第六十七話
神籍管理局東京支部。
応接室。
少女は窓の外を眺めていた。
春の風が木々を揺らしている。
「きれい……。」
その一言に、トワは微笑んだ。
「桜、好き?」
少女は少し考えてから、小さく頷く。
「……たぶん。」
「覚えてないけど。」
「好きだった気がする。」
その答えに、トワは立ち上がる。
「じゃあ、行こう。」
レンが振り向く。
「どこへ?」
「現場。」
「依頼を解決するには。」
「この子が歩いてきた場所を見るのが一番だから。」
スズはすぐに地図を広げた。
「少女が最初に確認されたのは、東京都内の小さな公園です。」
「公園?」
「はい。」
「誰もいない早朝。」
「桜の木の下で、一人座っていました。」
◇
一時間後。
トワたちは公園へ着いた。
小さな公園だった。
滑り台。
ブランコ。
古いベンチ。
そして、大きな一本桜。
少女はゆっくり歩き出す。
一歩。
また一歩。
やがて桜の木の前で立ち止まった。
「ここ。」
「ここで目が覚めた。」
トワは地面にしゃがみ込む。
そこには、小さな木札が半分埋まっていた。
土を払う。
木札には、かすれた文字。
「さくら」
少女がその文字を見つめる。
しばらく黙っていた。
やがて。
涙が一粒、頬を伝う。
「……私。」
「この名前。」
「好き。」
トワは首を横に振った。
「それが本当の名前かは、まだ分からない。」
「でも。」
「誰かが、君のためにここへ残した大切な手がかりかもしれない。」
少女は木札を両手で包み込む。
風が吹く。
桜の花びらが舞う。
その瞬間。
神籍管理局の端末が静かに反応した。
スズが画面を見る。
「局長。」
「記録が更新されています。」
画面には一行だけ。
未登録魂 識別開始
仮称:さくら
トワは少女へ微笑みかけた。
「本当の名前が見つかるまで。」
「神籍管理局では、君を『さくら』と呼んでもいい?」
少女は、今までで一番優しい笑顔を見せた。
「……うん。」




