第六十二話『codependence』
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「能力のコントロールは、こころのコントロールなのです。」
マルニィの背伸びした声音が聴こえる
マルニィの声が好きだ
大切な わたしの親友
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「能力のコントロールは、こころのコントロールなのです」
観季の目の前に居る金髪の女の子は、そう言って胸を反らした。
見るからに高貴な雰囲気の漂うお姫さまのようなこの外国人は、観季には凄く素敵に映った。できれば自分も、こんな風に産まれたかったと観季は思う。しなやかに揺れる金髪は、より一層その高貴さを際立たせていた。
突然、能力をコントロールする方法を教えるからと言って教室に走り込んで来た時は驚いた。見ず知らずのお姫さまが、自分のことを知ってた。なにがなにやらわからない。友人の真知も教室におらず、観季はどうしたらいいのかわからなかった。
お姫さまの強引な誘いに断り切れなかった。
それに、彼女がいう能力のコントロールという単語が引っ掛かったせいもあった。本当にこの能力がコントールできるようになるなら――
彼女の後について学校の裏山へ登る。観季は、こんなところには来たことがない。
実際何も無いし、道らしい道も無い。人が登ることが、きっと無いに違いない。そんなところに彼女は観季の手を引いて、ずんずんと登って行く。見た目とは違い、随分とワイルドな人なのかも知れないと、観季は感じた。
「さあ、観季さん。ゆっくり深呼吸して」
観季は、お姫さまの号令に素直に従う。きっと、そのときの観季はまだ、混乱していたのだろう。この姫さまが、いったい何をしようとしているのか? 観季は、とにかく早く解放されたかった。
「こころの状態をコントロール出来れば、能力はコントロールできるようになります」
お姫さまが言う能力というのは、やっぱり自分のあの能力のことなんだろうなと、観季は理解した。
真知がこの子に話したのだろうか……。この子は、真知の何なんだろう……。自分が知らない真知が居る事実が、観季を不安にさせた。
「観季さん、私の動きに合わせて動いて。私と同調させて」
金髪の女の子は、なんか怪し気なゆっくりした動きを始めた。まるでそれは太極拳のようだった。観季は、大人しく従い、変な動きに合わせる。しばらく動きを合わせていると、なぜかこの女の子とこころが近付いたような、そんな気がして観季は少し笑った。
真知が自分のことを思って、この子に頼んだのか。
なんでこんなことになったんだろう。観季には理解できなかった。
「赤部さんのこと、好きなのね」
唐突な彼女の言葉に戸惑った。
「こうして、同調させてると、お互いの心が通うようになるのですよ」
そう言って笑う彼女は綺麗だった。この人の心には、黒いものなんてないのだろう。観季は、素直にそう思った。彼女のこころも観季自身に流れ込んで来るように感じていた。
「私にも、あなたにとっての赤部さんのような、大切な人が居るの」
この言葉を聞いて、初めて観季はこの女の子に興味を持った。さきほどの、容姿が綺麗とか、そういう表面的なことではなく、簡単に言えば、この女の子のことをもっとよく知りたいと思ったのだ。そんなことを思うのは、真知以外には初めてだった。
「どんな人? この学校に居るの?」
意図せず、自然に女の子に問い掛けていた。真知が見ていたら卒倒する位に驚いたことだろう。観季が、自分から真知以外に積極的に話し掛ける事など無いからだ。目の前の彼女も驚いている様子だった。その碧い瞳が一瞬大きく見開かれた。でも、すぐに優しい顔になって話を続けた。
「ずっと遠く、もう二度と逢えないくらい遠く離れた処に……その子は居るわ」
そう言ったその碧い瞳は、空の彼方を見上げていた。
彼女の言葉は暗に、その人の死を想わせる口ぶりだった。それでいて、その死を認めたくない感情が溢れ出していた。観季は思う。自分には耐えられない。もし真知が居なくなり、二度と会えないとか、考えるだけでも気が狂いそうになる。
「その子が、この訓練を教えてくれたのよ」
※※※
「ニーナの奴、待ってろって言ったのに」
教室に戻ると、ニーナの姿は無かった。どこ行きやがったんだまったく!
スマホを取り出しニーナに掛ける。そういえば、ニーナに掛けることって無かったんじゃないか? 掛けた記憶は無かった。
五回程コールした後、プチッと切られた。
え?
なに?
なんで?
なんかしたっけ? 自分
いやいや、なんか事件に巻き込まれたとか?!
「なに狼狽えてんのよ」
「うわっ! 赤部、なんでここに? お前の教室は隣だろ!」
「そりゃ観季が居なかったからね。もしやと思ってこっちに来てみた。やっぱり、ニーナって子も居ないのね。連れ出されてって感じね」
それが本当なら、ニーナの奴まったく無茶しやがる。
「しょうがない、ニーナを探しに行こう」
「は? なんで?」
赤部は心底不思議そうな顔で首を傾げていた。
俺は正直驚いた。二つ返事でOKすると思っていたからだ。いやむしろ、俺が言うより先に言うんじゃないかとさえ思ったぐらいだ。だからなぜ行こうとしないのかがわからなかった。
「別にニーナって子は危ない子じゃないんでしょ?」
まあ、確かに、危ない子ではない。危なっかしい子ではあるが。
「それに、観季も付いて行ったってことでしょ。なら、問題無いんじゃない?」
まあ、確かにそうだが。なんだろうなぁ、このざわざわした感じ。
「ふっ、目の届く処に置いてないと、落ち着かないって感じね」
「別にそんなんじゃねえよ」
過保護ってことかよ。いや、でも、ニーナってやっぱり、放っておくと何しでかすか心配だしなあ。
「お前も心配じゃねえのか?」
昼に観季に会いに行ったときは、めっちゃ睨んでたじゃねえか。お前だって過保護だっちゅーに。
「私は別に……。そりゃ普通に心配はするけど。私が口を挟むことじゃなさそうだし」
「いいんだな? ニーナに任せて」
ちょっと意外だった。こいつならニーナになんて任せられないって感じで奪い返しに行くと思ったのだが。
「いいんじゃない? おかしなことにはならないでしょ。最悪でも、効果なしとかでしょうし。それならいままでどおりじゃん。それにそもそもいま観季とは喧嘩中だし……。それに私がとやかく言うことでもないでしょ」
そうか。合いづらいのか。こいつは。
「じゃあね。私は帰るわ」
そう言うと赤部は、スタスタと廊下を進んだ。
「なあ、赤部。」
なんとなく、声を掛けてしまった。ふと思ってしまったんだ。もしも……
「観季の能力が無くなったら、テニス続けるか?」
観季の能力によって、赤部は無敵になっている。そのせいでテニスを辞めると言った。
じゃあ、その影響から離れたなら……
赤部は、一瞬立ち止まった。
しかしまた、すぐにまた歩き出し、問い掛けに応えることは無かった。




