して魔力を移す?
本当にそんなことが必要なのか。
どうしてもエルフが必要なんだろうか。
重くるしい空気をぶち破ったのは、先輩の鶴の一声だった。
「ようするに、エトールさんの傷が治れば、問題ないのよねっ?」
先輩が嬉々として発言する。
その笑顔はなんとも頼もしい。
「しかし、この傷では……。回復呪文の中でも最上級のものでなければ、治りますまい……」
ウッドセン村長は厳しい顔で、言葉を絞り出した。
先輩は何食わぬ顔で、ごそごそと一つの指輪を取り出す。
「エストっ! これは封印の指輪モデル:僧侶よ。あなたはこれから私の僧侶として、回復呪文を極めなさいっ!」
「私が、マリナさん達の仲間に……?」
「アンタが立派な僧侶になるまで、弓術士は待ってあげるわっ! 何でもするって、言ったわよね? ちゃちゃっと回復呪文を極めて、お兄さんの傷を治しなさいっ」
「私が、お兄ちゃんを治す……」
わなわなと、エストさんの声が震えている。
「その後はもちろん、兄妹で魔王退治に付き合ってもらうわよっ!」
エストさんの瞳から、涙がポロポロと落ちた。
「わ、わだじ!がんばりまずっ!ありがどうっ、ございまずっ!」
エストさんは指輪を受け取り指に通すと、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でニッコリと笑った。
次回か次々回で第二章は終わりの予定です




