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体育祭 

十月の初旬

元々は毎年十月十日だったらしい

島の体育祭が開かれる


学校のグランドには

朝から人が集まっていた


テントの下には

其々の集落ごとに場所が決まっている

手書きの札に 地区の名前が並んでいた


幼稚園くらいの子どもから

腰の曲がった年配の人まで

年齢はばらばらなのに

同じ場所に座っている


「あゆみ こっちや」

呼ばれて 

あゆみは自分の集落のテントに入る


「今年はリレー出るんやろ」

顔見知りの大人が言う


「いや 走れんです」


笑いが起こる

それで済む距離だった


「人足りへんねん」

別の声がする


「頼むわ」


断り切れない空気が 自然に出来ている


あゆみは少しだけ笑ってごまかす


その横で 渚は既に話に入っていた


「うちはこれに出ます」

紙を受け取り 直ぐに名前を書く


「あと一人 誰出る?」


周りを見て 直ぐに声をかける


迷いがない

その場の流れに 自然に乗っている


「渚ちゃんおったら助かるわ」

大人が言う


「いつも通りです」

軽く返す


そのやり取りも 当たり前のようだった


あゆみはそれを見ていた


同じ場所にいるのに 

立ち位置が違う気がした


少し離れたところに 徹子がいた


同じ集落の中にはいるが

少し外側に立っている


「これ終わったら もうすぐやな」

誰かと話している声が聞こえる


「何が?」


「ここ出るん」


軽い調子だった

冗談のようでもあり

本音のようでもあった


競技が始まる


幼稚園の子供たちが走る

転びそうになりながら それでも前に進む


その後に 大人の競技が続く


綱を引く

声が重なる


年配の人も ゆっくり列に加わる


勝ち負けはあるが 

それだけではない空気があった


「次 でるで」

渚が言う


直ぐに立ち上がり 競技の場所へ向かう


名前を呼ばれ 列に並ぶ


身体をほぐしながら 周りと軽く話す


その動きに無駄がない


あゆみは その背中を見ていた


この島は彼女の一生の場所なんだ


風が少しだけ吹く

空は高く 青かった


その下で 人が動いている


同じ集落で 同じはちまきを巻いて


あゆみも その中にいる


でも 同じ様に立てていない気がした


遠くで徹子が笑っている


その笑い方は 少しだけ軽かった


ここにいながら 少し外にいるような

感じだった


歓声が上がる

誰かが勝って 誰かが負ける


それでも また次が始まる


あゆみは その流れの中に立っていた


この中に残る人と 出ていく人がいる


それが 少しだけはっきり見えた気がした



片づけを始めると

さっきまでの賑わいが

少しだけほどけていった


テントが外され 机が運ばれる

グラウンドには 土の匂いが残っていた


火との声も さっきより小さい

其々が自分の場所に戻っていく


あゆみは はちまきを外して手に持った

少しだけ汗で湿っている


「終わったな」

誰かが言う


「今年もな」

別の声が返る


それで会話は終わる

特に何かをいうわけでもなく

流れていく


渚は 最後まで動いていた


「それ こっち持って」


声をかけながら 片づけを進めている

大人と同じように動いている


「先帰るで」

誰かにそういわれて


「はい」

とだけ返す


自然な流れだった


あゆみはその様子を見ていた


同じ一日を過ごしているのに

終わり方が違う気がした


グラウンドを出る


空は少し赤くなっていた

昼の青さとは違う 落ち着いた色だった


人の数も減っている

さっきまでの音が

遠くに残っているだけだった


校門の外で 徹子が立っていた


「あ あゆみ」


軽く手を上げる


「帰るん?」


「うん」


あゆみは頷く

そのまま 並んで歩き出す

暫く 何も話さない

足音だけが続く


「なんか あっさり終わったな」

徹子が言う


「そう?」


「毎年こんなんやったっけ」


少しだけ考える


「……こんなんやったと思う」

あゆみが答える


「そっか」

それだけで また少し静かになる


風が少しだけ吹く


「もうすぐやな」

徹子が言う


「何が?」


「ここでるん」


その言い方は軽かった

でも 冗談ではなかった


あゆみは何も言わなかった


「面接 もう一回あるし」

徹子は続ける


「受かるかは分からんけど」

少し笑う


その笑い方は いつもと同じだった


「行くんやろ?」

あゆみが聞く


「まあな」

短い返事だった


「ここにおっても なんもかわらんし」

あゆみはその言葉を聞いていた


間違っているとも思わなかった

でも 全部がそうとも思えなかった


「あゆみは?」

また聞かれる


あゆみは少しだけ考える


「……まだ」

それしか言えなかった


徹子は軽く頷く


「そやろな」

否定も肯定もない言い方だった


わかっているような

距離を置いているような


道が分かれる場所に来る


「じゃあな」

徹子が言う


「うん」

そのまま別れる


振り返ることはなかった


あゆみは一人で歩く


夕方の空気は 少し冷えていた

さっきまでの賑わいが 遠くに残っている

あゆみは

はちまきを握ったまま歩いていた


今日のことを思い返そうとする

人の声 走る音 笑い声

幾つかは思い出せる


でもそれが何だったのかは

まだ分からなかった


ただ何かが終わって

何かが近づいている気がした


それだけははっきりしていた

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― 新着の感想 ―
 堺大和さん、こんにちは。 「潮目の波間 (仮) 体育祭」拝読致しました。  島の体育祭なのか。高校じゃないのか。うん、田舎だなぁ。  地区対抗なのか。  若い子はリレー強制参加なのか。  渚ちゃ…
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