第十話:タコさんウィンナーを守れ!盗賊VSロイド
国王の視察から一週間後。
増額された国家予算(おやつ代)の使い道として、私と施設長はとある画期的なイベントを企画した。
それが、今回の『白銀輝の園・初夏の遠足』である。
行き先は、施設から徒歩20分ほどの場所にある、美しい緑に囲まれた『フォリアの丘』。
おじいちゃんやおばあちゃん達の健康維持と、気分転換にはもってこいの場所だ。
「さあ皆さん、お荷物は持ちましたかー?列を乱さずに、チーフの後をついていってねー!」
施設長がゆるい声で黄色い旗を振る。
私は遠足用の麦わら帽子をかぶり、リュックを背負って、いつものスケッチブックを掲げた。
【皆さん、はぐれないように手を繋いで歩きましょう】
「ハッ!了解いたしました。マスター!!」
フォードおじいちゃん(82・元剣聖)が、ベルゼおじいちゃん(1200・元魔王)の手をギュッと握りしめた。
「おいフォードよ、貴様の国を滅ぼした我が手と握るとは、良い度胸ではないか」
「ふん、今日の私は『マスターの遠足』の兵卒(園児)だ。過去の恩讐など、マスターの前には塵に等しい!」
(いや、ただ散歩のルールなんだけど……。というか、おじいちゃん達の握力が強すぎて、
繋いだ手の間から空間がミシミシ歪んでるんだけど大丈夫かな……)
私を先頭に、仲良く(?)手を繋いで歩く伝説の英雄と魔王たちの列。
その後ろでは、お弁当の特大重箱をリュックに背負い、入らなかったものを両手に持ったロイドくん(本日まだ無傷)が、ぐったりしながらついてくる。
さらにその横を、体長5メートルのコッコちゃん(元・不死鳥)が、私のリュックに入ったトマトを狙ってトコトコと大人しく歩いていた。
街の外に出ると、すれ違う旅人や冒険者たちが次々と道を開けて道端の端に逃げていく。
「ひ、ひえぇぇぇっ!?伝説の剣聖と、大魔王と、不死鳥が……手を繋いで進軍している……ッ!?世界が、世界が滅ぶぞォォォッ!!」
(失礼だな、ただの遠足なのに。ほら、みんなで歌でも歌いながら行きましょう)
私がスケッチブックに
【散歩の歌を歌いましょう】
と書いて掲げると、おじいちゃん達は「御意!!」と叫び、地響きのような大合唱を始めた。
あまりの声量に、近くの森の細めの木々がバサバサとなぎ倒されていく。
そんな勘違いの進軍が、丘の麓に差し掛かった時のことだった。
「全員止まりな!俺たちはこの一帯を荒らす『黒い影の盗賊団』だ!
