第2話 ドライヤーですよ
「よし……冷風仕上げ完了よ! ほら見て、かなりマシになったでしょ!?」
女神が達成感に満ちた顔でドライヤーを置いた。
確かに、丁寧に乾かされたパッケージは水分が抜け、角の潰れ以外はなんとか持ち直している。
だが、本当の勝負はここからだ。
「……ここからが本番だ」
「えっ、まだ何かあるの?」
俺は白い作業用手袋を両手に装着し、意を決して箱のテープに爪を立てた。
「これより『超神機ヴァルガイザー(特製メッキVer.)』の検品作業を開始する」
「け、検品……?」
ごくりと唾を飲み込む女神を無視し、俺はゆっくりと慎重に、箱のフタを開けた。
透明なブリスターパックを静かに引き出す。
「おおお……!」
部屋の蛍光灯を反射して、特製メッキを施された装甲が美しい輝きを放った。
「見てみろ……このダイキャストの鈍い光沢、そして関節部に仕込まれた可動ギミックの美しさ……! 浸水による塗装の浮きや、内部機構の錆びは見当たらない!」
「よかったじゃない! 無事だったんでしょ!?」
女神がほっと胸を撫で下ろした瞬間、俺の観察眼が「ある違和感」を捉えた。
「……待て。肘関節の保持力が、右と左でわずかに違う」
「は? 保持力……?」
「右腕を曲げた時のクリック感が『カチッ』なのに、左腕は『ガチッ』だ。0.5ミリほどクリアランス(隙間)が詰まっている……!」
「そんなの誤差でしょ!? ていうか見た目全然変わらないじゃない!!」
俺は白手袋の指先で繊細に動かしながら、真剣な眼差しで言い放つ。
「誤差ではない! ダイキャスト重量800gの負荷を支えるには、この『ガチッ』の強度が必須なんだ! 左腕が正解で、右腕の初期トルクが甘い!!」
「なによ初期トルクって! めんどくさいわねこの男!!」
俺が眉間にシワを寄せて悩んでいると、女神が「ちょっと貸しなさいよ!」と横からヴァルガイザーの手首をつまみ上げた。
「おい、素手で触るなメッキに指紋が——」
「神の祝福(微調整)ーーーっ!!」
ふッ! と女神が息を吹きかけると、ヴァルガイザーの右肘が一瞬だけ淡く光った。
「な、何をした……!?」
「ちょっと神力で内部のギアの噛み合わせを最適化してあげたのよ! ほら、動かしてみてごらんなさい!」
半信半疑で右腕を曲げてみる。
——ガチッ。
「な……完璧なクリック感……! 左腕と完全に同等のトルク……!?」
「ふふん! どうよ! 下級女神の力を思い知ったかしら!」
ドヤ顔で胸を張る女神。
俺は一瞬だけ感動しかけたが、すぐにハッと正気に戻り、厳しい顔で女神を指さした。
「おい……お前、可動部に神力を付与したな? これで経年劣化のデータが取れなくなったらどうするんだ!?」
「なんで褒められないのよーーーっ!!」
夜のワンルームに、女神の理不尽な叫び声が再び響き渡ったのだった。




