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魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】の各話一覧  作者: Koh


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第31話 夜のグリモワルド邸〜ピリカとグリモワルドの場合

 夜。グリモワルドの家。


 棚に並んだ二つのコーヒー豆の瓶——太陽のマークと、月のマーク。月の方から豆が浮き上がり、いつもの魔法でコーヒーが出来上がっていく。


 以前ピリカが尋ねた時、グリモワルドが何やら説明してくれたが、今のピリカに理解できたのは「月の豆は "眠気を飛ばす成分" が抜いてある」ということだけだった。



 二人はいつもの椅子に座って、コーヒーを飲んでいた。



「対戦相手——アリサと言ったな。素晴らしい才能の持ち主じゃったの」


「本当にそうだと思います。あのファイアボールの弾幕を維持しながら超級魔法の詠唱を通すなんて、とんでもない集中力ですよ」


 ピリカは、コップを両手で包みながら頷いた。


「そして雨が降ってよかったのぅ。まさに恵みの雨。アリサの火魔法は弱まり、水素爆発は格段にやりやすくなる」



「そうですね」


 ピリカが、少し目を逸らした。


「前日の夜に忍び込んで会場に水を撒いておく必要がなくなって、助かりました」



「……おぬし、そんなことやろうとしてたのか」


「まず間違いなく、アリサは私の決勝までの戦い方を分析してる。きっと遠距離から押し潰してくるから、近づいて殴る隙なんて与えてくれないだろうって思ってたんです」


 ピリカはコーヒーを一口飲んだ。


「おそらく水素爆発しか勝ち筋はないだろうなって。いえ、近づいて殴れればそれが一番楽ではあったんですけど」



「お師匠様も言ってたじゃないですか」


 ピリカが、グリモワルドを見た。


「"弱者が勝ち方を選んでる場合じゃない、勝つことの方が百倍大事"って。それに前日に会場に水を撒いちゃダメです、なんて規定はないわけで」


「お主、意外とやるのぅ……!」


 グリモワルドが愉快そうに笑った。



 しばらく、静かな時間が流れた。


 グリモワルドがコップをテーブルに置いた。


「あそこまでこちらにとって理想的な状況で、あのギリギリの引き分けじゃ。雨じゃなければ完全に負けてたの」


「それは間違いないですね」


 ピリカは少し笑った。


「まぁ、運も実力のうちってことで」


「かっかっか! 間違いない!」



 ピリカがコップを膝の上で包んだ。そして、ぽつりとこぼした。


「……それにしても、世代一位なんて。夢にも思ったことなかったのに。ほんとになっちゃいましたね」


「正直、わしは全然いけると思っとった」


「え、そうなんですか?」


「窓から見てた時の、お主の努力の才能を鑑みてな」


「そ、それほどでも……」


「ただ——予想以上の相手の強さと……」


 珍しく、グリモワルドが少し言い淀んだ。


「相手の強さと……?」


「予想以上のお主のセンスのなさが……」


「こんな日にまでそんなことを言って!!!」


「かっかっか! まぁ、それでも同率優勝じゃからいいじゃないか」


「それはそうなんですけどね!!!」



 三ヶ月間、ずっと張り詰めていた糸が——ふっと、緩んだ。


 ゆるく笑い合う二人の声が、その夜は遅くまで響いていた。


 ——この家に来てから、毎日規則正しく訓練を重ねてきた。夜はいつも早く寝ていた。こんなふうに夜更かしをするのは、ピリカがここに住むようになって初めてのことだった。


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