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神籍のトワ  作者: 灯野 しおん
第四章 高天原の呼び声

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第六十七話

神籍管理局東京支部。


 応接室。


 少女は窓の外を眺めていた。


 春の風が木々を揺らしている。


「きれい……。」


 その一言に、トワは微笑んだ。


「桜、好き?」


 少女は少し考えてから、小さく頷く。


「……たぶん。」


「覚えてないけど。」


「好きだった気がする。」


 その答えに、トワは立ち上がる。


「じゃあ、行こう。」


 レンが振り向く。


「どこへ?」


「現場。」


「依頼を解決するには。」


「この子が歩いてきた場所を見るのが一番だから。」


 スズはすぐに地図を広げた。


「少女が最初に確認されたのは、東京都内の小さな公園です。」


「公園?」


「はい。」


「誰もいない早朝。」


「桜の木の下で、一人座っていました。」



 一時間後。


 トワたちは公園へ着いた。


 小さな公園だった。


 滑り台。


 ブランコ。


 古いベンチ。


 そして、大きな一本桜。


 少女はゆっくり歩き出す。


 一歩。


 また一歩。


 やがて桜の木の前で立ち止まった。


「ここ。」


「ここで目が覚めた。」


 トワは地面にしゃがみ込む。


 そこには、小さな木札が半分埋まっていた。


 土を払う。


 木札には、かすれた文字。


 「さくら」


 少女がその文字を見つめる。


 しばらく黙っていた。


 やがて。


 涙が一粒、頬を伝う。


「……私。」


「この名前。」


「好き。」


 トワは首を横に振った。


「それが本当の名前かは、まだ分からない。」


「でも。」


「誰かが、君のためにここへ残した大切な手がかりかもしれない。」


 少女は木札を両手で包み込む。


 風が吹く。


 桜の花びらが舞う。


 その瞬間。


 神籍管理局の端末が静かに反応した。


 スズが画面を見る。


「局長。」


「記録が更新されています。」


 画面には一行だけ。


未登録魂 識別開始


仮称:さくら


 トワは少女へ微笑みかけた。


「本当の名前が見つかるまで。」


「神籍管理局では、君を『さくら』と呼んでもいい?」


 少女は、今までで一番優しい笑顔を見せた。


「……うん。」

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