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『巻き戻りし者達のマスターは喋らない』 ―スケッチブック1枚で裏の支配者だと勘違いされている件―  作者: 桜月ふたば


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第七話:世界最強のテイマーと神話級のコッコちゃん


空は晴れ渡り、穏やかな風がそよいでいた。


とある日の午前中。

『白銀輝の園』の裏庭にある広大な菜園で、私はおじいちゃん達と一緒にトマトやナスなどの夏野菜を収穫していた。


のどかな太陽の光、澄んでいる美味しい空気。皆が麦わら帽子を被り、土いじりをしている。

一見するとただの平和な農作業なのだが、ここに参加しているメンバーが問題だった。


トマトを収穫しているのは、かつて大陸の半分を支配した元・魔王のベルゼおじいちゃん(1200)と、

元・魔王軍最高幹部のユグシルおじいちゃん(790)である。


「ぐぬうぅ、ユグシルよ。我が収穫したこのトマトを見よ。なんと禍々しく、美しい赤色か。

まるでかつて我が滅ぼした聖王国の都が炎上した時のようだぞ」


「おお、流石はベルゼ様!ですが私の収穫したこのナスビも負けておりませぬ。

この深淵なる紫は、まさに禁忌の暗黒魔術そのもの……!」


(いや、ただのみずみずしい夏野菜なんだけど……)

私が真顔でカゴを差し出すと、かつての魔王と最高幹部は

「は、ハイッ!」

と小さくなって、嬉しそうにトマトとナスビを納めてくれた。



そんな時だった。菜園の向こうから、地響きと共に、鼓膜が破れそうな大爆音が響き渡った。


「コケコッコーーー!!!」


「ギャァァァァッ!?な、なんだ!あの巨大な生き物は!鳥!?魔物?鶏なのか!?」

近くで農業道具のクワを持っていたロイドくんが、腰を抜かして絶叫した。


現れたのは、体長5メートルを優に超える、全身が黄金の炎で包まれた巨大な怪鳥だった。

それは鶏の形をしていたが、放つ威圧感は災害そのもの。

神話の時代に世界を焼き尽くしたとされる伝説の巨鳥『不死鳥フェニックス』――の、

記憶が巻き戻ってさらに凶暴化した、うっかり召喚された化け物だった。


そして、その不死鳥の首にガッシリと縄をかけ、ロデオのように背中にまたがっている小柄なおばあちゃんがいた。

彼女の名前は、エリザおばあちゃん(83)。


普段は編み物が大好きな可愛いおばあちゃんだが、その正体は……。

かつてあらゆる幻獣・魔獣を従えて世界を震撼させた、

元・世界最強の『竜の従者マスターテイマー』である。

今日のエリザおばあちゃんは、魂が全盛期に巻き戻ってしまっていた。


「アハハハ!良い景色だ、コッコちゃん!さあ、我が鞭の前にひれ伏し、

我が新たなる軍勢の先陣を切りなさい!」


「コケェェェーーーッ!!(激怒)」

おばあちゃんが全盛期のテイム(手懐け)スキルを発動しているせいで、

不死鳥はプライドを激しく傷つけられ大暴れしていた。

口から数千度の火炎を吐き散らし、裏庭の木々が一瞬で炭化していく。


「ルル、逃げて!あの炎は触れただけで灰になる神の鳥だ!

私が命に代えても時間を――『水神の激流アクア・ストリーム』!!」


ロイドくんが必死に上級水魔法を放つが、不死鳥の熱気だけで魔法の水が一瞬で蒸発。


「あっつ!あちぃぃぃッ!」

と叫ぶ間もなく、ロイドくんは本日一発目の「スチーム仕立ての黒焦げ」になって床に転がった。


「祝福があってよかった……もうヤダ……」

ピクピクしながらロイドくんは呟いていた。


(今日一回目だね……ロイドくん)


『彼の祝福は、老死以外で死ねないんだよ』

(そういえば、面接の日に施設長が言ってた。そういう事か)

