第十五話:【速報】脱走した二人の伝説が、川を物理的に壊しに行きました。
「チーフ、そういえばこの子に名前を付けないんですか?」
ロイドくんは、チビドラゴンのプニプニした頬を指でツンツンして遊んでいる。
「キュッ!!……!ギュッ!!!」
(やめて!やめてってば!!)
ボワッ!!
「あっつ!!」
ジタバタと暴れ出し、火を吹くチビドラゴン。
羽の傷は治ってきているが、毎日ルルに包帯をぐるぐる巻きにされている。
ロイドは朝から爆発アフロになり、泣いていた。
「うっ……ドラゴンさん、ごめんなさい……」
私はその光景をみながら、腕を組み考えていた。
いつかは親の元へ返さなくてはならい……。
名前を安易に付けるのはどうかと、前から悩んでいたのだ。
【君の名前は?】
『☆×。△※+』
機械音のような声で聞き取れない。私は首を傾げながらさらに悩んだ。
(うーん、竜語なのかな?分からないや)
【ここにいる間、違う名前で呼んでもいい?】
「キュッ!」
(いいよ!)
「はい!ということで、チビドラゴンちゃんの名前を皆で決めましょう!」
施設長に事情を話した私達は、体操が終わった休憩時間に皆へ聞くことにした。
「聖獣様を名付ける名誉は、このワシが頂く!
聖なる牙はどうじゃ?」
「えー、可愛くないわ!天使の羽で……。てんちゃんとか、どうかしら?」
「完全なる神、セイクリッドファング、てんちゃん、ぷにちゃん……」
施設長は、カツカツッと音を立てながら黒板へ候補に挙がった名前を書いていく。
その横でロイドくんは、それぞれのメモ紙に同じく名前を書いていった。
「それでは!チビドラゴンちゃんに決めてもらいましょう!」
私はゆっくり床にチビドラゴンを下した。
【好きな名前の紙を選んでね】
『わかった!』
てちてち四足歩行でゆっくり歩いてく姿を、まるで赤ちゃんを見るかのような目で見守る皆。
「癒されるわ。なんて可愛らしいのかしら」
「聖獣様が選ぶ名前が気になるが、孫が這い這いした時のことを思い出してきたぞ」
「キュッ!!」
『これがいい!』
チビドラゴンが選んだ紙の上に座り、一鳴きする。
「はい!決まりました!今日から、『ちーちゃん』です!」
部屋いっぱいに拍手が起きる。
「あら、可愛いじゃない!」
「可愛い名と見せかけて、『万物全ての血を支配』するという事か!」
「キュッキュィィ!」
(みんな、ありがとう)
「あ!忘れてた。最近、川に釣り人を襲う魔物が出ると報告がありました!
皆さん、危ないので絶対に川には近づかないようにね~」
施設長が注意喚起をしていたのを聞いた時、2人の影が部屋から消えた。
◇
森を高速で駆け抜ける2人のおじいちゃんがいた。
「ふははは!!今日はお前と気が合うな!」
「今日だけじゃぞ?マスターの手を煩わせる前に、決着をつけてやろうではないか」
ザザッ
「ここじゃな」
「ああ。不穏な魔力が揺らいでいるぞ」
ベルゼ(元魔王)とフォード(元剣聖)が、揃って釣り竿を背中に担ぎ
川岸に立つ。
巻き戻ったその鋭い眼差しを川へと向けていた。
「……ふん。あの『川の主』を釣り上げてやろう。
あれを釣れば、我の釣り師としての名声も盤石というもの」
「ハッ!何を言う、魔王よ。魔物の詳細が分からぬのだ。
ヌシが魚じゃない場合もあるじゃろう?」
「ほう~。さてはフォード釣りは苦手か?」
「くっ!なんじゃと?!野営で何度も釣ったんじゃ。馬鹿にするでない!」
二人は魔物退治から「どちらが先に川の主を釣るか」という勝負に変わってしまった。
一方、施設では……。
「あれ……2人がいない。チーフ!!大変です!」
ロイドくんは、私を呼んで見当たらない2人の捜索に外へ出た。
【この持ち主の元へ飛んで】
私は、ベルゼおじいちゃんのタオルをかがせる。
「コケェッ!!」
「落とさないでください……ねぇぇえ!!ぎやぁぁああ!!早いよぉぉ!!!」
コッコちゃんに乗ったルルとロイドは、山の方へ爆速で飛んでいき
