第68話 ピリカ・ピリーラ
翌朝。
ピリカは、目の下にうっすらクマを作って、朝食の席に現れた。
なのに、顔は妙に晴れやかだった。
「お師匠様! できました!」
ばん、と。テーブルの上に、一枚の紙が置かれた。
グリモワルドは、コーヒーをすすりながら、それを見下ろした。
⸻
「まず、名前です。——『ピリカ・ピリーラ』!」
「…………なんじゃ、その呪文みたいなのは」
「な、名前です! お店というか、商売ぜんぶの!」
「ピリカ・ピリーラ……」
グリモワルドは、口の中で二回ほど転がした。
「……ピリーラとは、なんじゃ」
「意味は、特にないです! でも、口に出すと楽しくて、一回聞いたら忘れない感じがしませんか? ピリカ・ピリーラ」
「ふむ。……ピリカ・ピリーラ」
「ピリカ・ピリーラ」
「…………たしかに、耳に残るのう」
「でしょう!」
⸻
「で、こっちが印です」
ピリカは、紙の真ん中を指差した。
小さな灯火が、ひとつ。
その灯火を、シンプルな円が囲んでいる。
夜通し描いては丸めてを繰り返して、ようやくたどり着いた、私の印。
グリモワルドは、しばらくそれを眺めて——言った。
「まぁ、いいんじゃないか?」
「…………」
軽い。あまりにも軽い。
「お師匠様。本音は?」
「正直、良し悪しなんてわからん」
即答だった。
「絵なんぞ、わしの人生で一番縁のなかった分野じゃ。良いとも悪いとも、判断のしようがないわ」
「確かに、ですよね!!!」
ピリカは、逆にすっきりした。
考えてみれば、この人に絵柄の善し悪しを聞くのが間違っていた。服は年中同じローブで、家具は座れて物が置ければそれでいいという人だ。
「これでいきます!」
「別にええぞ」
グリモワルドは、コーヒーを置いた。
それから、もう一度、紙を手に取った。
「ちなみに、この絵の意味は——」
皺だらけの指が、灯火を、それからそれを囲む円を、順番になぞった。
「真ん中のこれは……決勝戦でお主が出した、あの灯火じゃろう。そしてこの円は——水素爆発の衝撃波かのう。何かこの絵に込めた意味でもあるんか?」
ピリカは、目を見開いた。
——わかるんだ。一目で。
デザインはわからないと言ったその口で、これが何かは、何も言っていないのに読み取ってしまう。
「ええ、その通りです!」
ピリカは、胸を張った。
「そして、この絵柄が意味しているのは——」
窓から差し込む朝の光の中で、ピリカは、楽しそうに語り始めた。




