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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第81話 ティナ編1/3:雨の降らない、雨の谷


 「ひゃいっ!?」と声が出てしまった理由を話すには——少しだけ、時間を巻き戻さないといけない。



 私、ティナ・レーゲンタールの苗字は「雨の谷」という意味らしい。


 代々、水魔法の家系。おじい様も、お父様も、親戚のおばさまたちも、みんな当たり前に水を出す。家の紋章は、雨粒と谷。


 そして私は、その家に生まれて——水が、出せなかった。


 水だけじゃない。風も、火も、ぜんぶ。的の手前で、いつも魔法が消える。六年間、ずっと。


 お父様は、何も言わなくなった。何も言わずに、ため息だけが上手になった。お母様は「大丈夫よ」と言ってくれる。でも、その目の奥が笑っていないことくらい、子供でもわかる。


 親戚の集まりが、いちばん苦手だった。同い年のいとこたちが、庭で水の輪をくぐらせて遊ぶ。そのたびティナは、お茶のおかわりを取りに行くふりをした。


 学園では、後ろから数えたほうが早い席。


 ——なんで、できないんだろう。


 ——これ以上、何を頑張ればいいんだろう。


 誰も、教えてくれなかった。先生に聞いても、「魔力を込めて、詠唱する」しか返ってこない。それは六年間、毎日やっている。



 ひとつだけ、後ろめたい安心があった。


 同じ学年に、自分よりできない子がいたのだ。


 "才無し侯爵"。完全詠唱をしても、指先の火しか出ない子。みんなが陰でそう呼ぶのを聞くたび、ひどい、と思った。思いながら——心のどこかで、ほんの少しだけ、安心していた。


 私は、最後尾じゃない。


 ……最低だ、と思う。今でも思い出すと、胸がちくりとする。



 だから、あの日のことは、忘れられない。


 実技の授業で、その子が——ピリカ・ベルフォードが、風で的を倒した。


 六年間、何も出せなかった子が、である。


 教室がざわつく中、ティナは、震える足で近づいて、人生でいちばんの勇気を出して、聞いた。


「あの……コツとか、あるのかな」


 ピリカは、困った顔をした。とても、困った顔だった。


「……ごめん。うまく、説明できなくて」


「そ、そっか。ごめんね、変なこと聞いて」


 ティナは、逃げるように席に戻った。


 顔が熱かった。断られた。やっぱり、教えたくないよね。せっかくできるようになった、大事な秘密だもんね。


 ——でも。


 席に着いてから、ふと思った。あの子の顔は、意地悪の顔じゃなかった。本当に、心の底から、困っている顔だった。まるで「教えたいのに、教えられない」みたいな。


 ……考えすぎかな。



 それから、学園は事件続きだった。その中心は、全部あの子だった。


 あのアリサ・ヴァイスフェルト様に、模擬戦で勝った。


「魔法が、消えたんだって」


「最後、殴ったらしいよ」


「は? 殴った?」


 廊下の噂は、どこを切っても、意味がわからなかった。


 そして、魔法大会。


 ティナも観客席にいた。一回戦、相手が詠唱を終える前に距離を詰めて、一撃。二回戦、大きな男の人を、二発。三回戦、飛んでくる炎を、消して——。


 決勝の相手は、アリサ様だった。空を覆う巨大な火の鳥。そして、たぶん、あの子が起こした——太陽みたいな大爆発。何が起きたのか、ぜんぜんわからなかった。


 結果は、同率優勝。


 あの、才無し侯爵が。私が、後ろめたい安心の材料にしていた、あの子が。学園史上最高の天才と、並んだ。



 表彰式の日、大講堂の拍手は、まばらだった。


 みんな、まだ信じていなかったのだと思う。何かの間違いだとか、卑怯な手だとか、そんなささやきも聞こえた。


 ティナは、まばらな拍手の中で——たぶん学園でいちばん強く、手を叩いていた。手のひらが痛くなるくらい。


 隣の席の子が、変な顔でこちらを見ていた。——構うものか、と思った。生まれて初めて、そう思えた。


 だって、あの子は、証明したのだ。


 六年間できなかった人間が、できるようになる道が、この世のどこかにあるということを。


 ——聞きたい。どうやったのか、もう一度、聞きたい。


 ——でも、もう一度あの困った顔をさせたら、と思うと、足がすくんだ。



 結局、聞けないまま、何ヶ月かが過ぎて。


 ある日の昼休み、廊下で。


「ねぇ」


「ひゃいっ!?」


 振り向くと——その子が、立っていた。



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