第七話
轟音は、
音というより“圧力”だった。
見えない何かが、
空間ごと侵食体を押し潰す。
黒い群れが空中で止まり、
次の瞬間、
一斉に崩壊した。
バキ、ボロ、という嫌な音。
侵食体たちの身体が、
砂みたいに砕け散る。
黒い粒子が吹雪のように舞った。
トワは思わず目を覆う。
寒い。
気温じゃない。
レンの周囲だけ、
世界から熱が消えている。
ユラが怯えて、
トワへしがみついた。
『イヤ……!
キエル……!』
レンの力。
あれは、
“消している”。
魂ごと。
侵食体たちは断末魔すら上げられず、
次々に崩れていった。
だが。
一体だけ。
最後尾にいた侵食体が、
消えなかった。
黒い影が、
屋上端へ張り付きながら、
ぐちゃりと顔を歪める。
その目が、
真っ直ぐトワを見た。
瞬間。
頭の奥へ、
声が流れ込む。
『カミノコ』
トワの身体が凍りつく。
侵食体が笑った。
裂けた口で。
『ミツケタ』
「っ……!」
次の瞬間。
侵食体が、
一直線に飛びかかってきた。
速い。
レンですら反応が一瞬遅れる。
「神崎!!」
避けられない。
そう思った瞬間。
トワの腕の中から、
白い光が弾けた。
『ヤダ!!』
ユラだった。
小さな身体から、
眩い金色の光が広がる。
瞬間。
侵食体の動きが止まった。
黒い身体が、
じゅう……っと音を立てる。
浄化されている。
まるで、
汚れが焼かれるみたいに。
『アアアアア!!』
侵食体が絶叫する。
トワの脳へ、
大量の感情が流れ込んだ。
苦しい。
寂しい。
怖い。
助けて。
――死にたくない。
「……っぁ!」
トワは頭を押さえて膝をつく。
涙が勝手に溢れる。
侵食体の感情。
いや。
“人間だった頃”の感情だ。
レンが目を見開く。
「……浄化?」
驚いた声。
ユラは必死に唸りながら、
侵食体を押さえつけている。
だが小さな身体が、
少しずつ黒く侵食され始めていた。
『クルシ……』
「ユラ!」
トワが手を伸ばす。
その瞬間。
侵食体が最後の力で、
ユラへ噛みつこうとした。
だが。
「触るな。」
レンが侵食体の首を掴む。
瞬間。
空気が凍った。
レンの瞳の奥が、
底なしの闇へ変わる。
侵食体が震える。
恐怖している。
そして。
レンは静かに呟いた。
「もう眠れ。」
侵食体の身体が、
音もなく崩壊した。
今度は苦しむ様子もなく。
静かに。
まるで最初から存在しなかったみたいに、
黒い粒子になって消えていく。
静寂。
風だけが吹いている。
トワはその場に座り込んだまま、
息を切らしていた。
ユラがふらふらと戻ってくる。
『トワ……』
「ユラ……!」
抱きしめる。
温かい。
ちゃんといる。
それだけで、
少し泣きそうになった。
レンは数歩離れた場所で、
黙ってその様子を見ていた。
そしてぽつりと呟く。
「……やっぱり。」
トワが顔を上げる。
レンは、
初めて見るくらい真剣な目をしていた。
「君、
本当に“神の子”なんだ。」




