表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『巻き戻りし者達のマスターは喋らない』 ―スケッチブック1枚で裏の支配者だと勘違いされている件―  作者: 桜月ふたば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/12

第四話:管理者と言っただけなのに


横領事件の一件以来、施設内の空気が明らかに変わった気がする。


「あんたは誰だい?」

お昼過ぎ。

食堂で日向ぼっこをしていたフォードおじいちゃんが、お茶を運んできた私を見て不思議そうに、首を傾げながら聞いてきた。

今日も少し記憶があやふやなようだ。


私はいつものように、自分の役割をしっかりと説明するため、スケッチブックに定番のフレーズを書いて掲げた。


【私はここを管理するもの】

契約書に書かれていた、施設管理業務。つまりチーフですよ、という意味である。

だが、それを見たフォードおじいちゃんは、ガタガタと体を震わせ椅子から転げ落ちるようにして床に跪いた。


「ハッ……!そうか、あんたがこの館の『主』か……!我ら伝説の英雄すら一言で平伏させる、神の如き絶対強者で管理するもの……。

失礼した、我のマスターよ……!」


(え、何で急に平伏したの?まぁいいか、お茶置いておきますね……)


私が困惑しながらお茶を置くと、隣のテーブルにいたマーサおばあちゃんも、深く頷いた。


「そうだねぇ。あの不届き者を一言で生け捕りにした手際、まさに裏の世界の『マスター』にふさわしいよ」


(うん?いつのまにか私がやっつけた事になってる……?)


さらに、通りかかったロイドくんまでもが、敬礼をしてきた。

「チーフ……いや、マスター!本日の結界維持訓練、完了いたしました!自分、一生貴女についていきます!」


「ねぇ、ロイドさん。なんであの子、マスターって呼ばれているの?」


ここで長く働いている洗濯係のお姉さんが、ロイドくんに耳打ちしているのが聞こえた。ロイドくんは、深刻な表情で首を振る。


「君は何も知らなくていい。ただ、あの人は自ら名乗ったわけじゃない。

伝説の英雄たちが、圧倒的な器にひれ伏して、自然とそう呼ぶようになったんだ……。

天性の支配者なんだよ、あの人は……!」


あまりの勘違いの連鎖に、私はスケッチブックに素直な気持ちを書き殴って、新入りのお姉さんに見せた。


【分からない。勝手に呼ばれるようになった】

それを見た新入りのお姉さんは、

「ひ、否定しない……一人で自然発生的にあの化け物たちを従えたっていうの……!?」

と恐怖で顔を真っ青にし、その場で少しよろけてしまった。


(いや、本当に何でそうなるの……?私はただの雇われチーフだよ?

住み込みで、おやつ美味しいし、お給料いいから働いてるだけなんだけど……)


少女の知らぬところで、彼女の二つ名は『記憶を巻き戻りし者達のマスター』として

国家の裏社会、果ては王宮にまで轟き始めていく。

だが、少女の願いは……。ただ一つ。普通に働いて、普通に暮らすこと。


(……はぁ。また話が変な方向に。とりあえず気を取り直して、お昼の片付けをしないと)


私が空いた皿を下げようと手を伸ばした、その時だった。


「マスター。裏庭で『密偵』とおぼしき影を確認しました!尋問の許可を!」


大きい声がして振り返ると、庭師の少年の首根っこを掴んでいるマーサおばあちゃんがいた。

(いつの間に……移動したんだろう)


「ルルちゃん。た、助けて……」

庭師の少年は涙目で訴えてきた。


隣ではフォードおじいちゃんが、靴に仕込んだ隠し刃をカチッと鳴らし出した。


「うあ!物騒な物仕込んでる!」

ロイドが騒ぎだした


(はぁ……皆、落ち着こうよ……。)


私は慌ててスケッチブックに書き殴り、二人の目の前に掲げた。


【ただの庭師。不審者じゃない。離してあげて】


二人はピタリと動きを止めたが、顔を見合わせて深々と頷いた。


「……なるほど。あえて密偵と泳がせ、組織の全貌をあぶり出す算段か。さすがはマスター、我らのような短絡的な真似はなさらぬ」


「おっしゃる通りです。我ら、浅はかでございました……」


(いや、ただ庭師さんが可哀想だからなんだけど……)


私がため息をつきながら皿を運んでいると、今度は別のおじいちゃんが深刻な顔で突進してきた。

「マスター! 裏の門が壊れそうです! 防衛戦の準備を!」


(またか……)


私は、あえて食堂の入り口に一枚のカンペを貼り出した。


【門は私が修理する。みんなはおやつ(クッキー)を食べてて。】


それを読んだ老英雄たちは、目を見開き口を開きだした。


「お一人で防衛も修復もされると……!? 一人で十分、菓子でも食べて待ってろと言いたいのですね?!さすが、マスター……謹んでクッキーを頂戴し、静かに待機いたします!」


(違います。ただのネジ締めです……)


裏門は木にネジを留めてある簡易的な物。

ルルはサクサクッと草の地面を進み、門の横のネジを留め始めた。


(そういえば、マスターと呼ばれ始めてから……皆、私の事だけ覚えていてくてる気がする)


修理をして部屋に戻ると、美味しそうに食べている皆の姿があった。

巻き戻りが無ければ、穏やかで皆落ち着いた大人たちなのだ。


「美味しいね、このクッキー」

「ああ、店のクッキーより素朴なこの味がまた良いんだよな」


(早起きして作って良かった。皆の笑顔が見れて……なんだか心がポカポカする)


そんなことを考えながら後ろの席で、皆が食べ終わるのを私は待っていた。


【皆さん、お昼寝の時間。部屋を移動しましょう】


彼女が掲げたそのカンペに、今日も世界最強の老人たちは、声を揃えて「御意!!」と叫ぶのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