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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第67話 ブランド、という条件

 その日の夜。


 グリモワルドの家の居間で、ピリカは机に向かっていた。


 目の前には、紙の山。


 お披露目の会でもらった注文の書き付け。親方に送る手紙——追加の注文が二十件を超えたこと、それから、値段が十倍になったこと。これは絶対に、親方に二度見される。あとは、来週の石鹸職人さんとの顔合わせまでに、聞きたいことを書き出しておかないと。


 羽ペンを走らせながら、ふと、手が止まる。


 (そういえば……お湯を沸かすあの道具も、商品にできないかな。あの、温かいまま保てるコップも……)


 気づけば、手紙の端っこに、次の商品の候補をこっそり書き付けていた。


「なんだか最近、夜遅くまで頑張っておるのう」


 声がして振り向くと、グリモワルドが、コーヒー片手に立っていた。


「何しておるんじゃ?」


「あ、お師匠様。えっと——」


 ピリカは、今日一日の報告をした。


 お披露目の会が大成功だったこと。注文が二十件を超えたこと。お兄様の助言で、値段が十倍になったこと。


「ほう。兄のやつ、わかっとるのう」


 シャンプー作りも、お母様と一緒に始まること。


「かっかっか。あの母親の勢いなら、もう半分できたようなもんじゃな——それで? その端っこの書き付けはなんじゃ」


「う」


 見られてた。


 ピリカは観念して、メモを差し出した。


「その……お師匠様の家にあるもので、他にも商品にできそうなものを、書き出してて。あの、勝手にすみません。ちゃんと許可をいただいてから、ご相談しようと思って、その、準備だけ……」


 お湯がすぐに沸く、あの道具。冷たいまま保てるコップ。食べ物が悪くならない、あの不思議な箱。


 グリモワルドは、メモをしばらく眺めて、ふむ、と鼻を鳴らした。


「——ドライヤーだけで終わることもあるまい。うちにあるもの、なんでも作れ」


「え」


 ピリカは、目をぱちくりさせた。


「い、いいんですか。いいか聞こうと思っていたんですけど」


「最近のお主は、いい顔をしているからな」


 グリモワルドは、コーヒーをすすった。


「忙しいが、充実した顔じゃ。そういうのが、向いていたんじゃろう」


「……!」


 不意打ちだった。


 ——お兄様にも、言われたっけ。いい顔をするようになったな、って。


 じわっと熱くなった目元を、ピリカは瞬きでごまかした。


「ただし」


 グリモワルドが、人差し指を立てた。


「——ブランドをつけよ」


「ブランド……ってなんですか?」


「みな、お主の品だとわかる、印のようなものじゃ。何か考えよ」


「印……ですか?」


「うむ。お主を表す同じ紋章を、すべての商品に入れるんじゃ。見た者が『これはピリカの品だ』と、ひと目でわかるようにな」


 グリモワルドは、向かいの椅子に腰を下ろした。


「ええか。物が売れればな、必ず真似をするやつが出る。模倣品が出るぞ。——すぐにな」


「も、模倣品」


「そうなった時に、お主の本物と偽物を見分ける印が要る。——それにな、印には、別の働きもある」


「別の働き?」


「お主の商品の信用が、そのまま次の商品に繋がるんじゃ。『この印の品なら、間違いない』とな。ドライヤーで信用を得れば、次のケトルは、最初から信用された状態で売れる」


「信用が……繋がる……」


「その代わり」


 グリモワルドの声が、すこしだけ低くなった。


「一度でも変なものを売れば、印ごと、全部の信用が崩れる。途端に、何もかも売れなくなるぞ。——心せよ」


 ピリカは、ごくりと唾を飲んだ。


 便利な話を聞いていたつもりが、最後に、ずしりと重いものを手渡された。そんな感じがした。


「考えてこい。名前と、印を」


「な、名前と、印……」


「お主の商売の、顔になるものじゃ。じっくり考えるとええ」


 グリモワルドはそれだけ言うと、コーヒーを持って、奥に戻っていった。



 その夜。


 ピリカは、後処理の紙を脇に寄せて、新しい紙を引き寄せた。


 名前と、印。私の商売の、顔。


 (名前は……うーん。私の名前からかな。なにか……ピリカ……ピリカの……)


 描いては、丸める。描いては、丸める。


 足元に、紙の玉が、ころころと転がっていく。


 (あと、印……。私を表すもの。私らしい、もの……)


 ふと、ペンが止まった。


 窓の外の暗がりに、遠くの街の灯りが、ぽつ、ぽつ、と滲んで見えた。


 ——灯火。


 何百回唱えても、灯火にしかならなかった、私のファイアボール。


 (…………あ)


 ピリカは、新しい紙の真ん中に、そっとペンを置いた。


 その夜、居間の明かりは、ずいぶん遅くまで点いていた。


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