現場に着くと、すでに川の光景は変貌していた。
ベルゼは「魚を寄せるため」と言いながら、川全体を魔力で凍らせて動きを止め。
フォードは「邪魔な障害物」と言いながら、聖剣で川沿いの岩場を真っ平らに切り崩していた。
「あー!もう!二人とも何をしてるんですか!!釣りって言ったら、
もっと静かに糸を垂らすものでしょう!?」
【ロイドくん、そこじゃない。】
ロイドの悲鳴も虚しく、二人は獲物の気配を察知して杖と剣を構える。
「シッ!……来た。川の主だ。次元の歪みを感じる……」
「ふん、まとめて釣り上げてくれるわ!」
二人が本気の力で竿を振るうと、川の水が大きくうねり、巨大な水柱が上がった。
しかし、釣れたのは魚ではなく、時空の彼方にいたはずの謎の深海魚や、巨大な魚、さらには別の時代の古代生物までが大量に空から降ってきた。
「ちょっと、魚の種類が違うんですけどおおぉ!!?」
ロイドが空から降ってくる巨大な魚達を避けながら叫ぶ。
その時、空が暗転し、川の主らしき巨大な人魚が姿を現した。
川が干上がり、一帯の生態系が崩壊する危機が迫る。
「あれが黒幕じゃ!ベルゼ行くぞ!!」
「分かっておる。お前の剣で貫け!!我の力を貸してやる」
ベルゼの暗黒色の魔力が、フォードの剣に絡み漆黒色に輝きだした。
その後、黒い霧は人魚の周りを囲んだ。
「滅びよ!!」
ザクッッ!!
ギィエエェェェェ!!……ガランッ!
紺色の大きい魔石が地面に転がった。
「ふん。手ごたえがない魔物じゃった」
フォードおじいちゃんは、剣を鞘にゆっくりしまった。
「見事だったぞ、フォードよ。ま、我の魔力が最強だったからな」
「なんじゃと?!……。まぁいい。ありが……」
フォードが感謝の言葉を途中で言いかけた時、コッコちゃんに乗ったルルが舞い降りた。
真っ二つに割れかけた川と、大興奮の老人たちを交互に見ると
冷静にスケッチブックを掲げた。
【川をこれ以上、壊したら夕飯抜き】
ジト目でカンペが掲げられた瞬間、ベルゼとフォードの動きがピタッと止まる。
「!?そ、そんな……マスターご勘弁を……。
あ、さっき魔物を倒した魔石です。お納めください!」
「夕飯抜き」という言葉が脳裏をよぎり、二人は即座に魔力と剣気を収めた。
川の水がドッと戻り、空から降ってきた魚たちがバチャバチャと川に帰っていく。
結局、川の主は釣れなかったが魔物は排除できた。
二人が暴れたおかげで、川辺には網一つで普通に釣れるサイズの魚が大量に浮き上がっている。
「はぁ……皆が無事だったから、まあいいか……。あぁ、魔力が足りないかも……」
ロイドは、地形修復の魔法を掛けながら体がふらつくと後ろからベルゼが支えた。
「我の責任だ。申し訳ない。」
ベルゼは、支えながら片手を川へ向けた。
ロイドの白い魔法と、ベルゼの漆黒の魔法が元の地形へと戻していく。
ゴゴゴゴゴゴッ……!
「助かりました。ベルゼさん!」
「いいのだ。手加減が出来なかった我々のせいなのだから」
【皆、お家へ帰りましょう】
(もう危ないことしないでね)
夕方には園の庭で、交えた賑やかな魚焼きパーティーが開かれた。
ロイドが疲れた顔をしながら、魚をさばき『ちーちゃん』は火を吹きながら焚火の管理をしている。
「マスターに叱られたからな……」
ベルゼとフォードは、しょんぼりしながら二人で一緒に魚の塩焼きの準備を始めた。
「は~い!魚が焼けましたよ~!」
「……お!これは美味い!」
「魔王、そこはもっと弱火の所で焼かんか!」
平和な夕暮れの中、皆は満足そうに魚を頬張る。
ロイドもまた、焼き上がった魚を一口食べ、今日の騒動を忘れることにした。
「明日こそ、平和に過ごせますように……」
ロイドはそう願いを呟いたが、この騒がしい日々が少し心地よかったりしている自分に気づき、小さく苦笑していた。
ロイドの独り言を、伝説の英雄たちは聞いていなかった。彼らはすでに、次の「網焼き釣り大会」の作戦会議に夢中になっていたのだから




