第一話:君!かわいいから採用!
「うん、不採用。次」
「えっ!?お、お待ちください!私は王立魔導学院を首席で卒業した、
エリート魔導士のロイドですよ!?なぜ、なぜ私が落とされるのですか!」
「いやー、なんかプライド高そうだし。うちの職場、そういうの求めてないからさ。はいはい、お疲れ様ー」
「そんな馬鹿なァァァァァッ!触るな!離せ!まだ話は終わってな……」
豪華な応接室に、絶望の叫びが響き渡る。
後にルルの同僚となる青年ロイドが、大声で叫び
部屋から警備兵に引きずり出されていくのを私はパイプ椅子に座ってぼんやりと眺めていた。
私の名前は、ルル。訳あって幼い頃から声が出ないため、いつも意思疎通にはスケッチブックを使っている。
現在は天涯孤独、身寄りなし、貯金なしの根無し草。
極貧生活を送っていた私が、街の掲示板でたまたま見つけたのがこの求人だった。
『急募:住み込みスタッフ。未経験者歓迎!やる気と思いやりのある方。給与:金貨50枚(毎月支給)』
金貨50枚。普通の一般家庭が1年間遊んで暮らせるだけの大金だ。
怪しい、絶対に怪しい。裏社会の仕事か、命がいくつあっても足りない超危険地帯での労働かもしれない……。
でも喋れない小娘の私が書類通過されたくらいなら、何とかなるのでは?
もう、背に腹は代えられない。餓死するくらいなら、怪しい仕事に片足を突っ込んだ方がマシだ。
そう思って面接会場に足を運んだのだが……。
「じゃあ、次の方どうぞー」
案内されて部屋に入ると、そこには豪華なデスクに足を乗せ、頭頂部がとても光っている……。
ゆるい雰囲気のおじさんが座っていた。彼がこの施設『王立白銀輝の園』の施設長。
施設長は、入ってきた私を上から下までじろじろと眺める。その後、ぱん!と両手を叩いた。
「おお、女の子!しかも、なんか君リスみたいで可愛いね。
えーっと、お名前はルルちゃん?声が出ないからスケッチブックで会話する感じ?」
エントリーシートを見ながら、男は終始にこやかに話していた。
私はコクコクと頷き、あらかじめ書いておいたページを開いて見せる。
【ルルと言います。どんな仕事でも真面目にやります。よろしくお願いします】
「うーん、字も綺麗だし、何より癒やされるなぁ。
最近、むさ苦しい冒険者とか、さっきのプライド高い魔導士みたいな奴ばっかり面接に来てさー。
血の気多い男ばかりで疲れちゃってたんだよね。うんうん!かわいいから君は採用ね!」
私は一瞬、自分の目を疑った。まだ面接が始まって1分も経っていない。
経歴も、スキルも、何も聞かれていない。私は慌ててマジックペンを走らせる。
【本当にいいのですか?魔法も使えません。剣も振れませんが……】
「いいの、いいの!うちの職場、一番大事なのは『癒やし』だから!
ギスギスした奴が入るとさ、おじいちゃん達の刺激になっちゃうからね。
あ、仕事内容は基本、おじいちゃんおばあちゃん達のお世話ね。
ご飯運んだり、お散歩に付き合ったり、おやつ配ったりするだけ!簡単でしょ?」
本当にそれだけだろうか。それだけで毎月金貨50枚も貰えるのだろうか。
私の直感が「何か重大なことを隠している」と全力で警告音を鳴らしていたが、
契約書にサインしてしまえばこちらのものだ。
住む場所と、毎日のご飯はありがたい。
私は覚悟を決め、ペコリとお辞儀をして、採用を受け入れたのだった。
「あ、そうそう。チーフが抜けたから、君はチーフね!後さ……」
部屋を出ようとした私に、施設長が思い出したように軽い調子で声をかけてきた。
「さっき不採用にした魔導士くんだけど……。
やっぱり不採用にするの可哀想だから、ルルちゃんの『部下』として雇うことにしたわ。
力仕事とか、盾が必要な時は、遠慮なく彼を使い潰してね!」
盾?使い潰す?不穏な単語が聞こえた気がしたが……。
私は気づかないフリをして足早に応接室を後にしたのだった。
一階の受付でエプロンを貰った。明るい茶色で固めの素材。
「勤務先の地図と開始日はこちらの紙に記載しています」
一枚の紙を受け取り、私は外へゆっくり歩きだした。
(良かった。ご飯が毎日食べられてお金ももらえる)