私がぼんやり施設長との会話を思い出していたら、暴走する不死鳥が標的を私に変えた。


巨大な炎の爪を振り上げ、私を肉片ごと焼き尽くそうと猛スピードで突っ込んでくる。


「いけない!嬢ちゃん、逃げなーー!」

背中のエリザおばあちゃんが叫ぶが、記憶があやふやなため制動が効かない。

だが、私は一歩も動かなかった。

なぜなら、せっかく魔王たちが綺麗に収穫してくれたトマトのカゴに、不死鳥の炎が引火しそうになっていたからだ。


今日の夜ご飯のメニューは、このトマトを使った特製サラダと夏野菜カレー。

それを台無しにされることだけは、絶対に許せなかった。

私は、いつもの「真顔(本日一番のブチ切れ超ジト目)」になり、懐からスケッチブックを引っこ抜いた。

マジックペンを凄まじい速さで走らせ、突っ込んでくる不死鳥の顔面に

バッと力強く叩きつけるように掲げた。


【うるさい。野菜燃やしたら、きみを丸焼きにする】

文字通り、空気が重圧で爆発したような錯覚が裏庭を包んだ。


少女が放った、ただの「ご飯を守りたい執念(大気をも震わせる殺気)」。

それを正面からまともに喰らった神話の巨鳥・不死鳥は、脳髄に電流が走ったかのように。

その場でピキィィィン!と硬直した。

鳥の野生の本能か?それとも生存本能か?全力で警報を鳴らしていた。


(この覇気……!!!この人間の小娘、怒らせたら間違いなく『不死』の概念ごと消される……ッ!!!)


「コ、コケェ……(ガタガタガタガタ)」

さっきまで世界を焼き尽くさんばかりだった不死鳥が、突如、借りてきた猫のように小さくなり、

翼を綺麗に折りたたんで、その場にペタンと正座(鳥座)した。


おばあちゃんは鳥から降りてルルに駆け寄る。


「嬢ちゃん大丈夫?ごめんね、今日は上手く制御できなかったわ」

【大丈夫。無事だよ】


「ちょっと、コッコちゃん!あんたも謝りなさい!!」

おばあちゃんが鳥を睨みつける。


ビクッと体を跳ねさせたコッコちゃんは、姿を小さくしてから

私の足元に頭を擦り付け、仰向けで羽を広げた。

すると、マジックペンが光った後。少し歪な赤い鳥の模様が刻まれた。

それを見たエリザおばあちゃんは、大きく口を開け、よろよろと地面に座り込んだ。


「ま、まさか……。私が全魔力を懸けても従わなかった『終焉の巨鳥』が、

紙切れ一枚だけで完全に屈服。

いや、テイムしたですって……!?

嬢ちゃん……あんた、誰だか分からないけど……本物の『獣の神(真のマスター)』なんだねぇ……!」


おばあちゃんは感動で、目をウルウルし始めた。

横では、トマトを守りきった私を見て、ベルゼ魔王おじいちゃんたちが


「流石は我がマスター、底が知れん……」

と拍手を送っている。


裏庭の隅で、アフロヘアから煙を上げているロイドくんが、白目を剥きながらガタガタと震えていた。

「せ、世界最強のテイマーが命がけで手懐けられなかった神話の魔獣を、

ただの真顔と『晩飯の脅迫カンペ』だけで一瞬にして完全従属(完全テイム)させるなんて……。ルルチーフは、魔獣の魂すら支配する、文字通りの『魔獣をも統べるマスター』なんだ……ッ!」


(いや、ただのしつけなんだけどな。

鶏はコラッ!って怒れば静かになるって田舎のおばあちゃんが言ってたし……。

それよりロイドくん、夏野菜まだ足りないから収穫に戻ってね?)


ザッザッと走る足音が近づいてくる。

皆が振り返ると、施設長が走ってこちらに向かっていた。


「光と音がすごいから来てみたら……。どっ、どうしたの?」

「それがですね……」

ロイドくんが施設長へ状況を説明し、施設長は一瞬悩んでいる顔をしていた。


「コッコちゃんだっけ?召喚出来たなら解除できないの?元居た場所に帰すとか」

施設長が、エリザおばあちゃんに聞いていた。


「今日の私、なんだかおかしいのよ。今は出来ないわ」

首を横に振りながら答えるおばあちゃん。

私はコッコちゃんが何だか可哀想に思えてきてスケッチブックにペンを走らせた。


【コッコちゃん。皆と一緒に来る?】


「コッ!?……。コケッ」

首を縦に振ったコッコちゃん。


「いや!施設ごと炭火焼にされちゃうから!チーフ何言ってるんですか!」

ロイドがまた後ろで叫んでいる。


【許可なく火を吹いたらダメ。分かるよね?】

コッコちゃんはガタガタと全身を震えさせながら、高速で縦に首を振り続けた。


「じゃあ、癒しペット枠で飼っちゃおう!はーい、終わり!」

施設長が笑顔で両手を数回パンッと叩きながら決定を下した。


「ねぇ!どこが癒しなんだよぉぉおお」

ロイドが地面を何度も拳で叩く音が、農園に虚しく響き渡っていた。


こうして、裏庭を焼き尽くしかけた不死鳥は、我が施設の「ペット(毎朝卵を産んでくれる優秀なコッコちゃん)」として、ルルの忠実な下僕となったのだった。


そして噂を聞きつけた、哀れな王様が数日後

この「世界で最も凶悪なケアセンター」へと視察に訪れることになる―


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