4節 風に舞え
風が私を包むかのように吹いている。氷の女神に体を冷やさせられてしまっていたので体が冷えて余計痛む。それでも目の前に仲間が苦戦しているから助け舟を出さないわけには行かない。
私は後ろを振り向くと、メアちゃんが付いてきてた。ちなみにその後ろで「あら、やり過ぎちゃった?ちょっと大丈夫?」とセロリアさんが自分の手で胸を鷲掴みにしていた女の子の体を支えながら言っている。その彼女は興奮しながら赤面でこの戦場に場違いな顔をしていた。地面が湿っているのは氷の女神のせいだろう。いや、そうしてあげよう。その後ろで例の弟は氷から解き離れて傷口から血を流して身動きもせずに眠っていた。
「メアちゃん、セロリアさんに……」
「嫌です」
「いや、嫌じゃなくて」
「嫌です」
「もう、メアちゃん嫌いになるよ?」
「うぐっ……嫌です。それでも私はあなたのそばにいたい。だってまた離れるのが嫌だから」
彼女は私に悲しそうな顔をこちらに向ける。
「じゃあ、もう、はなさない」
「ふふっ。離さないと話さない、かけたわね」
私たちは風の中に入ってしまった。彼女の声はそれから聞こえなくなった。しかしそこから抜け出すと話は聞こえた。しかしその声は目の前にいる血だらけのジョルダーさんからだった。
「お前ら、何しに来た?俺が死ぬのを笑いにでも来たか?」
ジョルダーさんのその声に冗談の余裕はもうなかった。彼以外、ここで戦った者は地面に伏せていた。
「ただの渦に飲まれた二隻の船です」
ジョルダーさんはにやりと笑い、「ふっ、お前さんのおかげで笑えたよ」とぼそっと言う。
「またゴミが増えたか」
「ゴミじゃねーよ、まだ原型のある三隻の船だ」
風が先程よりも早く回り出した。
「そこで立ち止まるなら今から俺が後ろに突き立ててやるよ」
「させねーよ、この剣で……」
真珠がさらに黒くなる。禍々しい感じと憎悪が私を責め寄ってくる。それらの圧迫により、吐き気を催す。
「さぁ、来いよ。目覚めの悪いその刃で」
「うりゃー!!」
剣の真珠を地面に当たるように思いっきり、叩きつける。憎悪から離れるのにちょうど風が吹いてるからいいと考えたからだ。
「海塚君……」
「お兄さん……」
後ろから何かがなびくモノがあると思ったので、後ろを見た。私の背中に黒い布がなびいていた。黒いマントだった。
「やはり貴様、ボスの知り合いか?なら、ボスは今どこにいる?」
「さぁな?」
私は力を込めたわけでもなく、宙に浮き目の前にいる風を吹かす神……いや、ペテオラの背後に立ち、私は手に持っていた剣を奴に向けて大きく振りながら叫ぶ。
「デスワールド!!」
彼の頭は地面に向けて落ちていくかと思ったら、ミルキーウェイ同様に体と共に光と化して散ってしまった。私は下に降りた。風の止まった周りには炎が勇ましく立ち上がっていた。まるで最後に残る神との最終戦になる場所を照らし示すかのように。




