第38話 弟子入り2
「さて——」
グリモワルドが椅子に深く座り直した。
「ここまで聞いて、まぁ、あやつが"魔法"を教えとることだし、わしが教えるとしたら"魔術"になるが——正式に弟子になるか?」
アリサを見る。
「——と言っても、その顔を見ていると訊くだけ野暮かもしれんが」
「アリサ、すっごいキラキラワクワクした顔してるね。そんな顔するんだ」
ピリカが、にやにやしながら覗き込んだ。
「え、わ、私そんな顔してた!?」
アリサが両手で頬を押さえた。——熱い。自分でも気づかないうちに、表情に出ていたらしい。
「よろしく、お願いします……!」
アリサは椅子から立ち上がって、深く頭を下げた。
「うむ。では——」
グリモワルドが、少し芝居がかった調子で言った。
「弟子入りするなら、これからわしのことは"お師匠様"と呼ぶが良い」
「……あの、私の時もそうでしたけど」
ピリカが手を上げた。
「お師匠様という呼び方には、何かこだわりがあるんですか?」
「なんかかっこいいじゃろ」
「そ、そんな理由だったんだ……」
⸻
アリサは——もう何も考えられなかった。
魔法の常識が覆された。超級魔法の短縮詠唱を見せられた。コーヒーの遠心分離をやらされた。魔術という概念を知った。そして今、弟子入りが決まった。
——情報量が、多すぎる。
頭がぐるぐるしている。
「あ、お師匠様、割とこういう人だからね」
ピリカが、くすくす笑いながら言った。
「全部真面目に受け取ると疲れちゃうよ。適当に力を抜いていいところと、真剣に聞くところの区別は——まぁ、そのうちわかるから」
「……は、はい」
⸻
アリサは椅子に座り直した。コップに残っていたコーヒーを飲んだ。——もうすっかりぬるくなっていたけれど、不思議と美味しかった。
「……お師匠様」
「ん?」
「……よろしくお願いいたします」
「おう。よろしくの」
グリモワルドが、ふっと笑った。——穏やかで、意外と気さくな、ただの老人の笑顔だった。




