第4話 判決ですよ
『しかし正当な試練において「どちらも不合格」などという回答は認めん!!』
上級神の怒りの声がアパートを揺らす。光の円陣が激しく明滅し、雷鳴のような重低音が部屋の中に響き渡った。
『童話の規律を破り、金と银の選別を完遂しなかった罰として……下級女神の天界帰還は当面の間、一切許可しない!!』
「えぇぇぇぇーーーっ!? 私のせい!? 私のせいなのーーーっ!?」
床に突っ伏したポンコツ女神が絶叫する。
『さらに! 神造物たる「金と銀のヴァルガイザー」の管理責任、および帰還不能となった下級女神の現世における庇護義務を、その偏執的な人間・小野寺拓海に命じる! 選別をやり直す気気になるまで、天界の門は開かぬものと思え!!』
バツンッ!
吐き捨てるような言葉を残し、天井の光の円陣は容赦なく消え去った。
静まり返るワンルーム。
ドライヤーの排気音も止まった部屋に残されたのは、固まったままの拓海と、絶望で魂が口から抜けかけている女神、そして床に転がる金と銀のロボットだけだった。
「……帰れない」
女神が虚ろな目でポツリと呟いた。
「私、天界に帰れない……。下級女神の宿舎、家賃滞納になっちゃう……」
「神様の世界にも家賃ってあるのか?」
拓海が至極冷静に尋ねると、女神は涙目になって拓海の胸ぐらを掴んだ(白手袋をはめた拓海は速やかに手を払ってメッキへのダメージを防いだ)。
「あなたのせいよーっ! 『金は重すぎて自壊する』だの『銀は黒ずむ』だの余計な難癖つけるから! 普通に『金が好きです』って言っておけば私は無事に天界に帰れて、あなたも金持ちになれてハッピーエンドだったのに!!」
「バカ言え。コレクターとして妥協した評価を下すくらいなら、神の判決だろうが突っぱねるのが筋だ」
堂々と言い放つ拓海に対し、女神は「この男、駄目だ……筋金入りのオタクだ……」と頭を抱えて崩れ落ちた。
「……はあ。で、どうするのよ? 私は帰れないし、金と銀のロボもここから動かせないのよ?」
「どうするもこうするもない」
拓海は溜め息をつきながら、金と銀のヴァルガイザーを丁寧に布で包み直すと、再び押し入れの下段——積みプラの奥深くへと押し込んだ。
「金と銀は引き続きここで保管する。表面の劣化を防ぐため、除湿剤の交換頻度を上げる必要があるな」
「私の扱い雑じゃない!?」
「お前は……そうだな。食費の足しにするために、明日から内職でもしてもらうか。プラモデルのパーツのバリ取りとか、シール貼りなら教えてやる」
「神様にプラモのバリ取りさせようとしてるーーーっ!」
こうして、選別を拒否したオタクサラリーマンと、天界から見捨てられたポンコツ女神の「超合金&金銀ロボ保管と同居生活」が正式に決定してしまったのだった。




