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神籍のトワ  作者: 灯野 しおん
第四章 高天原の呼び声

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第五十一話

世界が揺れた。


 トワの心ではない。


 魂そのものが。


 少女の言葉。


「あなたは私だった。」


 それが。


 あまりにも自然に響いた。


「そんなの。」


 トワは首を振る。


「ありえない。」


「うん。」


 少女は頷く。


「普通ならね。」


 そして。


 優しく笑った。


「でも。」


「私たち普通じゃないから。」


 トワは思わず吹き出しそうになる。


 こんな状況なのに。


 なぜか。


 少し安心した。


 少女の空気は。


 どこかトワ自身に似ていた。


 創世主が静かに口を開く。


「説明します。」


 神々も耳を傾ける。


「最初の世界は失敗しました。」


「生命が一人しか存在しなかった。」


「孤独は世界を壊した。」


 少女が苦笑する。


「私も結構泣いた。」


「結構どころじゃないでしょ。」


 創世主が珍しくツッコんだ。


 少女が舌を出す。


 少しだけ。


 空気が軽くなる。


「だから。」


 創世主は続ける。


「世界を閉じる時。」


「私は彼女の魂を消さなかった。」


 トワが息を呑む。


「消せなかった。」


「大切だったから。」


 少女は少し照れたように笑う。


「だから私は。」


「次の世界へ渡った。」


 風が吹く。


 天魂樹の葉が揺れる。


「何度も。」


「何度も。」


「何度も生まれ変わった。」


 神でもなく。


 王でもなく。


 英雄でもなく。


 ただの人として。


 農民。


 旅人。


 母親。


 子供。


 数え切れない人生。


「そして最後に。」


 少女はトワを見る。


「神崎トワになった。」


 胸が熱くなる。


 不思議だった。


 自分の人生なのに。


 誰かの人生を聞いているみたいで。


 でも。


 確かに繋がっていた。


 その時。


 少女の身体が揺らいだ。


「え?」


 トワが顔を上げる。


 輪郭が薄くなっている。


 まるで。


 消えかけているように。


「時間切れかぁ。」


 少女が笑う。


 けれど。


 その笑顔は寂しかった。


「待って!」


 トワが手を伸ばす。


「まだ話したい!」


 少女は嬉しそうに目を細めた。


「ありがとう。」


「でも大丈夫。」


「私は最初から。」


「あなただから。」


 トワの目に涙が浮かぶ。


 少女は最後に創世主を見る。


「ねえ。」


「今度の世界。」


「良い世界だったよ。」


 創世主が震える。


 何億年。


 何兆年。


 ずっと。


 聞きたかった言葉。


「そうですか。」


 涙が零れる。


「よかった。」


 少女は満足そうに頷いた。


 そして。


 光になる。


 白く。


 優しく。


 温かな光。


 その光は。


 トワの胸へ吸い込まれていく。


 最後に。


 声だけが残った。


『生きてね。』


『たくさん笑って。』


『私の分まで。』


 光が消える。


 静寂。


 トワは胸を押さえた。


 泣いていた。


 理由は分からない。


 でも。


 分かっていた。


 今。


 何万年もの旅が終わった。


 その瞬間。


 天魂樹が輝く。


 今まで見たこともないほど。


 強く。


 美しく。


 樹巫女が目を見開く。


「核が……。」


「目覚めてる。」


 天之御影も驚愕する。


「まさか。」


「神籍の完成。」


 全員がトワを見る。


 希望。


 夜。


 境界。


 そして。


 最初の人間。


 全てが一つになった。


 神崎トワ。


 その魂は。


 ついに完全な形へ辿り着いた。


 だが。


 その時だった。


 バキッ。


 嫌な音。


 誰かが顔を上げる。


 高天原の空。


 裂け目が。


 さらに広がっていた。


 そして。


 最上位存在が初めて立ち上がる。


 観測者たちが震える。


 創世主の顔が青ざめる。


「まずい。」


「来る。」


 トワが聞く。


「何が?」


 創世主は震える声で答えた。


「本体です。」


 裂け目の向こう。


 宇宙より大きな手が。


 ゆっくりと世界へ伸び始めていた。

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