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『巻き戻りし者達のマスターは喋らない』 ―スケッチブック1枚で裏の支配者だと勘違いされている件―  作者: 桜月ふたば


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第八話:王様の視察と最強のケアマスター



「た、大変です!外に国王の馬車が!」

勢いよくドアから飛び出してきたロイドくん。


とある日の午後、施設に激震が走った。

この施設の存在を危険視した、この国のトップである『国王陛下』が、直々に視察に訪れたのである。


「ふん、伝説の英雄や魔王が集まる施設だと聞いて来てみれば……。

案内役が、ただの魔力無しの無口な小娘とは情けない。

我が国の安全をこのような子供に任せているとは、呆れたものだな」


豪華な赤いマントを羽織った王様は、私を見下して鼻で笑った。

王様の背後には、国で最強と呼ばれる『国立騎士団』の面々が、厳つい鎧を着込んでずらりと控えている。


私はいつも通りの真顔でペコリとお辞儀をし、スケッチブックを掲げた。


【遠路はるばる、お越しいただきありがとうございます。

どうぞ、お静かに見学してください。お昼寝の時間がそろそろ終わりますので】


「なんじゃと?!無礼な。王である私に向かって命令するとは――」

王様が声を荒らげようとした、その瞬間。

私の後ろにある扉が開き、おじいちゃん、おばあちゃん達がゾロゾロと出てきた。


「おい、若造。我らがマスターに向かって、随分と大きな口を叩くじゃないかい」

ネグリジェ姿のマーサおばあちゃんが、殺気ゼロのまま、いつの間にか王様の真後ろに立っていた。

その手には、果物ナイフが握られている。


「ひっ!?いつからそこに――って、お前は三十年前に我が国の大臣を暗殺した『神速の暗殺者』マーサ!?」

王様が悲鳴を上げる。


「ぐぬぬぅ!我らがマスターの静寂を乱す者は、王といえども容赦せんぞ!」

フォードおじいちゃんが、神剣をギラつかせながら王様の前に立ちはだかる。


「我がマスターを邪魔する奴は、良い度胸じゃないか塵にしてくれるわ!」

ベルゼおじいちゃんまで、漆黒の魔力を指先に集め始めた。


世界のパワーバランスを崩壊させるレベルの化け物たちが、

一斉に私を「マスター」と呼び、王様をギロリと睨みつけたのである。


騎士団が国王の前に一斉に出て守る体制を取るが、剣を持つ手は震えていた。


「ケホッケホ!マスターに仇なす者は、この私が許しません!って国王?!へっ陛下!ここから逃げてください!」

と、焦げた服のまま杖を構えながら出てきたロイド。国王と気づくと杖を下したけどもう遅かった。


「やぁ~ルルちゃん。今日も見事な支配力だね~」

拍手をしながら笑顔で廊下から、こちらに歩いてきた施設長。

施設長とロイドが、国王の勘違いをまた加速させていく……。


(あぁ……皆、落ち着いて……。)

私はその場で固まったまま見守るしか出来なかった。

王様と騎士団は、恐怖のあまりガタガタと歯を鳴らし、その場に崩れ落ちた。


「ひっ!伝説の英雄も、魔王も、全員があの娘を『マスター(主)』と呼んで従っている……!?

報告書通りだ…‥しかし…‥

ど、どういう事なのだ?!な、何という底知れない組織……!

あの小娘が実は支配の祝福を持っているのか?!

もしや……この世界の裏の支配者フィクサーだったのか……!!」


王様は誤解の極みに達し、私に向かって地面に頭を擦り付けた。

「お、お許しください、マスター!我が国は、貴女の組織に一切の敵対意図はありません!

どうか、どうか国を滅ぼすのだけはご勘弁をぉぉぉ!」


私は、そっとスケッチブックをめくりサラサラ書き始めた。

(私の祝福なんて聞いたことがないし、魔力もないってば……)


【ただの雇われチーフです。ご飯が美味しいので働いています】


それを見た王様は、さらに深く絶望した。


「(……っ!国家転覆すら可能な戦力を従えておきながら、なんと謙虚な……!

いや、違うな。『私にとってこの世界を管理することなど、飯を食うついでに過ぎない』という絶対強者の脅迫か……!!)」


どこまでいっても、彼らの深読みと勘違いは止まらない。

私は諦めて、スケッチブックをパタンと閉じ、おじいちゃん達に向かって次のカンペを掲げた。


【おやつの時間。今日は特製紅茶プリン】

「うおおお!!マスター、最高!万歳!!」


世界を滅ぼせる猛者たちが、プリンのために大喜びで肩を組みながら万歳を三唱する。


【皆さん、食堂へ移動しましょう】


私のカンペを見た元最強の老人たちは、一列で食堂へ向かった。


「……そなた…‥何者なんだ?」

国王はゆっくり私を見て、また同じ事を言っている。


【チーフです。国王もプリン食べます?】


その後、長いテーブルに過去の栄光を背負った老人たちが楽しそうにプリンを食べることになった。


「うんうん!皆、仲良くなって良かったね」

「施設長!何のんきな事言ってるんですか!?一歩間違ったら私達は投獄もんですよ?!」


(なにやら食堂の後ろの方で2人が騒いでたけど、平和になって良かった)


少女は今日も無表情のまま、世界で一番危険で、世界で一番平和なケアセンターの『マスター』として、おやつを配り続けるのだった。


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