命が惜しけりゃ、持っている荷物をすべて置いていきな――」
森の茂みから、総勢五十名ほどの武装した盗賊団が、武器をギラつかせながら飛び出してきた。
(私たちが楽しみにしている「唐揚げとタコさんウインナー入り特大お弁当」を強奪しようという不届き者かな)
【皆の大事なものなので、荷物はあげれません】
「羽振りがいいって、酒場で聞いたんだ。金貨沢山持ってんだろ?!」
「持ち物はお弁当だけですから!!金貨なんて入ってないですよ!」
ロイドが必死に横で叫んでいるのを聞いた私は、ハッとそこで気づいた。
(あ……お弁当目的じゃなかったのか)
私も日ごろの皆が勘違いしているのを、もう言えないなと思った矢先。
「あ……」
ロイドくんが、一瞬後ろを振り返り。天を仰ぎ始めた。
私も振り返って後ろを見ると……。
手を繋いでいたフォードおじいちゃんとベルゼおじいちゃんが、ピタッと歌を止め
冷酷無比な「現役時代(巻き戻り)」の目をギラリと光らせている。
「ほう。マスターの遠足を邪魔する羽虫(刺客)か。……フォードよ、今回はどちらがより多く首を狩るか、勝負とするか?」
「ふん、よかろう……ベルゼ。我が聖剣の錆にしてくれるわ」
盗賊団が半径数キロメートルごと消し飛ぶ近未来が確定した。
私は慌ててスケッチブックを開き、マジックペンを猛スピードで走らせた。
そして、殺気全開のおじいちゃん達の目の前に、バッと掲げた。
【喧嘩したら、タコさんウインナーあげません】
「……なっなんだと!!」
世界を滅ぼせる二大巨頭が、同時に息を呑んで硬直した。
「た、タコさん……ウインナーだと……ッ!?あの、足が綺麗に広がった、
マスター特製の至高の赤き魔物を、抜きにされるというのか……!?」
おじいちゃん達は、絶望のあまりその場にガタガタと崩れ落ちた。
私はそのまま、さらにページの余白に追撃の指示(現場の判断)を書き加える。
【ロイドさん。あの人たち(盗賊)を魔法でどかしてください】
【おじいちゃん達にやらせると、お弁当に血が飛ぶので】
それを見たロイドくんは、ハッと目を見開いた。
(……そうか!マスターは、伝説の英雄たちの手を汚すまでもない。
あんな雑魚は新入りの私一人で片付けろ、という試練を課されているんだ……!
ここで成果を出さねば、私のタコさんウインナーも消える……!!)
「ふふふ……。マスター、お任せください!!私が魔力をもって、
不届き者を排除いたします!!『爆炎』!!」
ロイドくんが気合いを込めて杖を突き出すと、盗賊団のど真ん中で大爆発が巻き起こった。
ドガァァァァァン!!!
「ギャァァァァッ!?なんだ!魔法使い本気すぎるだろぉぉぉ!!」
盗賊団は一撃で消し飛び、全員が綺麗に黒焦げになって夜空の星へと変わっていった。
もちろん、爆風の跳ね返りをモロに喰らった最前線に居たロイドくん自身も、本日一発目の「完璧なアフロ黒焦げ」へと仕上がっていた。
「はぁ、はぁ……マスター、やりました……」
煙を吐きながら親指を立てるロイドくん。
私はいつもの真顔のまま、頷き親指を立てた。
スケッチブックのページをめくり、サラサラと書いてロイドに見せた。
【よくできました。ロイドさん、お弁当が無事でよかったです】
【さあ、丘の頂上でお弁当にしましょう】
「おおお!守り切ったぞぉぉお!マスター、万歳!!」
おじいちゃん、おばあちゃん達は、タコさんウインナーの生存に大歓声を上げ、再び仲良く手を繋いで丘を登り始めた。
その様子を、ボロ雑巾のように倒れた盗賊団の頭領が、震えながら見上げていた。
その中に、施設で捕まえたはずの会計士が紛れていた。
「あ、あの女だ……。一言も喋らねぇのに、伝説の化け物どもを今回は『タコさんウインナー』という謎の隠語(精神呪縛)だけで完璧に統率し、部下の魔導士に一瞬で俺たちを殲滅させた……。
あの麦わら帽子の少女こそ、この世界の裏に君臨する、真の『遠足の支配者』なんだ……ッ!!」
こうして、盗賊団の壊滅という、極めて平和(?)なイベントを経て、私たちは無事にフォリアの丘に到着した。
「はーい!皆さん仲良く食べましょう!」
お弁当を配り終わり、施設長がご飯タイムのアナウンスをする。
「我のタコさんウィンナーの方が大きいぞ!ふはははは!」
「外で食べるお弁当は美味しいね」
皆の楽しそうな姿を見た私は、心が少し温かくなった。
(皆、楽しそうで良かった。早起きして作った甲斐があったな)
青空の下、みんなで食べるお弁当は格別に美味しく、少女は今日も真顔のまま、世界の平和(とお弁当の平和)を守り抜いたのだった。




